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禍話リライト サラマンダーの家

 サークルの先輩から聞いた話です。「サラマンダーの家ってのがあってだな」酔っ払った先輩がニヤニヤしながら語りだしました。「これが出るんだよ」「何が出るんですか」
 サラマンダー?私には意味が分かりませんでした。後輩が口を開きました。「僕も噂だけは聞いたことはありますね。詳しくは知りませんけど。」「何だお前も知っているのか」「有名は有名みたいですよ」
 サラマンダーの家。半信半疑というより馬鹿馬鹿しいという気持ちが上回っていました。「あんまり怖くなさそうですね、それ」「だったら、行って確かめて見ろよ。地図を書いてやる。そうそうデジカメでもなんでもいいけど、カメラ持ってけよ。六畳ぐらいのフローリングがあるから、そこでフラッシュを焚いて写真を撮るんだ」
 机の上に転がっているボールペンでコピー用紙の上に書かれた地図はぐちゃぐちゃであんまり役に立ちそうもありませんでした。酔っ払いの書いた地図がどれくらい有用かは不明でしたが何もないよりはましか、と思って、私は深夜にその家に向かいました。
 古ぼけた家で鍵もゆるくなっていました。周囲に人影がないことを確認してから、こっそりと侵入しました。懐中電灯で辺りを照らすと埃が舞っているのが分かりました。中扉を開けると、六畳のフローリングが広がっていました。
「ここでフラッシュを焚いて写真を撮るんだったな」私は懐中電灯を消して、ポケットに突っ込んできたデジカメを取り出しました。カメラを構えましたが当然ですが真っ暗で何も見えません。構わずにフラッシュを焚くと部屋が照らされて、一瞬ですが巨大な人影がはっきりと見えました。
「うわああ!」私は急いで懐中電灯を再度取り出して一目散にその家から出ました。家に帰る途中、先輩から電話がありました。
「ちょっと、なんですかあれは」「な。出ただろう。サラマンダー」「はあ?」私はつい声を荒げてしまいました。携帯越しでも先輩がニヤニヤしているのが手に取るように分かります。
「謎解きをしてやろう。サラマンダーってのはなんだ、吉田」「知りませんよ、そんなの。火を吹く蛇みたいなあれでしょ?巨大な人間の影を僕は見たんですよ」「落ち着け、落ち着け。サラマンダーはあれだ、火を吹くトカゲだな。縮めると火トカゲ。なあ、吉田、ひとかげってことだよ。何も間違ってないだろう」
 私は怒りのあまり通話を切りました。馬鹿げている。名付けたやつも馬鹿だが噂を広げたやつも馬鹿だ。世の中馬鹿ばっかりだ。
 私はふと立ち止まりました。「俺はどこへ向かっているんだ」恐怖のあまり家を飛び出してから遮二無二に歩いていたせいで、下宿先からかなり遠いところへ来ているようでした。深夜だったし、周囲に見覚えもありませんでした。巨大な人影の映像だけがはっきりと脳裏に浮かび、恐怖に震えながら、私は下宿先に帰りました。
 そういう話です。

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