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ふくしま教育通信 2023年8月号           リレーエッセイ「目的語のポジション」                 教育庁教育次長 平澤 洋介

 先日、日本のお笑い芸人がイギリスの番組に出演し、昔流行った持ちネタを英語で披露し、番組の辛口審査員を含め、会場全体が爆笑の渦となったニュースがあった。彼は自分の持ちネタを英語でこう表現した。“ Don’t worry. I’m wearing. ” するとなぜか会場の審査員と観客はその後に続けて “ Pants!! ” と叫ぶのである。彼の英語は私たち日本人にしてみれば、彼のフレーズを素直に英語にしたものであり、彼のパフォーマンスと会場の雰囲気から審査員と観客は自然と “ Pants!! ” と叫んだとも感じられるが、実はここには英文法上の目的語の役割が大きく影響している。今回の場合、英語では下記のように「~を」の働きをする目的語が動詞の後に必要である。

しかし、彼は “ I’m wearing. ”と表現し、“ pants(目的語)”を言わないのだ。英語的には足りないものがありモヤモヤする。だから、審査員や観客は必要な目的語である “ Pants!! ”を彼の代わりに大声で叫ぶのだ。まるで「パンツでしょ!!」といわんばかりに。この言語的な現象と彼のステージ上でのパフォーマンスが会場の一体感を生み、大爆笑へと繋がったと私は勝手に解釈している。

 日本語と英語の目的語のポジションの違い(これを文法と言うのだが)は、話の聞き方の違いにも現れる。日本人は話の途中で相槌を打つことが多いが、英語圏の人たちはあまり相槌を好まないし、話し手の顔を見ながら最後まで話を聞こうとする。(日本人がドキドキする場面です。)これは、目的語のポジションに関係があると私は勝手に考えている。

 日本語では目的語が早い段階で現れるので、何についての話かを途中で予測することができる。その結果、相手の話の調子に合わせながらうなずいたりするなどの反応をすることが多い。

 英語の場合は、目的語が動詞の後に来るので、最後まで話を聞かないと「何を buy(買う)するのか」わからない。だから、必然的に最後まで話を聞く必要がある。
 日本語と英語の違いは、当然文字の違いもあるが、この目的語のポジションの違いも大きい。そしてこのポジションの違いは様々なものの違いにも影響していると私は勝手に考えている。

 日本の英語の学習において4技能(リスニング、リーディング、スピーキング、ライティング)をバランスよく学ぶことは大切なことなのは言うまでもありません。英文法が苦手な人も、少し視点を変えて言葉のポジションの違いからアプローチしてみると英文法の見え方が変わってくるかもしれません。
 たまには視点を変えて物事を見てみるのもいいかもしれません。お勧めですよ。
(執筆:教育庁教育次長 平澤 洋介(ひらさわ ようすけ))

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