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六道 餓鬼編 意地汚い人はどこに行く 2

※地獄のフィクションストーリーです。

第2章 さあ、旅路の用意はできたかな

中有(ちゅうゆう)

ご臨終を迎えた理香は、真っ暗闇の中にいた。
暗闇の中で、死後の世界がスタートする。理香は訳もわからず、真っ暗な場所を手探りで歩くしかなかった。ひたすら歩き続けるだけ。止まればずっとそこに止まるのみ。この場所は「中有」と言われる暗闇の空間。ここに死後落とされる。
「誰かぁ〜。いないの? 怖いわ。何も見えないわ」
自分の声が空間にこだまするばかり。
ただ動かずじっとしている時もあれば、恐ろしさのあまり闇雲に動く日もある。
遠くで何かうごめくような気がするけどわからない。
そのまま、2年程彷徨ってやっと次へ行けるのだ。
歩きながら理香は思った。これは私に与えられた罰なのかしら。
何か悪いことでもしたのかしら。いいえ、そんなことはない。
私なりに頑張ったもの。人生を振り返りながら、なんとか2年が過ぎた。

死出の山

暫く行くと、やっと暗闇から解放されたような感じに襲われた。
「やった!抜けたわ。やっとね。やっとよ!」喜んだのも束の間、目の前に見えてきたのは、切り立った険しい山道には棘のある木が生え、冷たい風がヒューヒュー吹いている。
理香はまだ知らないが、そこには人間の目玉や脳みそを好物とする地獄の鳥で、
無常鳥(むじょうちょう)や跋目鳥(ばつもくちょう)が飛び交って、人間を見ると容赦無く襲ってくるのだ。
理香は、棘に刺さりながらも、木の影に隠れたり、棒を振り回したりしながら進んで行った。しかも、葬式の際に理香には足袋や草履も履かせてくれていなかった。
辛うじて、白装束は着せてもらっていたものの、足は素足のままであったため
素足で歩くしかない。
「あ〜。誰か助けて」
ただ、もう肉体は無いに等しいので、喰われたところで、怪我をしたところで、
その恐怖と痛みが何度も襲う精神的な苦痛を味わう場所なのかもしれなかった。

賽の河原(さいのかわら)

ほどなくして、理香はいくつもの石がたくさん積み上がった河原に出た。
穏やかな場所であったため、幾分、気分が和らいだ。
歩いて行くと、小さな子供たちに目が留まる。
何やら一生懸命石を積み上げている。
それを、形相の悪い鬼たちが、棍棒で何度も壊すのだ。
その様子にさすがの理香も心が痛んだ。
「あんな小さな子供たちに酷いことして」
しばらくその様子を見ていると、天から明るい光と共に地蔵菩薩様が現れた。
理香もその光景にしばし目を奪われ、心を優しく包み込むような感じに涙が溢れた。「なんて心地の良い気分なのかしら。こんな気持ち味わったことはないわ」
地蔵菩薩様は、河原にいる子供たちをその場から抱き上げられ、一緒に天へ登っていったのだった。
ほっと胸を撫で下ろす理香であった。

そう、ここは親よりも早くに寿命が来た子供たちの場所。子供たちは賽の河原で石積みを行うのだ。あの世とこの世を繋ぐ地蔵菩薩様が、お救いになる。

三途の川(さんずのかわ)

ご存じ。三途の川も金次第。
そうここは言わずと知れた三途の川である。
六文銭(現在では200円ほど)を船の船頭に払えば、船で向こう岸まで乗せてくれるとても有難いシステム。
でも、理香にはその200円すらないのだ。
寂しい最期を迎えたのである。お葬式には誰も来ず、自分で入った老人ホームで息を引き取ったのだけど、そこでも意地の汚さはそう簡単には善人になれない。
お気の毒だが、疎まれながらの形式だけのお葬式だった。
お金にも汚かったので、生前はあまりお金に苦労はしなかったようだが、
肝心要の死後の世界までお金が必要とは、死んだ後などどうでも良かったに違いない。理香自身、死後の世界など全く興味もなければ、関心もなかった。

「あんた、金あるかい」
白装束の自分の懐を探るが、何も出てこない。
「ここに来るまでに落としてしまったみたい。確かにあったのよ。後で必ず払うから船に乗せてよ」
「あんた、そりゃダメだね。ここでも嘘ついちゃ、先が大変だぜ。
 あっちに歩いて渡る場所があるから、そっち行きな」
横柄な態度にむくれながら、嫌いや歩き場所へと移動した。

ここにも3箇所の渡り場所があった。
門番らしき婆婆が目を光らせている。

「すみませーん。この橋渡れますかぁ。」
もうすっかり老人なのに若作りの声を出す。
「あ〜。あんたね。あんたは、そっちから渡ってちょうだい」
見るからに、激流だ。
「え?橋は渡っちゃダメなの。それか、こっちの浅瀬のところでもいいじゃない。
 なんで私が、こんな水の勢いのいいトコ歩かないとダメなのよ。
 私、年取ってんのよ。流されるじゃないのよ!」
「グダグダうるさいね。あんたは、こっちって決まってんだよ。橋も浅瀬も渡れないのさ。着いたら、門番の調べがあるから、早いとこ渡んな。
その図太い性格で流されるもんかね。行った行った』
しっしっ。と手で追い払われる。

この三途の川は、罪の重さで渡る場所が決められている。
まあ、辛うじて悪さをしても神の助け?生前の助け?で、200円を払うことができたら、ここだけはラッキーだけど。でも、ここだけね。
悪事はそう簡単には見逃せられない。閻魔様怖いのよ。

あっちもこっちも鬼やら気持ち悪いのがウロウロしてるし、しょうがないと諦めて
激流を渡りはじめた。
生前、さんざん嫌がらせや苦渋を舐めさせられた人が今までのこの光景を見たら、さぞかし胸がスッとすることだろう。

さあ、渡り切ったところで、奪衣婆(だつえば)の登場だ。
やっとのことで渡り切った理香は、倒れ込むように岸辺に着いた。
途端に、奪衣婆が着物を剥ぎ取った。
「何すんのよ!」
「うるさい。着物の重さで、あんたの罪具合を見るんじゃ。着物がなかったら皮を剥いででも測らせてもらうよ」

十王の裁き

この2年ほどの間に、地獄の十王たちは生前の罪の審議を行っている。
初七日、死後7日目は秦広王 14日目に初江王 など
10人の王たちがさまざまな各部門で裁きを終え、
3回忌である731日目、五道輪廻王から、次の生まれ変わる先が告げられるのだ。

ここではなぜ、六道ではないかというと、6番目の輪廻場所は上がりで、天道となり、輪廻を繰り返すことが終わる場所とされている。
ここに行く人は、道順が始めから違うのかもしれませんね。
しかしながら、天道とて楽な場所ではない。

あ〜なんてこと!

これが私??

つづく



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