休暇先より【創作】

　親父、元気か？　こっちはとても楽しいぞ。空は広いし空気は濃くて新鮮だ。もうそっちに戻るのが嫌になるくらいだ。親父も意地張らないでついて来れば良かったのに。優大も寂しがってたぞ。おじいちゃんも一緒に恐竜見れたら良かったのに、て。
　それにしても、やっぱり実物を生で見るって経験は大事だよ。一回実物を見てしまうと、どんなによく出来た図鑑や模型もオモチャみたいに思えてくるんだ。優大も図鑑なんて放り出して、一日中ずーっと観察スケッチをしてるよ。それがもう楽しくて仕方ないみたいで、今じゃ恐竜のオスメスの区別とか、空気の酸素濃度の違いとか、あれはシダ植物でこれは何々で、なんて事をひっきりなしに喋ってるよ。あの大人しくて口下手だった優大が。これが実地教育ってやつの効果なのかな。あんなに目をきらきらさせた優大を見て、俺は自分の子供に最高の体験をさせてやれたと思ったよ。巷で流行りの脳内旅行なんかより、生身で感じるものが一番大事なんだ。
　それで、もし親父が良かったら、今度の冬休みこそは一緒に旅行に行かないか？　優大はライオンが見たいらしいから、古代南アフリカのサバンナにでも行ってみようかと思うんだ。もちろんツアコンがついて来るし、それでも心配なら安心オプションだって何だってつける。優大もおじいちゃんが来てくれたら喜ぶからさ。考えておいてくれないか。
　それから同封した写真は、優大のお気に入りの恐竜だよ。名前をつけて餌をやってる。右から、アパー、パトラ、パトタロウ、だってさ。あんまり可愛がるもんだから、戻ったらバーチャルペットで飼ってやろうかとも妻と相談してる。……その時は少し費用の方、協力してくれないかな。
　じゃあ、来週末には戻るから、お土産持って遊びに行くよ。もちろん化石じゃない、生の物さ。楽しみにしててくれ。