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ヴィーガンを通じた活動

  KIBITAKI プロジェクトでは双葉町における食を通じた町の再出発について、さまざまなゲストをお招きしてお話を伺います。
第2回のゲストは浅草にて日本初、ヴィーガンコンビニ・ファミレス「VEGAN STORE」を運営されている鈴木翔子さんです。食に対する美学と卓越した技術をもつ今回のゲストが、どのように双葉町と結びつき関わっていくのか。KIBITAKIプロジェクトの3名とともに話し合っていただきました。

ゲスト プロフィール
  鈴木翔子 すずき しょうこ
VEGANコンビニ・ファミレス「VEGAN STORE」global meets合同会社 代表
菜食の可能性を広く伝えるため、植物性の新素材開発や自然農栽培の支援等、さまざまな方法によって活動中。VEGANを手段として地方の活性化を目指す。全国無農薬給食推進活動。

KIBITAKIメンバー プロフィール
 
  高崎丈 たかさき じょう


元JOE’S MAN 2号・キッチンたかさき オーナー(新規店舗開店準備中)


日本酒のお燗を広める活動を展開中


株式会社タカサキ喜画を双葉町に設立


  小祝誉士夫 こいわい よしお


株式会社TNC 代表取締役/プロデューサー


海外70ヵ国で展開するライフスタイル・リサーチャーを運営し、
国内外での事業クリエイティブ開発をおこなう


  島野賢哉 しまの けんや


株式会社サムライジンガ 代表取締役/プロデューサー


ブラジル、台湾における芸術文化を中心としたプロジェクトに携わる


クリエイティブサウンドスペース 'ZIRIGUIDUM'(ジリギドゥン)創設者


島野:KIBITAKIプロジェクトの取り組みとして、食を中心に双葉町でいろんなことをやってみたい、もしくは関わってみたいといったゲストにお越しいただき、お話を伺っています。鈴木さん、まずは普段どのような活動をされているのか、お話しいただけますか。僕らとのきっかけなどからでも。

小祝:僕と同郷なんですよね。以前お話ししたときに伺った気がします。

鈴木:はい。茨城の坂東市です。

島野:茨城の方って、知り合いに多い気がするな。

鈴木:茨城ってつまらないから、みんな東京に出てくるんですよ。だったら町を変えようなんて考えも通じない堅さがあるんですよね…

小祝:まあ、そうかもしれませんね。私も若い時はそうでした。

島野:でも茨城も震災のときに影響があったんじゃないですか。

鈴木:ありました。主に海沿いのほうですね。

小祝:東海村や大洗町などですかね。ほかの地域で風評被害もありました。

島野:避難指示が出た双葉町ほどの被害ではないにしても、そういった影響から町づくりや再出発などにつながったりはしなかったんですか。

小祝:そこまでじゃないですね。

鈴木:改善したいという想いとか、そういうものがなにもなくて発信しないんだと思います。なんだか響かないんですよ。

小祝:私はけっこう関わってるんですよ。

高崎:以前おっしゃっていましたね。干し芋のこととか。

小祝:干し芋は、まだそんなに。始めようとした矢先にコロナで集まれなくて。

鈴木:丸干しですか。

小祝:はい。丸干しの製造工程を残したいなと思いまして。継承する人がいなくなったら終わりなので。

鈴木:うちの実家でもやっています。べつに芋農家でもないんですけど。丸干しづくり、大変ですよ。蒸したり…

小祝:そうですよね。茨城の北のほうもけっこう盛んで。技術をもったおばあちゃんから干し芋づくりを教えてもらうはずだったのですが、コロナ禍のいま直接お会いするのはよくないということで、断念しました。

島野:丈さんと鈴木さんはどういったきっかけで知り合われたんですか。

高崎:いまはコロナの影響で閉めていますが、三軒茶屋でやっていた僕の店が『茶沢デパートメント』というサブスクに参加したんです。僕の店を含めた3つの飲食店がお弁当を提供する企画で、使い捨てではないお重箱にお料理を詰めて、食べてもらったら3店舗のどこに返却しても構わないというもので。

小祝:なるほど、お弁当の循環システムですね。ゴミも出ない。

高崎:はい。それに参加してくださったのが翔子さんでした。

鈴木:お弁当をお店に返したときに予約を取って、それから初めて丈くんのお店に行きました。昨年ぐらいだったかな。

高崎:翔子さん、うちに週5ぐらいで来てたこともあって(笑)

