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メイ

私が小さい時に野良親猫が見捨てたその子を拾って家族に迎えた。元野良とは思えないほど自制心の強いしっかりものの猫だった。とてもプライドが高く、食事量も自分で調整していた。太りすぎたり痩せすぎたりする事も無く、起きる時間や食事の時間も正確だった。
そんなしっかりした性格なので恩義を感じて私に懐くかと思ったが、検査の為に病院に連れて行ったり、シャンプーをしたり、寝ている時に足元にいる猫を蹴飛ばしてしまったりなどしていたのでプライドを傷つけたのだと思う。全然懐いてくれていなかった。
他の家族に対しても一線を引いていて、ゴロゴロと甘えたりする事も少なく膝に乗ったり抱っこなんてできた事がなかった。

そんな彼女が私の膝の上で体を大きく上下しながら懸命に息をしていた。あんなに毛艶の良かった背中がぼさぼさになっていた。目が見えていたか分からないけれど、私の顔の方を見ながら鼻をピーピー言わせて呼吸をしていた。歩けないのにトイレに行こうと立ち上がっては転んでいた。抱っこしてトイレに連れて行くときちんとおしっこをした。息を引き取る瞬間まで漏らす事もなかった。こんな時までしっかりしなくていいのに。

痩せて小さくなってしまって歩けなくなっていたけれど、一生懸命に、それこそ命を燃やしていた。
18年以上一緒に生活をして多くの時間を過ごしてきたけれど、あの時膝に乗せている時間が一番濃く長く感じた。

ぼんやりとあの日を思い出して泣きながら、色んなお家の、街の、愛らしい猫達の写真の向こうにあの子を見ている。メイ会いたいよ。

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