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雑誌「なわない」ができた

 昨年静かに立ち上げた1人出版レーベル木舟舎から、「なわない」という雑誌を発刊しました。11月下旬ごろからこぎはじめた舟、新しい私の意思を乗せた舟は、今年の5月末に、100頁ほどの小さな冊子になって、人の手に渡り始めました。

 雑誌には、20人ほどの、なにかをつくって日々を生きる人たちの言葉や、「つくる」をテーマにした作品を並べました。
「なわない」というのは、藁を束にして縄にする農村の生活文化のひとつ。生活の中の「つくる」であり、何種類もの束がひとつにより合わさるように多様な人・色・分野が織り交ざるものにしたいと思って名付けました。

 参加した20人は、私がこれまで偶然つながってきた人たち。言葉や実践の様子が、直感でいいなと思っていた人たち。長い付き合いの方もいれば、今回初めてちゃんとコミュニケーションをとった方もいます。私のしどろもどろな説明やつたない企画書を読んで、おそらくそれぞれでちゃんと何かをくみ取ってくれたのでしょう。出てきた寄稿エッセイや創作はどれもぐっと引き込まれるものがあって、日常やこれまでが見えて。それらによってやっと徐々に「なわない」の輪郭ができていったような気がします。

 「なわない」をみんなどんな時に読むのだろう。どんな印象を持つのだろう。印刷したものが目の前に現れた時の喜びが少し落ち着いてきて「売る」段階に入り、イベントやお店で販売が始まったこの1か月。正直反応が心配で、やるべきことが分からず右往左往しているような感覚もありました。ちょっとした感想に嬉しくなったり、何も言われないと悲しくなったり。きっとどんと構えていればいいのでしょうけれど。
 そして何より、誰か(それは取り扱いをお願いしたい本屋さんや出店時のお客さんなど)を目の前にしたときに、私自身が「なわない」をうまく説明できない。うっと言葉が詰まってしまう。「誰に向けてつくったの?」という質問にもうまく答えられませんでした。

  でもしばらく経つと、きっと大丈夫!と思えるときも、こんなのじゃダメだ…と思えるときも、交互にやってくることに気が付きました。3日、あるいは1週間おきくらいで。みんな、そうなのかもしれません。人生にはいろんな波があって、それはいろんな要素でできているから、自分だけではいつどんな波が来るか分からなくて。
 だから、どこかの波のタイミングに、私の本がたまたま合えばいい。逆に言うと、人生のどこかのとあるタイミングに「なわない」が入ってきて、それでああよかったと思える人はきっといる。それは信じられています。

 あと、私は今までいろいろな本を読んで「こんな人いるんだ」と思えたことが、その積み重ねが、人生の選択肢を広げたり肩の力を抜いたりした部分があると思っています。「なわない」で出てくる人は、大型書店に並ぶ本に載っているような有名な人ではないけれど、だからこそ少しだけ地方や地方出身の方、若い人にとって自分と地続きな感じがして、言葉が染みやすいこともあるのではないかと思ったりしています。「すごい人」だけが「すごいもの」をつくって幸せになっているのではなくて、みんなそれぞれにとっての「つくる」があるし、それは小さくても本当に人生を豊かにするし、まちを豊かにするし、社会を豊かにする。それを、手触りのある紙で伝えることで、ものの厚みと重みでも伝えたいのです。

 表紙の絵は、長野にお住まいのやざわしほさんという方の絵。里山の風景はなつかしい古き良き感もあるけれど、どこか新しく新鮮にも目に飛び込む色彩。今この瞬間を全力で受け止める若者の感性の中にも真実があるように、昔から言われていること、長く生きた人の言葉の中に(すべてではなくとも)真実は必ずあります。70年続いた海産物店を閉業した大口さん、宮崎の山奥で暮らした静子さんの話を載せているのは、それを忘れたくないから。次号でもこうしたコーナーは必ず入れたいと思っています。

  後半に突然はさみこまれる一遍の小説も、できあがってみてその存在感が際立ったような気がしました。毎年一回運営しているZINEの出品イベントに初期から出してくれていた方のものです。現実・事実ベースの文章は、それがやわらかな文体や等身大の言葉が並ぶエッセイであっても、何か学びや気づきを受け取ろうとしてしまって意外と脳が疲れるときもある。小説は、その世界の流れにのって、読み終わったら「おもしろかった」で充分。共感しすぎることもあまりない。だからこそ現実を見る目もちょっと変わったりする。「なわない」でそんな時間がつくれたら嬉しいので、次号からもこうしたコーナーに力を入れたいところです。

 こんなふうに紹介していたら書ききれないですね。ひとまず1回目の投稿はこのあたりにして、またもう少し時間がたって伝えたい事が出てきたら書きたいと思います。「なわない」制作に参加・協力してくださった皆様、買ってくださった皆様、お店などで販売してくださった皆様、本当にありがとうございました!!

現在「なわない」をお買い求めいただける本屋等

【新潟県】
・北書店
・ウチノ食堂
・ブック・オーレ
・Bar Book Box
・ブックスはせがわ
・読書喫茶ヒミツヤサン
・孫平books&flowers
・ISANA(予定)

【東京】
・Title
・マルジナリア書店
・七月堂
・twililight


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