小祝:僕も2回ぐらい丈さんのお店で見ましたよ。とにかくおもしろい人がいるから、あとで紹介しますって言われたのを覚えています。

高崎:おもしろいですね、翔子さんは。僕が大阪へ出張していて、お店に出られない日があったんですけど、その間『ミラーリングレストラン』っていうイベントを、うちのシェフと翔子さんに開いてもらったんです。

鈴木:ヴィーガンではない動物性の料理と、ヴィーガンの植物性の料理を同じ見た目で表現して、鏡で合わせみたようなコース料理をお出しするイベントをさせていただきました。

高崎:うちのシェフの井戸雄太くんの料理と、翔子さんの料理を同時に並べるんですよね。

小祝:『ミラーリング』という言い方は一般的な言葉なんですか。

鈴木:私が作った言葉です。馴染みのないヴィーガンを食べてもらうにはどうしたらいいかなと思って。

小祝:おもしろいですね。飲み物もですか。

鈴木:飲み物はペアリングではないです。ミラーリングとペアリングだったらおもしろいですよね。ただ全て同じではおもしろくないので、同じ見た目の料理でも味を変えたりしているんですよ。対になる料理の味に寄せているものと、もう全く違ってスイーツになっていたりするものと。

島野:たしかにそれはペアリングが難しいですね。

小祝:何品出るんですか。

鈴木:5,6品だったかな。

高崎:お客様はコース料理に慣れています。たとえばペアリングを上下としたときに、料理と料理の横の関係性を確かめるということに対しては慣れていないので、お客様はおもしろいと感じたり、驚いたりします。とても良いイベントだと思いました。けっこう評判がよかったんですよ。

鈴木:私にとってもおもしろい経験でした。ヴィーガンじゃない人たちやヴィーガンを取 り入れ始めた人には、味を濃くしないと伝わらないんです。ヴィーガンに食べてもらうなら薄味でいい。濃い味ってことは体によくないんじゃないかと思ってしまって。栄養に関していえば、いくらでも調節できるものなんですが、「おいしい」って言ってもらわないと意味がないので。自分で感じている以上に味付けを濃くすることに抵抗感はありましたが、認知を広めるための勉強になりました。


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島野:ヴィーガンとの出会いやきっかけはなにかあったんでしょうか。

鈴木:海外によく行っていたのですが、だいたいのスーパーにヴィーガンコーナーがあることに驚きました。日本では「チーズ」といえば乳製品しかない。海外のヴィーガン製品のチーズの成分表には、アーモンドなどのナッツ類や大豆と書いてあったりします。そういった海外での気づきと、20代は介護の仕事をしていて、そのなかで病理食と介護食を学びました。介護食のきざみ食やミキサー食って見た目がよくなくて…人がおいしいと感じることって、視覚で80%味わって、食べて残りの20%を埋めて、100%のおいしいになると思うんです。きざみ食だから刻んであるだけにしたって、見た目の悪さはもっと違う形にできるんじゃないかと。魚なら魚の形をしたきざみ食やペースト食があってもいいはず。ヴィーガンと介護食がミックスされたらいいな、と感じたこともきっかけのひとつです。あとは自分の持病もあって、いろんな食事を試していたらヴィーガンに一番向いていることに気づきました。そこから人体の図形や医学書を見て文献などを探っていくと、やっぱり人間は菜食向きだろうと思い始めました。歯の形も臼歯だし、腸だってとても長いので、本来は草食に向いた動物であるはずです。

島野:僕は翔子さんの『VEGAN STORE』に伺ったことがあるのですが。お店を始めたのは、ヴィーガンを広めるためだったんですか。

鈴木:もともとはヴィーガンのチーズ製造業にするつもりでした。最初はこの国に売り先があるのかと疑問に思ったのですが、逆にないからこそ作れば「日本初」になるなと気づきまして。ヴィーガンコンビニとも呼んでいて、コンビニができるぐらいの需要があるという見せ方をしたかったんです。ヴィーガンじゃない人に向けたお店にしたいんですよ。

島野:ラーメンとかもありましたよね。

小祝:ヴィーガンのカップ麺?

