謡えない放浪楽師と、謳う自動人形 (2)

「unlimited music works」

細い石の杭が並ぶ丘。

旧い伝承になぞらえて、ゴルゴダともラグナロクとも呼ばれる地。

我が友にして、相棒の自動人形《オートマタ》の少女は、涙を時折、拭いながら、その名も無き墓標を、ひとつひとつなぞり歩いていく。

失われた歌。

そのかけらを拾い集めるように。

「聖魔大戦、でしたっけ?」

ふいに問いかけられて、言葉に詰まる。

「あぁ。うん、そう。勇者と魔王のね。」

「結果は相討ち。それどころか、両軍ともに甚大どころの騒ぎじゃない被害で、結局、戦争を続けられなくなって平和が訪れたという。」

世界の半分が崩壊して、今もその後遺症に苛まれている。

勇者だの、魔王だの、今の自分らからすると、馬鹿らしくて仕方ない。どちらも世界をぶっ壊した張本人、大罪者だ。

「皮肉な話、ではあるね」

妙に喉が乾くのは、自嘲気味に響く自分の声に少し嫌気が差してるからだろうか。

「愚かしい、だなんて断罪する権利、ワタシにはありませんよ」

ふわっと微笑む人工の機械少女。

造られたのはその大戦の最中、「元は慰問用だったんですよ」と昔、呟くように話すのを聞いた事がある。

「歌、見つかった?」

「たくさん。歌曲拾遺師になんてならなきゃ良かったと思うぐらい。」

「ごめん。」

「なんで、謝るんです?」

理由は分からないけれど、どうしても誰かに謝って置きたかったのだ。

「なんで、だろうね。」

世界中に遺された歌謡・楽曲の残留意思を拾い集める、そんな旅になるだなんて、生まれた街を出たときは思いもしなかった。

偶然に彼女と出会い、無くした記憶を探す手伝いをして欲しいと頼まれ、一緒に旅をするようになって、早数年。

ただの旅芸人だったはずが、今や壊れた世界の修復の一端を担ってる。

不思議なもんだね、本当に。

「もう!」とふくれっ面をして見せ、彼女はわざとらしく居住まいを正す。

「ここにいる皆の想い。ちゃんと還してあげなきゃ、なんですからね。今夜は申し訳無さなんて感じてる暇ありませんよ?」

「う。ちょっと怒った?」

「いえ。気合入れ直せや、この阿呆、とは思いましたが。」

「やっぱり怒ってるじゃんよー。」

謳による鎮魂。それが、今日、この地を訪れた、もうひとつの目的だった。

「歌えそう?」

「当然。逆に訊きます。奏でられますか?」

不遜な笑み。悔しいが、この顔、少し、いや、結構好きなんだよなぁ。

「それさ、誰に訊いてるの?」

「ふふっ。愚問でしたね。」

「そろそろ、ご飯にしようか。」

「そうですね。しっかり腹ごしらえしとかないと」

夕暮れを見上げ、慰霊の教会へと戻っていく2人。

その日の夜、かつての戦場跡は、青白い炎に染まり、歓喜の声に包まれたという。

願わくば、永久の笑顔を。お休みなさい。

テーマ曲 「Last Night, Good Night」

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