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「橙書店で二時間」

店の一画に、本を読むためのちょっとしたスペースを作った。
もともと店の本棚を開放しており、営業時間内に読み終えなかった場合や自分のペースで読みたい場合などは、貸本ノートに記入すれば持ち帰ることができる。
ほとんどが自分で選んだ本だけど、なかには難解で途中放棄したものもままあるし、献本や託された本もある。
「本棚を見ればその人の頭の中がわかる」とはよく聞くけれど、おおまかな傾向の察しはつくと思われる。
なので、ときにお客さんから、「読みたい本ばかり」と言われるとすごく嬉しくて、ひそかに「同じ穴の狢だね」と、後ろ姿をそっと見送る。

この空間を作ろうと思ったきっかけは、坂口恭平さんだった。
たくさんの肩書きを持つ彼は、幾多ある著作のなかで、いちにちのスケジュールを公開している。それこそ小学生の頃に書かされた「夏休みの過ごし方」のようなもので、起床時間から就寝時間まできっちりと決めている。ひとえに、「躁鬱人」(坂口恭平さんの言葉を借りれば)としての彼ならではの創意工夫であって、「仕事、制作」や「昼寝」とかに加えて、「橙書店(で二時間)」という項目に目が釘付けになった。
「いいなぁ!『橙書店で二時間』て!」と、ときめいてしまった。
(橙書店とは、坂口さんがお住まいの熊本市内にあるこぢんまりとしたセレクト本屋さん)
「自宅の他に、もうひとつ居場所がある」ということは、なかなか素敵なことなんじゃないかな。
なので、このスペースのコンセプトは、「橙書店で二時間」である。

さて、この空間に名前を付けるなら、「アンド」にしようと思っている。
その意味は「安堵」、「&」のふたつの言葉から。
というのはこの間、とある美術館のyoutubeで、哲学者の千葉雅也さんが「猫」のはなしをしていた。幼い頃に、千葉さんのご両親が会社で飼っていた、というか勝手に住み着いた猫の名前が「&」なのだった。(名付けたのは千葉さんのお父さんだとか)
「猫は、外と内をつなぐ存在だから、接続詞の『&』にした」、と話していたのがとても印象的で、且つ、いい名前だなぁと、これまたときめいてしまった。

波羅蜜(パラミツ)の内にあるけれど、スーッと境界線があるような空間。
とはいえ厳密には、「波羅蜜&アンド」、ということになってしまう。でも行き来する存在が「アンド」だとしたら、「アンド」はここを利用する人、ということになる。それならば、「アンド」というネーミングでもいいかも知れない。

「アンド」では、本を読む以外でもパソコン仕事をしたり(FREE WI-FI完備)、誰かに手紙をしたためたり、ぼおっとしたりと、ひとり静かに没入したいときにどうぞ。
とくに店がバタバタしているときなんかは、「本なんかとても読んでいられない」という心持ちになるお客さんが少なからずいるはずで、そんな方にぴったり。
あとは、人知れず占い鑑定とか?宝石の行商とか?
今ふうだと、コワーキングスペースと呼ぶのだろうか。

開放したら、あとは使うお客さんが場を育ててくれるんだと思うと、なんだかとても愉しみ。


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