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クラフトジン「ふたば」

小祝:今回、山口さんの協力で双葉町のクラフトジンを作るというお話ですが、どんなジンになるのでしょうか。

山口:ずっとお話をいただいていたのですが、やっとそろそろ実現しそうというところですね。

高崎:僕が歩夢くんに、双葉町の活動のなかでクラフトジンを作りたいというお願いをしたところから始まったんです。原料は「仁井田本家」さんの酒粕を使って蒸留酒を作りたいと思っています。「仁井田本家」さんは双葉町ではないのですが、双葉町に特産品がないからこそ作りたいという想いが先にあって。ジンに使えるボタニカルが双葉町にあればいいのですが、まだないので…ということを歩夢くんに相談したら、一緒に考えてくれたんです。

山口:全国には酒蔵がたくさんありますが、酒粕を産業廃棄物として有料で廃棄している蔵も多く、僕らはそれを買い取ったり、譲りうけて、粕取り焼酎をもとにしたジンを作ります。ボタニカルでも、たとえば香りがあるのに食べずに捨ててしまうリンゴの皮、カカオの皮、生姜の間引きされる部分などを使って、ものづくりをしていこうという蒸留所が、僕ら「エシカル・スピリッツ」が運営する「東京リバーサイド蒸溜所」なんです。そこで今回のクラフトジンに使うのが「仁井田本家」さんの酒粕を使った粕取り焼酎です。ただ、まずひとつ課題があって、酒粕を個体のまま蒸留できる機械が僕らの蒸留所にはないんです。いろいろと当たってはみたものの、計画が止まってしまって。そんなときに「千代むすび酒造」さんという鳥取県にある酒蔵なんですが、僕らがお世話になっている酒蔵で、そこは自社で酒粕を蒸留できるんですよ。なので今年の4月に「千代むすび酒造」さんに丈さんと一緒に相談しに行ったんです。そうしたら了承してくれまして。それから5月に酒粕を送って、アルコールを出すための再発酵をさせて、原酒にもうすぐ蒸留をかける予定になっています。だから6月中旬には原酒が「東京リバーサイド蒸溜所」に届いているはずです。

小祝:すごい旅をしましたね。

山口:そうですね。鳥取まで行きましたからね。

小祝:酒粕が南相馬から鳥取へ行って、東京に戻ってきて、それから福島で売られると。

山口:はい。原酒が届いたらまずは味見してバランスを考えたり、なにを入れるか入れないかを見ながら…

小祝:さらにそこからなにかを足すんですね。

山口:そうですね。ジンはそこからジュニパーベリーというものを中心に香りづけを行うので。そのバランス調整は原酒が来てからでないとできません。それに双葉町ではいろいろ揃わなかったこともあって、まずは双葉町周辺、もしくは福島、被災地などで、ボタニカルにできそうなものを作っている生産者がいないかを調べて、いま候補に上がっているのは、釜石でラベンダーを育てている方がいるとお聞きしたので、そこのラベンダーを使わせていただくことになるかもしれません。あとはこのプロジェクトがしっかりと形になっていったときに、たとえば冬に作ることになれば、気仙沼でゆずを育てている農家なども、候補として上がっています。季節ごとにボタニカルを変えていけばいいのではないかと考えています。

小祝:酒粕のジンの原酒は珍しいんですか。

山口:世界的に見れば珍しいですね。国内では少しあります。

小祝:日本ならではのジンですね。

山口:そうですね。もちろん日本以外にはないです。

小祝:「双葉町」という特徴はどこかに入るのでしょうか。

高崎:震災の前には双葉町にもバラ園があったので、地元のボタニカルとしてそれを使うことができればよかったのですが、やはりいまは周りから借りてくるしかない状態です。そこでこのクラフトジンに込めるものは「物語」にしようと思っているんです。今回のクラフトジンはその第1話、序章です。これが完成形ではないといいますか。味がおいしいのは、歩夢くんに頼んだ僕が確信をもって言えます。ただ双葉町のボタニカルはまだゼロという現状をそのままクラフトジンにする。ゼロから始まるってけっこう大事だなと思っています。

