見出し画像

自然とともに酒をつくる



KIBITAKI プロジェクトでは双葉町における食を通じた町の再出発について、さまざまなゲストをお招きしてお話を伺います。
第5回のゲストは新作クラフトジン「ふたば」の原料(酒粕)のもととなった日本酒をつくっている酒蔵「仁井田本家」の仁井田穏彦(にいだやすひこ)さんです。福島県郡山市で300年のときを眺めながら歴史と自然のなかで酒を育む酒蔵には、哲学と思想が織り込まれています。今回のゲストはどのように双葉町と結びつき関わっていくのか。KIBITAKIプロジェクトの3名とともに話しあっていただきました。


ゲスト プロフィール
  仁井田穏彦 にいだ やすひこ
仁井田本家 十八代蔵元兼杜氏
自然にこだわった酒造りを目指しながら地域の田や山などの環境を保全し、増やす活動に取り組む
KIBITAKIメンバー プロフィール

  高崎丈 たかさき じょう


元JOE’S MAN 2号・キッチンたかさき オーナー(新規店舗開店準備中)


日本酒のお燗を広める活動を展開中


株式会社タカサキ喜画を双葉町に設立


  小祝誉士夫 こいわい よしお


株式会社TNC 代表取締役/プロデューサー


海外70ヵ国で展開するライフスタイル・リサーチャーを運営し、
国内外での事業クリエイティブ開発をおこなう


  島野賢哉 しまの けんや


株式会社サムライジンガ 代表取締役/プロデューサー


ブラジル、台湾における芸術文化を中心としたプロジェクトに携わる

クリエイティブサウンドスペース 'ZIRIGUIDUM'(ジリギドゥン)創設者

島野:今回お話しさせていただくのは、福島県郡山市の酒蔵、仁井田本家さんです。仁井田本家さんも丈さんからのご紹介ですね。

高崎:はい。僕は仁井田本家さんに以前からとてもお世話になっています。

島野:どのようなきっかけから知り合われたのですか。

高崎:やっぱりお酒のつながりからですよね。

仁井田:そうですね。いまの日本酒の流行りは、フルーティでフレッシュ、イメージとしてはきれいな、冷やしておいしいお酒が主流ですが、うちのお酒は最近の主流に反して個性的でして、お燗にしたときにおいしいお酒です。個性的だけどなんとなく惹かれてしまう、お燗にしたら抜群にうまいといったようなものをつくっています。丈さんからは、お燗のつけかたやお料理とのペアリングなど、いろんな知識や情報をいただいていて、そこから丈さんのお店のファンになりました。

高崎:こちらこそですよ。

仁井田:それと同じ福島の生まれで、震災で大変な目に遭ったという共通した経験もあります。それでもめげずに前向きに、なにか福島の役に立ちたいという想いは私にもあって、お互いに共感できるものがあるのかなと感じています。丈さんはフットワークも軽く、いつもおもしろいことをされていますよね。それがどんな結果につながるのか分からなくても、それ自体を僕もおもしろく思うので。今回のジンも、うちの酒粕でジンをつくるなんておもしろそう、といったところから協力させていただきました。

高崎:ありがとうございます。僕こそ社長とおかみさんのおふたりのファンですよ。僕はもちろん仁井田本家さんについてよく知っていますが、社長ご自身から蔵のご紹介をしていただいてもよいでしょうか。

仁井田:そうですね。ではご説明しますね。仁井田本家は福島県の郡山市にあります、日本酒の酒蔵です。創業は1711年、酒造りをはじめて今年で310年目となり、私は18代目の蔵元兼酒造りの職人の親方、杜氏というものを担っております。仁井田本家の酒造りの特徴のひとつとして、使っているお米は全て無農薬のオーガニックのお米だけを使っていることです。オーガニックなお米と、この仁井田本家の蔵がある郡山市金沢村(かねざわむら)でとれる天然水だけを使っています。日本酒には加工助剤や補助剤のようなものがいくつかありますが、そういったものは一切使わないようにしています。お米にこだわるようになったのは17代目、私の父からです。父は1967年に地元の農家さんと協力して自然の力だけに頼り、自然栽培による農法で収穫されたお米を使った「金寳自然酒(きんぽうしぜんしゅ)」という酒を1967年にリリースしています。そこから仁井田本家は自然派に舵を切り、そして2011年、ちょうど創業300年の節目に蔵中のすべての酒がオーガニックのお米と天然水でつくられた酒に切り替わり、自然米と天然水以外は使わない、自然な酒造りをしていくことを目指すようになりました。そこに舵を切った大きな理由は、やはりお米のクオリティやポテンシャルが直に酒に現れてくるからです。自然栽培や有機栽培といった、人間が余計なものを入れずにつくったピュアなお米を使った酒は、とてもピュアな味がします。

