続・インディゴの気分feat不可抗力



「やめてくださいッ!」
ひどく顔色を悪くした理生は俺を突き飛ばした。

「・・・ッこんなもの、汚らわしい!!」
脱衣所の床に突き飛ばされた俺は、理生が目に一杯の涙を溜め、次の瞬間バケツをひっくり返すように水滴を頬に伝わせるのを呆然と見つめていた。
一生懸命首の跡を手で擦っている。

思わず、俺は木島の肩を抱き寄せ包み込んだ。
「やめろ。擦るな、ひどくなるから・・・。」
この感情は一体何なのか。
保護欲なのか、同情か、それとも・・・。


でも確かに俺は木島に特別な感情を持ち合わせていた。もともとそんな可能性さえ知らなかっただけで、一度見つけてしまうともうそこには疑いようのない事実が広がっていた。


ここには鍵の掛けれるサウナルームがある。
俺はなけなしの理性で木島をそこに閉じ込める。シェードは閉めて、サウナはOFFのまま。
ひんやりと冷たいその部屋は、より互いの体温を求めた。

「し、士郎さん。や、やめてください。僕はこんなっ、、。」
やめてほしいと言う理生の二重のライン、下がった目尻、長い睫毛、薄い体毛、男にしてはやけに華奢で色っぽい身体、ぷっくりと厚みののある唇、、全てが俺を挑発している。

「僕は、けっ、汚れてしまいましたッ。
だから、士郎さんに触れてもらう資格はないんです。」
「誰だ!!お前にこんな、、俺の知っているヤツか?!」
「違います、、違います、、、。」

そのとき俺はその時忘れようとしていたことを思い出した。
俺の父は昔、男色の趣味があったと耳にしたことがある。

母と結婚するまでもしてからもその噂が絶えず、母はよく泣いていた・・・。
そんなまさか、、もうこの頃は落ち着いていると思っていたのに。

まさか、理生を手篭めにしている?


嘘だ、嘘だ!!
信じたくない!!
一気に2つの裏切りにあった気分だ。
体中の毛が逆立ち、脂汗が吹き出てくる。
目の前には実の父と関係をもつ男、
そして俺の、、理生。

もう訳が分からなくなって、俺は理生を押し倒した。
嫌がる理生の腕にこもる力は弱く、こうやってヤツを受け入れてきたのだと分からせた。

「なぜ、なぜもっと早く言わなかったんだ。なぜ、、俺はもっと早く気付いてやれなかったんだ、、。」

理生の眼鏡を外し、俺は聞く
「お前は、俺が嫌か?」

理生はゆっくりと首を横に振った。


昔、私がこの家に来たとき。
一見取っ付きにくそうに見えるあなたが一番に僕に心をひらいてくれた。
ご子息と使用人の関係ではなく、一人の人間として扱ってくれた。
器用ではない僕にいろいろなことを教えてくれた。あなたは本当はとても優しい。
そしてとても常識人だ。立場に浮かれることなく自分を持ち続けていられる。
だから、だからこそ、僕はあなたにとって邪魔でしかない。
あなたに道ならぬ恋をしているのだから。

何度、あなたの唇に触れることを妄想しただろう。あなたの髪を撫で、私の胸であなたを包んで安心させてあげたい。
そう願っただろう。



そう、僕はこの屋敷に士郎さんの使用人として雇われたわけではない。
本当は、彼の父に見初められたのだ。
男の妾として。

初老の男に抱かれるのは初めてだったけど、
年の分、余裕があり安心できた。
気ばかり焦って乱暴をする若い男にはうんざりしていたから。

いつもの務めのあと、そっそり主人の部屋を後にした私は、庭の木にもたれ掛かり小難しい本を楽しそうに読んでいるあなたを見つけた。
僕とは違う、別の世界の住人。
関わってはいけない人。
でも、君は僕に対等してくれた唯一の人なんだ。君には苦しまないでいてほしい。




「ハァ、ハァッ、、」
気がつけば君は僕から距離を取り、顔を手で覆っている。
僕の汚れに引いてしまったのだろう。
容易に洗い流せるものではない。
思い慕った人の性欲の捌け口にもなれなかったことが、惨めさを加速させる。


「家を出よう、二人で。」
あなたはそう言ってくれた。 
私を強く抱きしめ、やさしい口吻をした。
この世で初めてのキスのように感じた。
それは世界が煌めかせ、二人ならなんだって出来るという勇気を奮い立たせた。




そして数年後、

士郎さんは許嫁の女性と結婚し、2人の子供にも恵まれている。
会社の後継には弟である遼太郎さんが任され、
士郎さんは家を出て、自身の会社を立ち上げた。




今、私は士郎さんの会社で秘書として働いている。


(会社にて、士郎と理生が自分のデスクから互いに目配せをすると僅かに微笑み合う)

僕たちはまだ終わっていない。
このまま行くところまで行くつもりだ。

 


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