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「“欲しかったら来なよ”というぐらいの姿勢でいいと思う」

小祝:雄町米をKIBITAKIプロジェクトのベースである双葉町で栽培できる可能性はあるのでしょうか。

仁井田:十分だと思います。会津地方でチャレンジしている酒蔵さんがおられるのですが、会津地方はさすがに寒くなるのが早すぎて難しいと思うんですね。ただ南相馬や双葉のほうならできるんじゃないでしょうか。あとは幸か不幸か、温暖化が進んできていますので、農産物の主産地がどんどん北上していますよね。そういったことも考えると可能かと思いますが、ただ農家さんや、それを契約する加工業者さんが雄町というものに興味をもつかということはわかりません。

小祝:いまは免許の問題で、酒蔵自体をつくりづらいと丈さんから聞いていますが、双葉町で雄町米をつくって、双葉町の水を使った日本酒ができるという未来が実現したらいいなと、いまのお話を伺っていて想像しました。

仁井田:そうですね。やっぱり地に足がついたかたちのものができたらいいですよね。酒蔵はそういった意味では地域に貢献できる度量を持っていると思うんです。ある程度の量のお米を使えるということもありますが、お酒は神様ごと、神事にも使われるもので、人を元気にする、賑やかにする、楽しくするものであるから、地域に酒蔵があることはとてもいいことではないかと思っています。

島野:仁井田さんご自身がまさに体現なさっていますよね。自然栽培をすることで、お水もお米も田んぼも、木桶をつくられているという山にいたるまですべて、自然を俯瞰しながら営んでいらっしゃって、そこから環境が育つ。地域にとっての酒蔵がもつ役割の大きさが伝わります。

仁井田:日本人という民族は昔からそういうことをしていたはずなんですよね。狩猟民族ではなく農耕民族であって、土を耕して山や海の恵みに感謝しながら生きていたはず。やっぱりそういうものを見直す時期じゃないのかな。

小祝:丈さんのお店で何度か「にいだしぜんしゅ」をいただいたことがありますが、そのときには「有機米を使ったお酒」程度の知識しかありませんでした。しかし今日のお話をうかがって、「にいだしぜんしゅ」とは「農」という字そのものを連想させるような、地域の営みに密着したお酒だったのだと気づきました。いまの酒造りというと大規模な機械化による大量生産のような、プロダクトに近いかたちになっているものが多いと思うのですが、こうして仁井田さんとお話しをさせていただくと、もともとの日本人の暮らしを思い出させてくれるようです。そしてその世界観が、最初におっしゃっていたように蔵から村へ、村から県へと徐々に広がっていってくれたらいいと思わずにはいられませんでした。

仁井田:そのためにもぜひお力をお貸しください。

高崎:コロナのこともあって2年ほど開かれていませんが、仁井田本家さんは年に1度、蔵開きのイベントを開催されていて、そのときには2000人から3000人のお客様が来られるんですよね。自然と向き合いつつも、そうして開かれた場を設けて人と人をつないでいく。東京からも大勢いらっしゃるイベントですが、そんな大規模なことができる蔵はそうそうないと思うんです。

仁井田:とても恵まれていると思います。そして私の前に17人の蔵元が脈々とつないできた、いいバトンをいろんなかたちで渡してきた結果が300年となり、いまのかたちに整ってきていると思いますので、時間はかかりますが必ず成せば成ると思っています。酒蔵とは人ひとりの一生を超えて、長いときのなかで夢を見れたり目標がもてる、とても魅力的なところだと思います。

島野:いまは実際の酒蔵の見学など、現場に触れられる機会が激減していると思うのですが、コロナ禍によって変えたこと、試みたことなどはありますか。たとえばテクノロジーを使ってやってみたことなど…

仁井田:リアルなイベントでできないことはできるかぎりSNSを使っています。インスタライブをやったり、Facebookをやったり。自分は苦手なんですけどYouTubeをやったり…バーチャルでもうちの蔵を見たり知ったりできるようなことを、できるかぎりがんばろうとしています。

島野:YouTubeで酒蔵の紹介をしているんですか。

仁井田:そうなんですよ。やらされ感バリバリの自分が出てきますが…(笑)

高崎:僕はすごい好きでしたよ(笑)

