あなたと東京夜光が出会うためのエッセイ③ ~『fragment』開幕レポート~
劇団 東京夜光の新作公演『fragment』は、去る9月12日(火)に初日を迎えました。
2017年の設立以来、2020年には「MITAKA “NEXT” Selection 21st」へ選出、2022年には本多劇場で公演を行うなど、驚異的なスピードで躍進を遂げてきた東京夜光が描く、1944年と2023年の東京の物語。
吉祥寺シアターによるエッセイの最終回は、『fragment』の開幕レポートをお届けします。
『fragment』のあらすじは以下の通りである。
私は『fragment』を「俳優」の話だと受け取った。
それは決して、『fragment』が俳優たちの生き様を中心に描いた作品であるという事実のみを指しているのではない。
『fragment』は現代に生きるすべての人々が有する「俳優性」という病理を描いた作品なのだと私は捉えている。
ここで言う「俳優性」とは、自身のアイデンティティや生き甲斐、「自分が何者であるか」を定義したいという欲求について、自己を他者へと投影することで満たされたと錯覚してしまうことを意味する。
多かれ少なかれ人間は他者との関わり合いの中で自己を構成していく生き物であるから、「俳優性」は人間本来の性質の一部であると言うこともできるだろう。
だが、ふとした瞬間に自分自身が空っぽであるような気がして、自分の思想や行動がすべて何かの受け売りで、自分という人間が本来中身のないただの容れ物にすぎず、自分自身の生まれ持ったアイデンティティというものがまるで存在しないかのような錯覚に陥ったことはないだろうか。
こういった苦悩は極めて現代的な病であるように思う。
自論はさておき、『fragment』において俳優の姿を通して描かれるのは、いまを生きるすべての「空っぽ」な人々がどのように生きるのかという問題だ。
戦争という現代の日本人にとってある意味では非日常的とも言えるシチュエーションを設けることで、東京夜光は人々が潜在的に抱える精神の病を巧みに浮き彫りにするのだ。
そして、主人公の白戸景を演じる丸山港都さんの好演が、『fragment』を単なるひとりの俳優の物語から普遍的な人間ドラマへと押し上げているように思う。
彼の持つニュートラルさによって『fragment』の普遍性が担保され、次第に観客は自身の断片を白戸に見出し、「自分自身の物語」として舞台を見つめるのだ。
俳優たちは軒並み素晴らしく、極めてレベルの高い出演者が揃っていることに思わず舌を巻くのだが、特筆すべきは草野峻平さん演じる主人公の同期俳優・崎野武の存在だ。
武は白戸の内面的な本質を恐ろしいくらいに見透かしており、心の奥底の最も繊細な部分をこれでもかと言うほど的確かつ鋭利に突き刺してくるのだが、その説得力がとにかく凄まじく、客席にいながらもまるで自分の心が揺さぶられているかのような錯覚を覚えてしまう。
東京夜光は、演劇という営みに対してどこまでも実直で誠実だ。
その信頼は、はじめて東京夜光に出会ったその瞬間から今に至るまで一切揺らいでいない。
彼らが一年半の創作期間を重ね、満を持して繰り出す今作をどうか見逃さないでほしい。
東京夜光は、間違いなくこれからの演劇界を担ってくれる。
そう期待させるだけの傑作が、確かに生まれたのだ。
劇団 東京夜光『fragment』
その記憶は、誰の真実か
2023年9月12日(火)〜18日(月)
吉祥寺シアター
公演詳細
https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1005066.html
(担当:小西力矢)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?