今、フィリピンでキチママと暮らしてます。(14)
2020年大晦日(1)
ブブゼラのようなラッパと爆竹を鳴らして飲んで歌って大騒ぎするのがフィリピンの正月だ。
だから、コロナがまだ収束してなかったため、政府が全国的に外出禁止と移動規制を敷いた。
毎年、うちでは家族旅行をしているが、そんな理由もあり、今年はゆっくりしようと思い
年末までに簡易浴槽やそば、餅を買って、のんびり年を越そうと思っていた。
そんなとき、キチママが「仕事、何日まで?今年は親戚が全員、おばさんの家で過ごすことにしたから、会社が終わったらいっしょに行くからね」と言ってきた。
私の家から5kmほど離れた場所に叔母さんの家があり、今年はキチママの親戚中の人たちが大勢集まってどんちゃんするという。
叔母の家はフィリピン特有のコンクリートを塗り固めた家にトタン屋根が一枚の簡素なもので、家がある場所がフィリピンでは「スコーター」と呼ばれる低所得者や不法定住者が住んでいるスラム街で、ゴミがそこらへんに散乱していて、不衛生なエリアだ。
そういった理由で今まで挨拶に行くことはあっても、泊まることを避けてきて、仮に親戚の集まりがあっても、夕方には帰宅していた。
今回はもちろん、子供の数も多いし、食事はフィリピン料理だし、ベットの数がないからみんなで地べたに雑魚寝になるというのは目に見えている。
最悪な年越しになりそうだ。
「移動規制あるから、ダメでしょう?」なんていうと、ムッとした表情で「どうせ誰もそんなルールに従う人いないわよ!」と言う。
何言ってもダメだなーと思ったが、せっかく用意した日本の食材を無駄にしたくなかったし、毎日家族ために働いて、
役立たずなんだの言われて、せめて正月くらいはゆっくりしたって罰は当たらないだろうと思い、
「ここ最近ずっと残業で疲れてたから、正月はゆっくりさせてよ。正月の集まりには顔出すからさ。どうせ、車で5分なんだから」
と、やんわりと今回は突き通そうとしたが、それがいけなかった。
「じゃあ、もういいよ!もう2度と親戚の集まりに来ないで!」と怒り出した。
その日から数日間はお互いほとんど会話がなく、年末になり、仕事から帰るとキチママと子供たちは親戚に行ったのか、いなかった。
「あー、スッキリした!」
と安堵感を感じて、それから大晦日まではのんびりとネットで注文した簡易浴槽に浸かり、ユーチューブで動画を見たりして、鬼のいない間の時間を満喫していた。
定期的に娘からラインで電話がきて「ダディ、何してるの?」と画面越しに話す。キチママはというと、一切話さないしムッとしているのが、表情でわかる。
この時間が唯一の会話で、あとはのんびりと年を越そうと思っていたが、
・・そうはならなかった。
大晦日の夕方、ソファに寝そべっていると急に玄関でドアが開く音がして、キチママが入ってきて、無言で荷物を取って、そのまま出て行こうとした。私は声もかけず、ただソファに寝そべって携帯の画面を見ていた。
ちょうど、リビングと玄関の境にクリスマスツリーがあり、キチママがその前で立ち止まり、
「女はどこ?どうせ、その女といたいから、こなかったんでしょ?あんたの考えてることなんて、全部知ってるんだ。どこにいるの、その女は?」
と怒鳴り、目の前にあるクリスマスツリーを倒して、飾り付けが部屋に散乱した。
あまりの出来事にびっくりしたが、
「最近、仕事が遅くて疲れてたから、ゆっくりしたいってそれだけじゃん。政府から移動規制出てるのに、外を出歩いてることのほうが、おかしいんじゃない?」
と返すとムッとした表情で部屋を出ていった。
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