仁井田:いつかやってみたいと思っていた日本の最も古い酒造りの水酛(みずもと)というものにチャレンジして、その様子を俺が説明しておかみが撮って編集してYouTubeに流すという感じでやってはみましたが…苦手ですね(笑)でもいまのお客さんがいたり、いまの売り上げがあるのは、やっぱり過去にイベント内でがんばってきたその成果であるから、これからをつくっていくためにいまできることをなにかするべき、ということはつねに社員にも言っています。コロナ禍がおさまったら、リアルなイベントができるときの準備として酒蔵サウナの準備をしておりまして、祖父が植えた木でつくった木桶を利用したサウナを計画中です。都会に疲れたら泊まりにおいでよ、というようなことをやりたいと思います。

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島野:我々KIBITAKIプロジェクトは町の再出発をこんなかたちでやってみたいとアイデアを出してはみるものの、いまの双葉町には農業も漁業もないということに、いつもつまずきます。できることのなかからなにかできないかと考えていて、先ほどの雄町米のお話のような、実績のもととなる芽のようなものがあればいいと思うんです。そして双葉町でしかできない具体的なことにつながるようなものになればいいのですが。

仁井田:近隣でいえば「磐城寿(いわきことぶき)」というお酒がありますね。その酒蔵である鈴木酒造店はそういう想いにちゃんと答えられる人たちだと思うので、彼らとなにかコラボしてみるなどはどうでしょうか。双葉のなにかで酒をつくったり、リキュールをつくったり、発酵食品をつくるなんてことでもいい。あんまりチャラチャラしていない、なにか根付くものでしっかりやっていけばおもしろいんじゃないかと思います。

島野:来年双葉町が避難解除になるにあたって、仁井田さんの思う「こんな町になったらいい」というイメージなどがあればお聞きしてもよいですか。それはもう双葉にかぎらなくても。

仁井田:やっぱり福島の人間として僕が思ったのは、無理してでも買ってくださいとお願いするようなことはあまりしたくない。「欲しかったら来なよ」というぐらいの姿勢でいいと思う。双葉に行かないと見られない、触れられない、買えない。「欲しかったら来なよ」というもので勝負してほしいということを思います。「あそこに行かなきゃ」って思わせたいですね。無理して買ってくれなくていいんだよ、欲しかったら来てね、来たらほんとに楽しいと思うよ、みたいな。そういうスタンスでいきたい。うちの蔵はそのように思っていますけどね。

島野:体験できることこそすばらしいことですよね。自然に触れられて、それからできた商品を味わうことができる、すごく贅沢なひとときじゃないかと思います。

仁井田:そうですね。とくにコロナによって東京の一極集中がとてもひずんだものだと感じている人は増えてきていますし、実際に東京にいるのが疲れたから地方に行くという人も増えているので、そういった意味でも地方をきちんと見直すことは悪くないんじゃないかとも思っています。

小祝:まさに仁井田さんのおっしゃる、双葉町に行かないと見れないものをつくることこそ、KIBITAKIプロジェクトの大きなミッションなんです。近隣で活躍されている方や、もうすでにさまざまなことを実現されている仁井田さんのような方と連携させていただいて、どれだけ双葉町で発信力のあるものをつくって新しいニュースにできるかということが、これからどんどんチャレンジしていかなければならないことだと思うので、おこがましいとは思うのですが、またいろいろとお知恵やご経験などからアドバイスいただける仲間となっていただきたいと思っています。

仁井田:わかりました。

島野:丈さん、クラフトジンの詳細はもう決まったんですか。発売の予定など。

高崎:発売予定日についてはまだ未定です。山口歩夢くんがボタニカルをなににするかを考えてくれて、いま決まったものは福島県いわき市にあるワンダーファームさんのトマトと、宮城県仙台市荒浜区にある平松農園さんのマリーゴールドが入る予定です。(クラフトジン「ふたば」のボタニカル:ジュニパーベリー、コリアンダーシード、アンジェリカルート、シナモン、トマト、マリーゴールド)もちろんできあがったときには、仁井田さんに手渡しでお持ちします。

仁井田:お待ちしてます。そのときはサウナに入れてあげるよ(笑)

島野:完成した暁には、小さくてもいいから双葉町でお披露目のイベントをやろうという話を以前からしているんです。

高崎:ぜひおいでください。

仁井田:よろしくお願いします。


次回はすでに双葉町のために活動を始めている浅野撚糸社長、浅野雅己さんをゲストとしてお迎えする予定です。スケールの大きな企画に携わるゲストとの対談となります。


文:丸恵(サムライジンガ)
撮影:福山勝彦(プランディング)
収録:須藤高志(サムライジンガ)
撮影場所:Creative Sound Space ZIRIGUIDUM(ジリギドゥン)
2021.8.3収録

今回はリモート収録にて、仁井田本家様より写真をご提供いただきました。ご協力いただき誠にありがとうございました。

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