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出会いやコニュニケーションから生み出す

島野:丈さんはいま新しいお店を準備中ですし、山野辺さんと何かコラボレーションしたりなどを考えてはいないのですか。

高崎:僕の新しいお店は「高崎のおかん」という名前になるのですが、喜子さんといえばやっぱり香りを作る方なので、店の香りを作っていただきたいなと思っているんです。喜子さんにはちょっと変わった注文をしていまして、喜子さんが作りたい香りを作っていただけませんかとお願いしています。抽象的なんですけど、僕の店を自然に感じられる香りみたいなものを作れませんかと。普段は目的があって香りを作られていると思うので、僕の店の香りは思うままに自由に作っていただきたいと思っています(笑)

小祝:山野辺さんはこの注文でわかるんでしょうか(笑)飲食店と香りって相反するものではないのですか。お寿司屋さんには強い香水をつけていってはいけないとか聞きますよね。

山野辺:強すぎる香りがお料理の邪魔をしてしまうことはあると思いますが、おしぼりにちょっとハーブの香りをつけるといったことはすごく相性がいいと思っています。食事を邪魔しない香りの作り方というのもあるんですね。私が使っているのは合成香料ではなく自然天然香料なので、ゆずやヒノキの香りがふわっと感じられるくらいのものであれば、飲食店さんにもご協力ができると思っています。最近はこだわった飲食店さんではお手洗いに香りのするソープを置いたりしていますよね。

小祝:たしかにありますね。

山野辺:こだわりの食材や居心地のいい空間で飲食を提供されているお店さんのソープを、同じこだわりをもった「yes」のソープで演出のお手伝いができたら嬉しいですね。

島野:おもしろいですね。丈さんのお店も仁井田本家さんも、オリジナルの香りを注文されているんですよね。注文を受けて山野辺さんが「香り」をプロデュースしていくという。

山野辺:はい。それぞれお題が違います。丈さんのようにお任せしますという方もいれば、仁井田さんはスギの香りを使ってこんなふうにしたい、といったように使いたい香りも用途もはっきりしていますね。

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小祝:「香り」と一口にいってもとても抽象的だと思うのですが、仁井田本家さんの例でいえば、裏山の香りを作るというと空間や場所を香りで表現するんですよね。香りを作るための方法論や方程式のようなものはあるんですか。もしも今後、我々KIBITAKIプロジェクトが双葉町の香りを作ってくださいとご依頼するとしたら、どのように作っていくのでしょうか。双葉町について調べたり、関係者と対話をしたりするところから作っていくものですか。山野辺さん流の香りの作り方を教えてください。

山野辺:そうですね。私は全国をまわっているので、やっぱり出会いの中から生まれるものを作っていきたいと思っています。何の関わりもない場所で「じゃあここの香りを作って」といわれても気持ちが入りません。一緒に町に行って、ご飯を食べて、飲んで騒いで、ワクワクするようなことや、おもしろい人がいるから会いにいってみたら、植物を育てている人だったとか、地域の人たちとのつながりのなかから生まれた香りのようなものを作りたいなと思いますね。

小祝:コミュニケーションや出会いには香りがあるということですか。

山野辺:はい。何かありますね。

高崎:おもしろい。

山野辺:土にも木にも香りがあるし、何でも話していくうちにいろいろな人の考えが出てくるので、そこから生まれるものってあると思うんですよね。

小祝:物質そのものの香りなら想像しやすいですが、コミュニケーションや出会いって実態のない見えないものですよね。そこに何かしらの香りを感じて、また違う何かの素材で香りを表現するという考え方に初めて触れたように思います。たしかにそういう人や場の香り、空気感みたいなものを感じることはありますよね。人と人とがつながって、これまでに対談させていただいた方々がどんどんコラボレーションしていく様子もおもしろいですね。浅野撚糸さんのおしぼりに山野辺さんの「yes」の香りをつけるといったことが実現するかもしれないということでしょう。

高崎:そうですね。喜子さんと現在構想中です。

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島野:双葉町と今後積極的に関わっていくことなどはお考えですか。