画像1

さらには仁井田本家のミッションとして、私たちは「日本の田んぼを守る酒蔵」になることを目指しています。化学肥料や農薬を使って、いまこの瞬間に最大の収穫量を上げる方法ではなく、10年後、100年後までも田んぼが元気でいられるような、いわれる持続可能なサスティナブルでオーガニックな田んぼを増やしていくことを課題としています。これからの子どもたちに元気な田んぼを残してあげたい。当然のこと、酒蔵は田んぼがなくては酒造りができませんので、酒蔵にとって田んぼはとても大事なフィールドでもあります。そしてそれ以前に、我々日本人にとって田んぼというものはとても大切な、神聖なフィールドでもあるので、そこを自分たちのエゴで地力のない枯れた土地にしてしまうのではなく、自然の力に溢れた、人間がなにもしなくてもしっかり命を与えてくれるような田んぼを増やすことが重要だと考えています。その田んぼから生まれたお米を、まず私たちがたくさん使って、村じゅうの田んぼをオーガニックにしていきたい。いま仁井田本家はこの村の1/10の面積を自社田として耕作していますが、将来的には全ての田んぼがオーガニック栽培になれば、余計なものが入っていないので、虫たちがたくさん棲む元気な田んぼになる。川もきれいになるので、たくさんの生き物が寄ってくる。環境のよい自然を育てていくことも大事な仕事であろうということで、オーガニックのお米だけにこだわっています。

小祝:すばらしい取り組みですね。いま、ひぐらしが鳴いていますよね。オンラインの画面越しですが、声が聞こえてとても素敵です。

仁井田:夏真っ盛りです。今年は田んぼもすごく順調で。野生の鴨がたくさん来ています。合鴨農法って知っていますか。

島野:僕は知らないですね…

仁井田:合鴨のヒナを田んぼに入れると、ヒナが雑草を食べてくれるんですよ。それと同時に水かきで水を濁らせてくれて、光を遮ることで雑草も成長しにくくなる。ただ合鴨は飛べないので、野犬や獣たちに襲われないように電柵を張ったり、あとヒナが大きくなると稲を潰してしまうので、ある程度大きくなると出して締めなきゃいけない。いまうちでは合鴨農法はやめてしまったのですが、自然の鴨が田んぼに来て、子育てをしながら草を食べている景色は最高ですね。うちの田んぼは水が深いんですよ。有機栽培や自然栽培は深水管理(ふかみずかんり:通常よりも深く水を入れて田んぼを管理する方法。水深を深くすることで雑草が生えにくくなる)が有効なので、普通の田んぼよりもかなり水が深い。鴨はたぶんそれが気に入ってうちの田んぼにずっといるんですね。

島野:まさに自然が循環していますね。

仁井田:はい。気持ちいいですよ。話が逸れましたが、仁井田本家の目指していることがもうひとつありまして、とくに震災以降強く願うようになったことですが、自給自足の蔵を目指そうとしています。2011年、私たちの蔵では創業300年というおめでたい節目の年に震災が起きました。福島県では原発が爆発して、本当に痛い目に遭いました。それはいまだ解決しておらず、いまもなお続いていることだと思います。あのとき経験したことから、原発とは人間が手を出していいものではないのだろうというふうに僕は感じましたので、そういうマイナスなものは子どもたちに残したくないと思っています。元気な田んぼは残してあげたいけど、原発は残したくない。じゃあまずは自分たちで自給自足を目指して、原子力発電所のエネルギーに頼らないような生き方を模索することを考えました。農薬や化学肥料、そういったものは自分たちでつくりだせないので、自給できる範囲で米を育て、自給できる範囲で酒をつくる。最終的にはエネルギーをも自給できれば、その経験が村にフィードバックされ、市に、県に、国に…と順にフィードバックされて、原発に頼らない日本になれるかな、世界になれるかなという、そんな想いで自給自足の酒蔵を目指しています。仁井田本家は代々世襲をしていて私が18代目ですが、祖父の代には林業を営んでおりまして、蔵のまわりは本当に田んぼと山しかありません。自社田以外に自社山がたくさんあり、祖父はそこに多くの杉や松を植林していました。それが80年経ったいま、材木として活用できるようになり、杉を切って自分たちで木桶を作っています。祖父が植えて育ててくれた杉の木で木桶をつくり、この村の自分たちの田んぼで自然栽培で米を育て、蔵のなかに住む自然の微生物によって、生酛造り(きもとづくり)という伝統的な、かつ酵母無添加という自然の菌たちの力に頼る酒づくり、それを推し進めていこうと。そんなことを考えています。


続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?