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元カノのキャリーケース

「久しぶり。そっちに私のキャリーケース置いてあるよね 取りに行っていい?」
前付き合っていた彼女から、うんヶ月ぶりのLINEメッセージが届いた。

この彼女は付き合ってる途中に上京して、その際に地方の1DKマンションから東京の6畳ぐらいのワンルームに引っ越したのだが、荷物が収まりきらないので、入り切らない荷物はボクの部屋に一時避難させていた。

その最中に別れたので今でも彼女の荷物がまだいくつかボクの部屋にある。

楽器、服、人形、パンツなどなど。そんな彼女からキャリーケースが必要になったからか「キビキお預かりサービス」からお引き出し依頼がきた。

オレはこれまで別れた女とはきっぱり連絡をしないようにしていた。しかし、これは歳をとったからなのかオレはこういう考えは幼いんじゃないかと思いだした。元カノと程よい距離感をとり、良き異性の友人として関係を断たないようにする。うむ。なんか大人の対応である。

元カノと別れたときに荷物を置いたままにしたのも一気に返すのは彼女の生活に支障が起きるだろうと思ったのもあるがこのような主義の実践のためでもあった。

夜。彼女のキャリーケースを引いて駅前で待ち合わせ。

キャリーケースを引き釣りながらどのように会話をするかシュミレーション。「よう!久しぶり!元気してた??」
…うーん。声のトーンにもよるがこれだと会えたのが嬉しいように伝わりそうだ。元気って聞き方も良くないね。もっとこう、相手と距離を保ちながら体調を気遣うのがベストだ。

「…おう。久しぶり…。……あー、ご飯とかちゃんと食べてる?」


うむ。これだね。「ご飯食べてる」っていう短いワードの中に「体調への気遣い」や「生活が安定しているか」が含まれている。こんな感じで行こう。

そんなことを考えながら駅についたオレは元カノが改札を出るのを待った。
そしてしばらくして元カノが、来た。

以前と変わらない顔。雰囲気。向こうも気づいた様子でこちらへ向かってくる。オレはシュミレーション通りに声をかける。

オレ「…おう…」
元カノ「…あ、久しぶり…」
キャリーケースを掴んだ彼女は「ありがとう…じゃ…」
オレ「…おう…じゃ…」
スタスタスタ…
彼女はそのまま改札を通って帰っていった。

………

そっけなー!!

いや別にサムシングを期待していたわけじゃないし、復縁する気持ちも毛頭ない!そもそもあなたのためにオレの部屋にまだ荷物置いてるんだよ!? 少しくらい世間話してお互いの安否とか気遣おうぜ!? あれ? もしかしてオレがいろいろ気を使っていたことってオレが逆にして欲しいことの裏返し? いや今は自己分析はどうでもいい! 男と女の間には深くて長い川がある!あまりにも業務な元カノの対応にボクの心は傷ついてしまった!

モヤモヤが収まらないためか、なんか急に酔っ払いたくなったので帰り道ボクはバーへ行った。

今日の三日月はきれいだった。

楽器、服、人形、パンツ。
まだ彼女の荷物はボクの家にある。
次から郵送を検討しようと思う。

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