「ネガティブ要素はプラスにできることだと思うんです」

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    ▲鈴木翔子さんが開発したヴィーガンのたまごを使った料理

島野:その野望を含めた翔子さんのいろいろな活動が、双葉町とどのように結びつけられるか、翔子さんご自身はどのように思われますか。以前丈さんと実際に現地へ行かれていますよね。

鈴木:そうですね。先ほど少し話題には触れたのですが、世界初素材のひとつ、ヴィーガンのたまごは可能性があるんじゃないかと思っています。本当は持ってこれたらよかったんですけど、今日は長野から直行してきたので…

小祝:なにでできているんですか。

鈴木:ほぼ水です。

小祝:水でたまごを作るんだ。

島野:たまごでしたよ。僕はお店でいただきました。

小祝:白身と黄身があるってことですか。

鈴木:いや、試験的にうちのレストランで提供しているのは卵黄だけですが、べつで卵白も作れます。

高崎:たまごかけご飯もできますよね。

小祝:あ、生たまごなんですか。色も黄色ですか。

島野:僕がいただいたときは黄色になっていましたよ。

鈴木:いまは黄色にしています。黄色じゃなくてもいいと思うんですけど、やっぱり…

島野:視覚的なものがありますよね。

小祝:焼けるんですか。

鈴木:焼けないです。この卵は、似ても焼いても生の黄身。ゆでたまごの卵黄なら、その仕様で作ります。

高崎:どのぐらい保つんですか。

鈴木: 1ヶ月くらいは保ちます。

小祝:すごいですね。

高崎:そう、すごいですよね。僕もヴィーガンたまご自体にとても可能性を感じていて。つい最近、双葉町でお米の田植えが始まったんです。試験栽培ということらしいのですが、実際収穫にいたるにはあと4、5年はかかりますと。

小祝:それはなぜですか。

高崎:試験栽培なので、やっぱり安全性を確かめるためだと思います。南相馬や浪江はもうすでにできているのですが、食米として売れるところまでのものになるには、やっぱり4、5年かかったそうです。そこでいまの双葉町では食に関した農産物や家畜は作れないのだとすると、作れない町でものを作って世界に発信するということに意義があるのではないかと思うんです。

島野:でも双葉ではまだ水が使えないんでしたっけ。

高崎:そうなんです。まだインフラが整っていないので、その問題は解決しなければいけないのですが…

鈴木:農作物を作っても食べてもらえないのなら、ヴィーガンレザー(動物性の革を使用せず、人工的に再現した新素材)にしてみてもおもしろいかなと思うんですよ。葉っぱでできているヴィーガンレザーとか。

小祝:キノコとかね。

鈴木:よくご存知で。マッシュルームレザーですね。食べてくれないなら、身につけてもらえるものを作る。ネガティブ要素はプラスにできることだと思うんです。

小祝:翔子さんのいまのお話を聞いて、社会課題という観点から、革新的なことで課題を解決していくことと、双葉町でのKIBITAKIの活動はリンクすると思いました。翔子さんの活動だからこそ、いまの双葉町でやったほうがいい。メッセージがより明確になるんじゃないでしょうか。

島野:強いメッセージになりますね。

高崎:双葉町って日本を超えて海外にも注目されているんですよ。たとえばオーバーオールズさんと一緒に活動させてもらっている『FUTABA Art District』のアート活動も、南ドイツ新聞やBBCから取材依頼が来ていて、注目度が高い。どこで発信するかはとても重要で、もし話題が海外まで広がれば、さらなる新しい展開も見えてくる。予想以上の可能性が広がりますね。

鈴木:研究中の世界初の11素材には、よさや特徴がそれぞれあるので、各地方のネガティブ要素をプラスにできそうな、相性のよいものをその地方に当てていきたいと思っています。これから関わらせていただこうとしている熊本の津奈木町というところは、水俣市の隣に位置していて、水俣病が発生した場所の近くですから、汚染された魚に苦しめられた記憶がある土地です。もう化学は恐いということで、現在はほぼ自然農が占めているんです。昨年の7月4日、豪雨水害があったときには募金活動などもしていたんですが、津奈木町にヴィーガンとしてなにかできることがないかと考えています。