島野:そうです。だから間口が広いと感じました。上がレストランになっていて。

鈴木:おでんもありますよ。そういったヴィーガンではない人に対しての、外に向けた目的がまずひとつ。もうひとつは、ヴィーガンって世間的に叩かれやすいんですよ。ヴィー ガンはイギリス発祥の言葉で「食、衣類、あらゆるものに対して動物搾取をしない、残 虐行為をしない生き方」です。なので、過激な動物愛護の人たちとして認知されていたり する。ヴィーガンは畜産業や、酪農家を叩く人たちという偏った考え方の人達になりがち です。やはりどんな素晴らしいことでも発信の仕方によって、クレーマーだったり、うる さい人たちになってしまう。2018年オックスフォード大学が中心となった研究結果で、地
球環境を救うのは人類がヴィーガンになることが唯一最大の可能性があるとの事。地球も動 物も救うなんてすごくないですか? だからこそ、偏見をなくしていこうという決意の元、その偏見を背負って『VEGAN STORE』という名前をつけたというところもあります。 

小祝:ヴィーガンとヴィーガンではない人の両方に目を向けているというのはおもしろいですね。『ミラーリングレストラン』のようにレストランでポップアップをして、浅草で店舗も運営されているというのが、いまの主な活動なんですか。

鈴木:あとは研究をしているものがあります。世界初の素材を11種類作っているんです。

小祝:そんなにあるんですか。すごいですね。

鈴木:ヴィーガンのたまごとか、脂身とか、そういったものを作っていたら、いつのまにか11個になっていました。そしてできた素材をいろんな地方に持っていって、そこで量産できる環境を整備できれば「世界初素材を作る町」ということでフォーカスされますよね。その素材たちが町おこしの種になるかなと思って。地方に雇用を生まなければいけないと考えているので、やっぱり地方に持っていきたい。長野県の木島平村というところがあって、そこの道の駅をまるまる使わせていただけそうなので、いま試験的に施設内の重機などを動かしながら準備しているところです。手伝ってくれているのは、村の女性たちなんですよ。木島平村の特産物ってお米なので、とりあえずそのお米を使って彼女たちとカマンベールやブルーチーズを作ろうかなと思っています。

小祝:米でチーズですか。

鈴木:はい。タンパクがなくてもチーズはできるんです。タンパクが必要なのはカゼインという伸びる素材だけで、カマンベールって伸びないじゃないですか。だからタンパクがなくても、酒粕だけでもチーズはできます。酒粕のブルーチーズなんて、たぶんめちゃくちゃおいしいですよ。

高崎:酒粕こそ余ってますからね、どの蔵も。

小祝:使い道がないんですか、酒粕。廃棄するしかないってことですか。

高崎:人気の蔵じゃないと酒粕はうまく消化できていないんです。

小祝:ああ、たまに売ってますね。あと化粧品に使うとか。お米とか酒粕から作るチーズって、すぐにでも売れそうな気がします。

鈴木:美味しいですよ、さっぱりしてて。米や酒粕のチーズは油分があまりないので、あとからいい油を添加して変えられます。ヴィーガンのレストランだけではなくて、普通のレストランでも、コースのなかでさっぱりめのチーズを出したり、なんて使い方もいいですよね。

小祝:活動範囲がとても幅広いですね。地方に雇用を生むというのは、先ほどの話では茨城に対して否定的ではあったものの、故郷のことを考えていたりもするんですか。

鈴木:最終の…ラスボスが茨城だと思っています(笑)全国で無農薬給食の推進活動もしているのですが。

小祝:そういったこともされているんですか。立派ですね、それは。

鈴木:長野県でやっているんですけど、無農薬給食推進活動。茨城県ではまだ…

小祝:ああ。農園的なものは一部ありますけどね。

鈴木:高萩のあたりに無農薬があったりするんですが…茨城には精力をつけてから行こうと思っていまして。全国の自然農の農家さんはだいたい巡っていて、各地に地域おこし協力隊がいるので、協力してもらっています。そこで今回は長野の木島平村、その次は熊本の津奈木(つなぎ)町というところとご縁ができたので、順に世界初素材を持っていくつもりなんです。素材を種に雇用を生んで、フォーカスを当ててもらって。その地方の工場ではその素材しか作らないと決めて、各地で活動を展開していきたい。それから全国には、問題になるほど耕作放棄地がありますので、無農薬栽培にしてもらう権利をいただいて、小さな町、小さな自治体から無農薬給食を叶えていって、じわじわと領地を増やすという野望をもっています。


続く

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