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豊富な知識から生み出される新しい食の可能性

 KIBITAKI プロジェクトでは双葉町における食を通じた町の再出発について、さまざまなゲストをお招きしてお話を伺います。
 第3回のゲストは醸造と発酵を専門に学び、その深い知識を活かして3つの事業「ANTCICADA」「Ethical Spirits & Co.」「Whiskey&Co.」を仲間とともに立ち上げた、山口歩夢さんです。食の循環を見つめながら作り出す食材は、未来への疑問を投げかけつつも、どこか楽しさを感じさせる発明品のよう。今回のゲストはどのように双葉町と結びつき関わっていくのか。KIBITAKIプロジェクトの3名とともに話し合っていただきました。

ゲスト プロフィール
  山口歩夢 やまぐち あゆむ
Ethical Spirits & Co. 取締役代表
ANTCICADA 発酵家
発酵と醸造を専門に学び、新たなスピリッツを開発する事業や昆虫食事業など、幅広い分野において活動中。

KIBITAKIメンバー プロフィール
  高崎丈 たかさき じょう


元JOE’S MAN 2号・キッチンたかさき オーナー(新規店舗開店準備中)


日本酒のお燗を広める活動を展開中


株式会社タカサキ喜画を双葉町に設立


  小祝誉士夫 こいわい よしお


株式会社TNC 代表取締役/プロデューサー


海外70ヵ国で展開するライフスタイル・リサーチャーを運営し、
国内外での事業クリエイティブ開発をおこなう


  島野賢哉 しまの けんや


株式会社サムライジンガ 代表取締役/プロデューサー


ブラジル、台湾における芸術文化を中心としたプロジェクトに携わる


クリエイティブサウンドスペース 'ZIRIGUIDUM'(ジリギドゥン)創設者


小祝:たしか、以前丈さんのお店でタガメのジンを出していただきましたよね。

高崎:あれは歩夢くんが作ったものです。

島野:タガメですか…小祝さん、飲んだんですか…

高崎:タガメジン、美味しいですよ。ラ・フランスの香りがするんです。

島野:え。ほんとですか。

高崎:はい。歩夢くんから1本いただいたんです。珍しいものなので、誰にでもお出しするというわけではなくて。虫と聞いただけでダメだという方もいますし、おいしいかおいしくないかの判断をしてもらえそうな方にお出ししていました。

小祝:タガメは東南アジアのタイでも食べますからね。さわやかな香りがするんですよね。

山口:タガメはオスの発情期のフェロモンが洋梨のような香りがします。それがとても濃いもので、洋梨よりも洋梨らしい香りがするんです。洋梨は水分が多いので、思ったほど香りがしないんですよ。醸造しても薄くなったり、洋梨をそのままジンに入れて蒸留しても、水分が多すぎるせいでアルコールの原酒の度数が下がってしまう。洋梨には少ししか香気成分(こうきせいぶん:食品に含まれる揮発性物質で、香りを有するものをいう)がないんです。

小祝:でももうタガメってほとんどいませんよね。

山口:日本にはほぼいないので、昨年の2月から日本では売買目的での採取が禁止されています。現在出回っているのは日本のタガメではなく、台湾タガメという別種です。名前のとおり台湾や東南アジアに多く、日本ではごく少数沖縄のほうに生息しています。とくに東南アジア、ラオスやタイなどで食べられているタガメです。

小祝:子どものころはいましたけどね。私の地元は茨城県の大子町というところで、自然の多い場所でしたので。

山口:マニアは大子町のほうにタガメを捕まえにいきます。茨城県は生息しているんですよ。東京近郊の虫採りマニアなんかは茨城県によく行きます。

小祝:ほんとですか。ホットスポットですね(笑)変な虫もいますからね。巨大なゲジゲジとか…

高崎:ゲジゲジも食べるとおいしいらしいですよ。

山口:僕はまだ食べたことがないのですが、僕らが経営している店の代表の篠原が言うには、茹でて食べると言っていました。毛が口に絡みつくのがちょっと気になるけど、味はおいしいと。

島野:毛が絡むって…(笑)タガメはジンに入れるだけでなく、そのまま食べることもできるんですか。

小祝:東南アジアでは素揚げにしますよね。

山口:そうですね。ただ揚げてしまうと洋梨のようなフェロモンの香りは飛んでしまいます。発情期ではないオスやメスはそのようにして食べるといいと思います。パリパリしておいしいので。洋梨の香りがするタガメは、いわゆる魚醤、ナンプラーのように漬け込んで香りづけをして、ドレッシング的な使い方をすると香りが活かされます。もしくはサラダのようにしてもいいですね。タガメの中身をほじくりだして、お酢などと混ぜてソースにしたり。

島野:食べる側の慣れなさというか、僕はどうしても壁を感じてしまうんですよね…タガメやザザムシというと、その名前と食がつながりにくいというか…

山口:たしかにイメージというのは大きいですよね。でも昔から食べられているハチミツも、いわば昆虫食です。花の蜜をミツバチの体の中で分解濃縮して、吐き出した液体ですから。

島野:たしかに。

高崎:一番認知度がある昆虫食ですね。歩夢くんが関わっていることは昆虫食のことだけではなくて。先日歩夢くんたちのお店にお邪魔したんですが、緊急事態宣言下でアルコールを出せないので、ノンアルコールのクラフトジンでペアリングをしてくれて、どれも本当にクオリティが高くて驚きました。

山口:うちではアルコールのペアリングとノンアルコールのペアリングをもともと両方やっていたのですが、いまはノンアルコールしか出せない状況ですから。ただ出せないからといってノンアルコールだけというのもつまらないなと思って、普通のノンアルコールと、あえてアルコール感を出したノンアルコールドリンクの2種類を作っています。「コオロギビール」というビールがあって、これに似せた「ノンアルコールコオロギビール」を作ったりしています。麦芽を焙煎してコオロギの出汁を少しだけ入れて、ビールっぽい発酵感を出すためにリンゴジュースなどをちょっとだけ入れて。また昆虫の話になってしまいましたけど、ノンアルコールの酎ハイのようなものや、ノンアルコールでジンを作ったりもします。ただアルコールでジンを作るときにとれる香りの成分と、水で作るときの香りの成分は全く異なるので難しいですね。そういったものを中心にペアリングするということもしています。

小祝:山口さんは主にどういった活動をされているのでしょうか。

山口:3つの事業を中心に活動しています。1つは昆虫食事業として「アントシカダ」というレストランを仲間と経営しています。2つ目がジンをメインとする事業の「エシカル・スピリッツ」という会社でスピリッツの商品開発を担当しています。3つ目がいま動き始めたところで、バーボンを中心とした新しい事業「Whiskey&Co.」を始めています。その3つでいま働いていますが、どれも代表ではなく、だいたいナンバー2のようなところにいます。代表って指示を出すポジションじゃないですか。指示を出すというよりは、僕は動いてしまうタイプなんですよね。大変なんですけど…

小祝:昆虫食、エシカルスピリッツ、そしてバーボン。それぞれの会社が違うということですか。

山口:そうですね。この3つで会社が違います。あとは構想段階というか、先日プレスリリースで発表したところですが、エシカルスピリッツでは新たに、スピリッツの軸のなかで世界初のことをやろうとしていて、木材からアルコールを作って蒸留して、木の蒸留酒を作ろうとしています。


続く


文:丸恵(サムライジンガ)
撮影:福山勝彦(プランディング)
収録:須藤高志(サムライジンガ)
撮影場所:Creative Sound Space ZIRIGUIDUM(ジリギドゥン)
2021.6.11収録


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