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雪女の暑中見舞い【創作】

 暑中御見舞申し上げます。

 日本では連日の猛暑でございますが、ぬらりひょん先生の御滞在先はいかがでしょうか。先日こちらへいらした風狸様は、今頃ハワイか台湾だろうと仰っていましたが、流石は先生ですね。私もこうして店を持ち、商売を始めてみて、改めて外国の文化を取り入れる重要さを痛感していますが、とても先生のように人間に混ざって身軽に動けないものですから、少々羨ましく思ってしまいます。けれども折角先生が提供してくださったこの店、繁盛は無理でも、どうにか家賃分くらいは賄えるようにしなくてはと、雪鬼や雪ん子たちと共に切磋琢磨しております。

 しかし、商売とは、物を売るということはこんなにも大変なものなのですね。

 当初は昔ながらのかき氷を提供していましたが、ただ色鮮やかなシロップをかけただけでは今の人間たちはそそられないようでした。人間たちの欲がまあ深くなった事ですね。昔なら夏に冷たい氷が食べられるだけでとんだ贅沢でしたでしょうに。

 しかし商品が売れなければ話になりません。色々試してみました。アイスやクリームをのせてみたり、小豆や果物などで人間たちが好むような飾り付けをしてみたり。しかし後々猫又たちから、発想が一回りも二回りも旧くてどうしようもない、と言われてしまいました。やはり長年に渡って人間たちと共に歩んできた彼らは、山の氷室に籠もっていた私とは違い人間の何たるかをよく心得ています。私は彼らの助言を受ける事にしました。

 まず、ふわふわの氷を作れと言われました。今時は肉でも何でも、口に入れた途端ふんわりと溶けていくようじゃないと流行らないと。これは幸いにも、私が作る淡雪なら合格だと言われました。喜びましたが、これでまだ第一段階だと言われました。

 次はシロップではなく、カラメルソースやきな粉、抹茶、とにかく色々な汁や粉をかけろと言われました。それから雪玉みたいに大きな氷にしろと。猫又たちは、かき氷は大きければ大きい程人間は喜ぶし、色々な物がのっている程集まってくると言うのです。

 それから、人間たちが大好きな食材があるのだと。それさえのせておけば、あとは何をかけたって食らいつくと。御丁寧に、その色や形状を紙に描いて教えてくれました。人間たちはいよいよ珍奇な物を好むようになったのですね。半信半疑のまま、それをのせて売り出してみたところ、これがなんとまあ飛ぶように売れました。今では連日行列が出来る程でございます。こんな山奥の一軒家に、これだけの人間が集まってくるとは。猫又たちがスマホというもので人間たちに広めてくれたそうです。よく分かりませんが、流石は猫と言いましょうか、噂の広め方をよく心得ているようです。

 それから、これは先生にお伝えしなければいけないのですが、その食材の調達について大蝦蟇様に御助力頂きました。その代償は売り上げの三割と決して安くはありませんが、大蝦蟇様も大変な犠牲を払ってくださっていますので、どうか御容赦頂きたく存じます。それに、店の売り上げが増すごとに大蝦蟇様も乗り気になってらっしゃるので、今後はどんどん売り上げが伸びることでしょう。私どもは今、夏の暑さにも負けない程やる気と活気に充ち満ちております。全ては先生や、猫又や大蝦蟇様の御陰でございます。

 先生も帰国の折りには、どうぞ私どものかき氷を食べにいらしてください。色々と種類がありますが、特に人気なのはタピオカミルクティーかき氷で、店の売り上げも一位でございます。私どもはあまり好みませんが、人間たちの味覚を知る先生ならお口に合うのではないかと思います。

 しかし、蛙の卵はいつからタピオカなどという別名がついたのでしょうか。もしくは外国語なのでしょうか。博識な先生ならご存じでしょうか。今度お話を伺いたく思います。

 それでは、御滞在先でもどうぞ御自愛くださいませ。

                    雪女

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