山野辺:いままでは楢葉町に関わっていましたから、どうしても楢葉町に意識がいって、双葉町と接点をもつことを考えることもなかったのですが、丈さんと出会ったことで町にもすごく興味をもちました。それに丈さんと出会うきっかけになった、友人の赤澤さんがそこで活動しているということも、独立して前進している友として本当に励みになっています。以前丈さんが双葉町で蒸留所を作るつもりなので、植物を蒸留してもおもしろいのではとお話ししてくださったのですが、私にとっては広いスペースと植物はお宝ですから、もしそこで本当に福島の双葉蒸留所が出来たらおもしろいなと思っています。

高崎:それが実現できれば最高ですね。

小祝:よく話題になることなのですが、やっぱり双葉町には原材料にできるものが少ないことが課題で、震災前はバラ園やハーブ園があったのですが、いまハーブやスパイスの生産ができたら、もっと可能性が広がるのに、という話に行きつきます。

山野辺:ないところから生みだしていくということにはすごく意味があるし、ここから始まるという意味でも、地域の方々と一緒に作っていけるような環境ができたらおもしろいと思いますね。

島野:KIBITAKIプロジェクトでは丈さんがプロデュースしたクラフトジンを作っているんです。ただそのクラフトジンの原料は双葉町のものは何も使っておらず、高崎丈のスピリットがつないだ、福島のワンダーファームのトマトや仁井田本家さんの酒米を使っていて、山野辺さんが先ほどおっしゃっていた、コミュニケーションから香りを作るというお話と少し通ずるものがあると感じました。ジンにしても香りにしても、丈さんを介して双葉町のエッセンスを入れていくというような。コミュニケーションを通じてものを作るってとてもおもしろい発想だと僕も思います。

山野辺:ありがとうございます。

島野:僕も丈さんとお会いする以前は、双葉町とは縁もゆかりもなかったんですね。このプロジェクトを通じて双葉町にも何度か訪れていますが、僕が双葉町を一番強くイメージするのは丈さんなんです。双葉町イコール丈さんみたいな。先行して人の顔が出てきますよね。その人と何を話して、何のご飯を食べたという記憶の方がやっぱり強い。

小祝:ちなみに熱燗とハーブはコラボレーションできるものですか。

高崎:できますね。

山野辺:昔は薬草酒みたいなものもありましたよね。私はお酒が好きなので、自分でハーブをお酒につけたり、いろいろ試しているんですが、味もすごくおいしくなるし、薬効もあります。

小祝:なるほど。熱燗からふわっとハーブの香りがするっておいしそうです。

山野辺:やりたいですね。そういう新しい飲み方みたいな。

小祝:いいですね。熱燗とハーブの新しい組み合わせを試す実験ができそうですね。「高崎のおかん」が人と人をつなぐ実験場になって、福島と東京、さらには広がって海外にも、拠点をつないでいくような場になるとおもしろいですね。

島野:双葉町が来年避難解除になって、県外からも工場や企業が現地に立地する予定になっています。ゼロからいろんなものを立ち上げていくという場面が双葉町から出てくるので、今後予定している丈さんの蒸溜所から香りが作られていくと、新しい町づくりの顔として、双葉町が日本だけじゃなく世界にも発信できるのではと思いました。ぜひ今後もご一緒させていただけませんか。

山野辺:もちろんです。自分がやりたいという思いだけでは成り立たないので、協力してくださるみなさんや、情報をくださるみなさんがいると盛り上がっていくと思うので、そこから形になっていくとしたら本当におもしろいですよね。あとから振り返って「形になっちゃったね」といっているようなことが目指すところです。


文:丸恵(サムライジンガ)
撮影:福山勝彦(プランディング)
収録:須藤高志(サムライジンガ)
撮影場所:Creative Sound Space ZIRIGUIDUM(ジリギドゥン)
2021.9.30収録

今回はリモート収録にて、山野辺様より写真をご提供いただきました。ご協力いただき誠にありがとうございました。

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