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「この場所には千代むすびがないと困るという会社にしたい、ならないといけないなと思っています」

島野:岡空さんご自身、お酒はお好きなんでしょうか。銀行員をされていたときなど、お仕事で飲む機会もあったかと思うのですが。

岡空:まあお酒は好きだったっていうのはあります。ただいろいろと考えて飲むようになったのはやっぱり結婚してからですね。以前は楽しむためのお酒でしたが、このお酒はどうやってつくってるんだろうとか、どんな歴史があるんだろうとか、カクテルもけっこう奥が深かったり、そういうことを考えるようになったのは千代むすびに入ると決めてからですね。もともとお酒を消費するだけの立場だったこともあって、ふつうはそこまで考えてお酒を飲むものではないということも知っていますので、つくり手の想いだけで力説しても伝わらないことがあるということは考えます。泡酒というスパークリングの協会があるのですが、いまそこでリブランディングのことについてなどいろいろ話し合いをしていて、ブランドコピーをつくっているのですが、あまり説明ばかりになるとわかりづらくなるんですよね。「これはなんだ」って興味をもってもらえるようなブランドコピーにしたくて、抽象的な表現になりますが想像の膨らむような、キャッチーな言葉を作ろうとしているんですけど、そういった伝え方のほうが大事かなと最近思っています。みんな二次発酵なんてあまり興味ないと思うんですよね…

高崎:聡さんのところの甘酒がすごい売れていて、とくに地元の方に消費されているというお話を以前聞いたのですが、僕はそれがいちばんブランディングにつながるんじゃないかと思っています。最近いろんな地方の酒蔵に行って感じることですが、やっぱり地元にどう愛されるかを真剣に考える蔵が最終的に発信力のある蔵になっていくという印象があります。

岡空:そうですね。おっしゃるとおり地元のつながりというのはとても大事にするようになりました。コロナをきっかけにさらに深く考えるようになりましたね。とにかく外に出られないじゃないですか。その甘酒なども地元の方々とコラボさせていただくことで新しいものに変化していて、地元のJAさんや全農さんなどのご協力で鳥取県産の植物、イチゴやブルーベリーとコラボして甘酒を作ってみたり、甘酒のパンを作ったりしています。そうすると活動を通して関係人口が増えてきますよね。最終的にはそこの要のひとつになりたい。この場所には千代むすびがないと困るという会社にしたい、ならないといけないなと思っています。そうすれば永続する可能性があるんじゃないかと。ただ米を買って酒をつくるだけではなく、地域のいろんなチェーンのなかに千代むすびがあるというのが理想かなと思っていますね。

島野:コロナ禍によっていちばん変わったことはなんでしょうか。いまの甘酒のお話しでの地域密着という部分も変化の一部だと思うのですが、顕著に変わったなということはありますか。

岡空:たくさんありますが、顕著なことといえば出張費が大幅に減りました。以前はみんな出かけていて、場合によっては1ヶ月以上顔を合わせないなどあたりまえだったんですけど、いまはみんなここにいる。すぐにコミュニケーションがとれるようになったんです。会社の業務の棚卸しができるようになって、私たちもどんどん現場に入れるようになったことで、やらなくてもいいことはやらなくていいというふうに変わってきました。あとは観光でお客さまに来ていただけないことや飲食店さんの状況も厳しいので、オンラインでの販売に力を入れています。以前は酒蔵が直販すると酒販店さんの利益を奪ってしまうので難しい面があったのですが、いまはもうどこも直販を始めていますし、リピーターの根強いファンがどんどん増えてきています。直販を強化せざるをえないという面があるのはコロナによる影響ですね。

島野:岡空さんはいま製造の現場から販売も広報PRも多岐にわたって携わっておられる状況なんですよね。

岡空:全部やってますね。基本は私がずっとひとりでやっていましたが、SNSでの発信をみんなでやることにしようかなと思っています。私はほぼ毎日発信していて、これがけっこう大変なんですが、やっぱり見てくださっている方がおられて、他の酒販店さんではなく千代むすびに行こう、という地元の方が増えてきたんです。ただ、上にいる人間だけが発信するとか、上にやらされているという感覚じゃなくて、発信したことでお客さまが来てくださって反応があるとやっぱり楽しいと思うんです。みんなで発信することにだんだんシフトしていこうかなと思っているところですね。

島野:岡空さんは本当に頻繁に更新されていますよね。

岡空:全部で8アカウント発信していますね。地元の業者の方もけっこう見ておられて、じゃあこれをプレゼント企画の商品にしてみようとか、こういったものをつくれませんかなんて話が来たりですね。県内産品でコラボしたものをつくろうと思ったとき、私達のSNSが最初にご相談、お問合せをいただける場になっています。いまもりんごのお酒をつくってくださいとか、むちゃぶりがどんどんきますね(笑)イタリア米をつくっている農家さんからイタリアのお酒をつくってくださいとか。いろんな相談が来るので全部はできないんですけど。

仕込み体験①

島野:甘酒や焼酎、クラフトジンなどさまざまなお酒をつくられている千代むすび酒造さんですが、近年日本における日本酒の需要、そもそもお酒自体の消費量は昔よりも減っているのかなという印象があります。そういったことからおそらくいろんな商品を出すことで需要喚起をしておられるのだろうと想像するのですが、いかがでしょうか。

