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幸福のコイン、ペニー銅貨と「ギザ十」


■ギザ十を集める人々

 どうでもいい話だが、僕は20代の頃から「ギザ十(ギザジュウ)」を集めている。いや…、別に意識して集めているわけではないが、手許にあるのに気が付くと何となく分けておく。駅の切符の自動販売機などは、この「ギザ十」を通さないので、これだけが返却口に落ちてきたりする。こうして自販機で使えない「ギザ十」や小銭入れの中のギザ十をとっておいたのが、現在は2リットルのお茶のペットボトル一杯になっている。
 「ギザ十」とは、昭和26年から昭和33年まで製造された、ヘリに溝が刻まれた古い十円玉のことだ。この溝は全部で108本あるそうだ(小学校の頃に遠足のバスガイドさんから聞いた話だ)。昭和31年だけは発行されていない。この「ヘリに溝が刻まれた古い十円玉」のことを「ギザ十」と呼ぶことを知ったのは、30代の頃のこと。僕が子供の頃には「ギザ十」などという呼び方はされていなかった。
 「ギザ十」には愛好家というか、収集家がたくさんいるようだ。「ギザジュウ倶楽部」という有名サイトを始め、収集家のサイトがいくつか存在する。その「ギザジュウ倶楽部」のランキングによると、46,000枚以上集めている人がいるのには驚いた(なんと46万円分!)。自分が持っているギザ十の数を数えたことはないが、2リットルのペットボトルにほぼ一杯だから、1.000~2,000枚はあると思う。
 「ギザ十」が手許にくると「幸運の印」といって喜ぶ人も多いようだが、この「ギザ十」とよく似た存在に、アメリカの古いペニー銅貨(1セント銅貨)がある。

■幸福のコイン

 アメリカ人にとってのペニー銅貨は、「ラッキー・ペニー」などとも呼ばれ「幸運のコイン」と考えられている。アメリカントラッド・ファッションの定番でもあり、日本で女子高生が履いていることでも知られるスリッポンタイプの靴、ローファーは、別名「ペニー・ローファー」と呼ばれている。ローファーのフロント部分の飾りの隙間にペニーを挟み込んで、お守りのように使うことから、この名が付いた。またアメリカでは、道に落ちているペニーを拾うとラッキーなことがあるとされている。それも、年式が古ければ古いほうが幸運なんだそうだ。ただし、ただ落ちているだけではダメで、「ヘッズ」状態、つまり表向き(リンカーンの顔の面が上)じゃないとダメだそうだ。ジョン・トラボルタ主演の映画「グリース」の中で、この話が歌われていた。
 映画と言えば、「THE FIVE PENNIES」(邦題「5つの銅貨」)という映画を知っている人は多いだろう。ルイ・アームストロングなども出演し、同名のサウンドトラックは、ジャズのスタンダードナンバーにもなっている。映画の中で歌われる「5つの銅貨」という歌は、「希望、夢、踊り、笑い、愛」を5枚のペニーに例え、この5枚のペニーを手に入れたときに本当の幸せになれるんだ…と歌っている。アメリカ人がペニーを幸運のコインと考える理由がこの映画にあるのか、逆にずっと昔からペニーが幸運のコインだと言われていたからこの映画が作られたのか…、詳しいことはわからない。そんなわけで、アメリカには「ペニーの収集家」という人たちがけっこういる。