小祝:双葉町も、もう少し長い目で見れば、これから産業を作っていく、人の生業を作っていくことを考えなければいけないですよね。ここに住んでくださいと言っても、そこに産業や生業がなければ暮らしていけない。さまざまな可能性は考えられますが、そういったことをヴィーガンで新しい社会課題へのチャレンジができればいいですね。先ほどの話につなげると、ヴィーガンたまごを種として雇用を生むような。地元の人や外からきた人たちみんなで新しいたまごを作るって、ちょっとおもしろそうですね。

鈴木:手作業のよさって、絶対ワイワイしながらやることなんですよ。マスクはしていても。小さいグループだと仕事の振り分けや時間の分担なども、比較的簡単にできるということもあります。みんな村をどうにかしようとしている人たちばかりですから。そこでコミュニティみたいなものができあがっていけばいいなと思うんです。

高崎:そうですよね。僕を含め、地元の方たちが戻ってきたいと感じてもらうことが大事ですし、そこでなにかをやりたいという人材が来てくれるような、魅力的な企画がいくつも立ち上がることを目指したいです。

島野:翔子さんのおっしゃっていることって本来は人間のあるべき姿なんだけど、いまは逆になっていて、社会的にマクロな存在、たとえば現在の酪農や畜産などの大規模生産、いわゆる大量消費と真っ向から立ち向かう、どうしても対抗するような存在になってしまっていると思うんです。本当は対抗なんかしなくても、肉やたまごをあえて食べない生活を選択するのは自由です。でも、すりこみのごとく大手企業や大部分の人間が営み、信じるものの隙間でしか、いまは存在できていないというか…だからこそ双葉で成り立つ、双葉から浸透していく発信ができるのではないかと感じています。

鈴木:酪農や畜産の人たちがいるから、ミラーリングができるんですよ。木島平村にも酪農家がいてチーズを作っています。でも私のほうがおいしいチーズを作れるよって言って(笑)一緒に木島平ブランドで菜食用と普通のチーズをセットで売っちゃうとか。無農薬給食の団体の話ですが、言わなくとも「無農薬ではない農家を排除する」みたいに取られてしまう。だから広がらないんだなと思いました。排除ではなくて、農薬を使った野菜でも、発酵をかけると農薬が少し減るような、そういった方法もあります。生産者の方にも無農薬のほうが高く買ってもらえるなら作ろうかな、と思ってもらえるように。自然農や無農薬に少しずつ実績を作っていって、移行していければいいと思っています。ヴィーガンとは本来、食、衣類、あらゆるものに対して動物搾取をしない生き方をすることです。それは志であって気持ちですから、敷居が高いものでもなんでもないんです。排除することは不可能だと知っています。ヴィーガンは過去、そういった失敗をしてきた人たちですから。

島野:共存しながら。

鈴木:共存できるんですよ。私の考えでは。私の作っている代替物や新しい素材が、精肉コーナーに新しい肉として、たまごコーナーに新しいたまごとして、そんな存在になればうれしい。人類の最終目標がヴィーガンだとするならば段階が必要。べつに全ては変わらなくていいんです。

高崎:選択肢のひとつですね。

島野:福島や双葉では風評被害があるじゃないですか。だからこそ、そういうところで生まれたものがしっかりと健康的なものであれば、マイナスをプラスに変えられますよね。

鈴木:双葉町においては、これからが本格的な町の再スタートということでブランド力もつけられるし、付加価値がある町にもできる。ここで新しいものを作ること、しかも未来の食べ物を作れることはとても意義のあることだと私も思います。

島野:お話を聞いていると食に対する概念が全く変わってきますし、そういった概念を含めて、双葉町から発信できたらおもしろいですね。


次回は醸造と発酵を専門に研究し、お酒や食品の開発にも携わる、山口歩夢さんをゲストとしてお迎えする予定です。独自の観点と深い知識を込めて、オリジナリティ溢れる食を作りだすゲストとの対談となります。

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