岡空:そうですね。1975年ぐらいからずっと右肩下がりですね。そのうえにコロナによって勢いを増して、昨年対比で売り上げが増えたというところはないと思います。いわれるように需要喚起や国際化、輸出、あとは高付加価値化が重要になってくると思っています。いままでのようにお米を仕入れて1本1500円のお酒を大量につくるというやりかたはもう終わりを迎えていて、いかにつくったものの価値を伝えるかが重要という局面にきていると思います。付加価値をどうするかということのひとつに地域色を出すという方法があります。やっぱり鳥取県産のものしか使わないと決めているので、それに関係するものを価値ととらえてもらえれば買ってもらえるのではないかと考えます。大手が大量につくる甘酒やお酒と勝負してもキリがないし、成り立ちませんから。いかに価値を生みだすかが勝負ですね。難しいんですけど。

島野:そういった意味ではブランディングが重要だし難しいですよね。多種多様な商品を出すのもいいが、結局そのなかでうまく絞っていかないと採算性のあるなし、それに付加価値をどうつけていくかも、あれだけバラエティに富んだ品数だとそれぞれのブランディングや方向性をどのようにつけていくかをしっかり考えていかなければいけないでしょうから、大変ですよね。

小祝:そもそもの質問ですが、なぜこんなにたくさんのお酒をつくっていらっしゃるんですか。

岡空:私が入社する以前から品数はありましたので…なるべく統一して集中したほうがいいとは思うのですが、それぞれにファンがついているのでなかなか切りづらいというところがありますね。なにを売りたいかっていうところは絞っていかないといけないと最近考えています。泡酒協会の仲間もですが、この3年半でいろんな酒蔵さんと交流がありましたので、そういった方に電話をして、どんな想いで開発をしているのかなど聞いたりして勉強しています。たとえば「七賢」(しちけん)さんのお話などとても勉強になります。うちとは逆の方針で、選択と集中で絞りこんでやっていかれているので。うちも高額商品のリリースを最近始めたのですが、「七賢」さんなどのそういったハイブランドの会社を参考にしています。このまえの冬に720mlで1本10,000円のお酒を2種類出したんですが、やっぱりただ高いだけでは意味がないので、どういう意味でどういう価値があるのかを打ちだすことにチャレンジしていて、つぎは1本30,000円を出そうと計画しています。

高崎:それは海外を視野に入れているんですか。

岡空:いまは国内です。日本酒の価値が下がることはハイクラスのお客様につながることにもなっていると感じているのですが、「あなただけに」といった特別感を意識したものをいま考えています。いままでやってきたこととはちょっと違うのですが。あとは最近、酒蔵見学の有料コースも始めました。今日も10時から4名きてくださっているんですが、1人5500円のコースです。

高崎:ガイドしてくれるってことですか。

岡空:そうですね。前半はスライドで千代むすびの歴史やお話をして、スパークリング「SORAH」の澱抜き(おりぬき)体験をしてもらいます。最後はテイスティングもできて、お土産がついていたりします。いままではすべて無料でやっていたのですが、無料だと価値がないと思ったんです。そのことで自分たちに負荷をかけることにもなるんですが…有料にして責任をもってご案内をするということです。

島野:関東などからも人が来るんですか。

岡空:いまは鳥取、島根からですね。鳥取、島根は横に長いのでけっこう遠くから来てくださる方もいらっしゃいます。もう飲む気満々で電車で来られたり(笑)境港の有名観光地の水木しげるロードは800mほどの通りで、そこにブロンズ像が170体ぐらい並んでいますが、平日はゴーストタウンのような状態なんですね。なにもしないと嘆くだけですが、酒蔵見学コースをつくることによってうちに来ていただけると思っています。それが無料であればたぶん来ようと思わないのではないでしょうか。お金を出して特別な体験をできるから友だちと行ってみようなんて話になる。

島野:それって重要ですよね。好きなお酒がどうできたかという工程や環境をその場で楽しむことは、まず日常で体験できることではない。目で見て感じて、最後に飲める。それは十分な付加価値になりますよね。

岡空:うちのSNSやクチコミでの発信をみて来た人もおられますが、昨日も私が出演したのですが、地元のラジオでも発信していて、それを聞いた方が来られたりしています。

高崎:聡さんはけっこうメディアに出てますよね。

岡空:意外と酒蔵見学を希望される方は多いんですよ。ありがたいことです。そこから千代むすびに興味をもっていただいて、遠くにお住まいの方にはオンラインで買っていただいたりとか、おうちの近くの酒販店さんを紹介したりしていますね。

島野:そのうちオンライン酒蔵見学とかも出てくるんですかね。

岡空:もうやりました(笑)夜の酒蔵見学ということを東京の方と企画して、先に参加者のご自宅にお酒を送っておいて。もちろん買っていただいたものですが。現地のこちらでは夜に私が案内して回る、みたいなことをやりまして。

島野:そうか、普段夜は入れないですもんね。

岡空:夜は入れません。

島野:オンラインだからこそできるという。

岡空:オンラインだから普段は立ち入りできない麹蔵などもご案内できる。

島野:それはいいですね。反応はよかったんですか。

岡空:そうですね。酒蔵の人も2人ほど参加されたんですよ。緊張しますよね(笑)マニアックなんでどうしても業界に近い人が多くなってしまうんですけどね。でもいろいろやっていると、企画をする人からも連絡が来てコラボしたいみたいな話もけっこういただいたりします。

島野:おもしろいですね。広がりますね。

岡空:おもしろいんですよ。体が1個じゃ足りないんですよ(笑)

ラジオ出演・岡空聡


続く


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