■ペニー・コレクション

 現在使われているペニーが、いつ頃から発行されているのかは知らない。ただ、1940年代、50年代には、ペニー硬貨で遊べる「ペニー・アーケード」という一種のゲームセンターが全米のあちこちにあった(現在はディズニーランド内に再現されている)。スロットマシンなどが置いてあり、当初は全てペニーだけで動くマシンだったとのこと。…ってことは、第二次世界大戦の頃には既に現行のペニーがあったことは確かだ。
 ところで僕も、そのペニーのコレクションを持っている。むろん、これも意識して集めたものではない。アメリカで生活したり長期旅行をした経験のある方はわかると思うけど、ペニーって、けっこう溜まって困るものだ。短期間の旅行なら、ホテルやトイレのチップなどに使えばいいのだが、ホテルのチップでも大量に置くのは失礼になる。ともかく滞米生活が長くなるとやたらと増えるペニーの使い途に困る。
 1980年代の初め頃、ニューヨークに住んでいた僕は、グレイハウンドのバスに乗ってニューオリンズに行ったことがある。観光の街であるニューオリンズはスーベニアショップが多く、特に南北戦争時代の日用品なんかをお土産として売っている。古戦場で掘り出されたライフルの弾丸(薬きょう)なんてのも売っている。南北戦争時代の硬貨や紙幣もたくさん売っている。そんな中に、古いペニーをたくさん売っている店を見つけた。1940年代あたりのペニーを、10セントとか20セントで売っている。古いペニーは、10倍以上の値段で売れるということらしい。
 それを見てから僕は、手許にあるペニーを年代順に1枚づつ集めようと思い、1980年以前のペニーを全て年代順に1枚づつ集めた。集める…といっても、自然に手許に溜まったペニーを時々チェックしていただけだ。手持ちのペニーでいちばん古いのが何年のだったかは忘れたが、確か1950年頃のペニーまでは持っているはずだ。
 そういえば、アメリカで流通しているペニーを良く見ていると、カナダ硬貨のペニーが混ざっているから面白い。ニューヨークなどでは、だいたい10~20枚に1枚がカナダコインだ。表にはリンカーンではなくエリザベス女王が、裏にはメープルリーフが刻印されているが、サイズも素材も同じなので、ちょっと見ではわからない。お釣りなんかに混ざって流通しているのだが、ニューヨーカーはそれを受け取るとチップなどでこっそり使ってしまうとのこと。

■ペニークラッシャー

 ペニーの収集といえば、もう1つある。あのアメリカの観光地には必ずある「ペニークラッシャー」で潰した記念コインだ。まずは潰すためのペニーを1枚入れ、料金としてクォーター(25セント)を2枚投入し、大きなレバーを手で回して模様を刻印するヤツだ。手動で大きなレバーを力を入れて押し下げるように回すと、ガチャンとした手応えと同時に、少し反った楕円形の平たいメダルになって出てくる。このプレス・刻印されたペニーは、「スーベニアメダル」「ペニースーベニア」などと呼ばれている。ここでは、Wikipediaの説明文を引用しておこう。
 
「…スーベニアメダル(Souvenir Medal)は、硬貨を機械に通し、楕円形に押しつぶして模様などを刻印する機械、もしくは押しつぶされて平らになった硬貨のこと。観光地、遊園地やテーマパークなどに作成機械が設置されていることが多い。 アメリカ合衆国では、1セント硬貨(ペニー)と50セント、25セント硬貨を2枚程度の料金を入れ、1セント硬貨そのものを押し潰して模様を刻印する機械が多い。このため、このメダル刻印機のことは「ペニープレス」「ペニープレッサー」「ペニークラッシャー」「プレスドペニマシン」などと呼ばれている。日本においては、貨幣損傷等取締法において流通している貨幣を潰すことが禁じられているため、100円玉を投入し出てくる円形の銅板(銀メッキされているものもある)を押しつぶして模様を刻印している。刻印用に販売されているメダルを購入し、それを刻印機で日付・名前などを刻印するタイプのものもある…」
 
 僕もペニークラッシャーで作ったメダルをいくつか持っている。ペニークラッシャーは、最近では設置されるところが減ってきたらしい。僕が最後に見たのは、2000年代前半だが、現在でも目立った観光地や博物館、水族館などにはけっこう設置してあるらしい。1990年代までは、ニューヨークならエンパイアステートビルの展望台、シアトルならスペースニードルの展望台などに複数台置いてあったし、シカゴならシアーズタワーの展望台にも置いてあった。サンフランンシスコはフィッシャーマンズ・ワーフやチャイナタウンなどで何台も見かけた。僕の持っているペニーのメダルで貴重だと思われるモノは、ニューヨークのセントラルパークの中にあるZoo(動物園)で潰したヤツだ。動物園自体が1980年代の半ばには無くなったので、けっこうレアかもしれない。さらに、2001年の同時テロ事件で倒壊した貿易センタービルの展望台で作ったメダルも持っているが、これも今となっては貴重なものだろう。
 ところで、アメリカではクラッシュしたペニーの専用ホルダーを売っている。クラッシュしたペニーの収集家はアメリカ人にもたくさんいるようで、専門サイトがたくさんある。特定のテーマで集めている人もいるようだ。

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