小祝:なるほど。

高崎:第1話があるから第2話、第3話とつながって、双葉町の成長を物語るものにしていく。これが来年になったら四季を変えて、歩夢くんとできることが増えていけば、そのときにはボタニカルとして使える双葉町の素材ができていて、香りとしてジンに入れられるようになったというほうが、いまの双葉町らしいというか、そのままを表現してしまったほうがいいのではないかと思いました。

小祝:それはデザインにも反映されているんですか。島野さんがデザインされていましたよね。

島野:そうです。∞(無限)のマークを用いて、読み方を「ふたば」としました。物語が延々と語り継がれるというような意味を込めて。

高崎:2回目以降、なにかが入っていくたびにたとえばボトルデザインが変わっていってもいいかもしれません。最初はゼロなので、なるべくシンプルなものでいい。

山口:僕ら「エシカル・スピリッツ」は「東京リバーサイド蒸溜所」の屋上に小さいハーブ園を作ったんですよ。苗木みたいなものなので、まだ全然ボタニカルとして使える量は育っていないんですけど、最終的にはモサモサのハーブガーデンになるまで育てて、そこで摘み取ったものからジンを作って限定品にしたいと思っています。同じようなことを双葉町でもできたらうれしいですね。とりあえずミントなどはすぐに育つので。ラベンダー、カモミール、ジャスミン、バラあたりが、ボタニカルとして使いやすくていいですね。

小祝:おもしろいですね。いろいろと夢が広がります。前回のヴィーガンのたまごの計画にしても、フードベンチャー、フードスタートアップのようなことを目指す人たちが集まる町になるとおもしろい展開になりそうです。とりあえずクラフトジンが出来上がったときのお披露目はしたいですね。ポップアップイベントを双葉町で。

山口:ジンが出来上がるタイミングはもうすぐだと思います。

島野:駅前なんかでできればいいですね。

小祝:「ふたば」というクラフトジンは絶対に双葉で飲むべきじゃないですか。

山口:やるべきですね。

小祝:そのタイミングでなにかおもしろいことをやりたい。メディアにも声をかけて、料理家や業界の人などにも来てもらって。

高崎:そうですね。そこまでできるといいですね。

小祝:歩夢さんのこれからも気になります。まだ25歳でしたよね。将来的には飲料やお酒のことを続けていくんですか。

山口:僕はけっこう目標がコロコロ変わるんですが、ここ数年で考えていることは、ミャンマーでお酒作りをしたいと思っています。いまは情勢が複雑なので行けそうにないのですが、以前ミャンマーに行ったことがありまして。ミャンマーは南が赤道、北はヒマラヤの麓なんですね。雪なんて一度も見たことのない人たちが住む熱帯があれば、豪雪地帯もあるのですが、その中ほどのあたりにシャン州があります。そこは住みやすい地域で寒暖差があまりないんです。その恵まれた気候下で獲れるフルーツが、香りも味も本当によくてまさに宝庫なんですよ。しかも大量に獲れるので、現地の人たちはそのありがたみに気付いていない人がほとんどです。そこで獲れるフルーツを使えば、絶対にいいものができる確信があります。お米も獲れるので、日本酒や焼酎のようなものもできれば、北のヒマラヤのほうは高山植物や薬草の宝庫です。それを使ってジンもできます。この町にさえいればなんでもできると思ったんです。ピンタヤという町は道路が整備されているのですが、道路が整備されていない町もたくさんあります。僕らが活動で稼いだお金は、道路のインフラや整備に充てられればいいと考えていて。そのことで地域にも貢献できるんじゃないかと思っています。


次回は新作クラフトジン「ふたば」の原料が旅をした、鳥取県にある酒蔵「千代むすび酒造」の岡空聡さんをゲストとしてお迎えする予定です。鳥取から世界へ数々のお酒を送り出す、気鋭の作り手とどのようなお話ができるのか、ご期待ください。


文:丸恵(サムライジンガ)
撮影:福山勝彦(プランディング)
収録:須藤高志(サムライジンガ)
撮影場所:Creative Sound Space ZIRIGUIDUM(ジリギドゥン)
2021.6.11収録


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