衣替え【創作】
あなたへ。
これを読んでいるという事は、もう夏になって、衣替えを始めたんですね。これはあなたの一番のお気に入りのシャツですから、私はここに手紙を残していく事にしました。見つけてくれてありがとう。
どうですか。一人暮らしには慣れましたか。それとも、やっぱり俊介たちと暮らしていますか。私にとってはその方が安心だけど……。
ごめんなさいね、私ばっかり早足で行ってしまって。
あなたが慣れない家事で不自由していないか、それだけが私の心残りです。料理も洗濯も掃除も、あなたは何とでもなるって笑ってくれたけど。でも私はその言葉を信じるしかないし、信じたいんです。だから、あなたがこうして衣替えを始めてくれた事が、とても嬉しい。日常を生きてくれているって分かるから。
あなた、今年は新しいシャツを買ってみたら。もっと明るい色が似合うと思うの。そうしてみて。
今度からは、あなたが選んで私に見せてください。
出会った頃から、結婚した時、俊介が生まれた時、二人きりの生活に戻った時、そして病気が発覚した時も、そのどんな時も、私はちゃんと幸せでした。それはどんな時もあなたがいてくれたからです。これだけは伝えたくて。でもきっと、今の私が言ってもあなたを悲しくさせてしまう。だから手紙に書いて、ここに隠します。あなたに日常が戻ってきた時に読んで欲しいから。
あなたの日常が、幸せでありますように。
由紀子
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