蒼き戦士と青いクローバー~2024年2月3日アジアカップ日本vsイラン戦に向けて

 こんばんは。シンデレラガールズの山形公演を控えチケット代を稼がなくてはいけないのに、くだらない体調不良で仕事を休みメンタルが凹んでいたところをこの時間を使って推し活しよう! と捉えなおしたら体調が一気に回復しました、中東のFWばりのメンタルの持ち主のkcでっす。この文章も本来ならこの時間までにはお届けできなかったところを急遽仕事お休みになったことでお届けできています。お前はきちんと計画を立てろ。

 さて、明日は今回のアジアカップ事実上の決勝戦との呼び声も高い日本vsイラン戦がありますね! ここで取り扱う文章はそのイラン代表が前にシリア代表と戦った試合をベースにお送りするので、これを読んだうえで明日の勝敗予想を立てられるのも面白いかもしれません。あらかじめ言っておくとkcはスコアを延長戦の末に日本3-2イランで日本勝利と予想します。

 ここで扱うイランvsシリア戦ですが、想像以上にしびれた試合となりました。大方の予想はイランの圧勝だったのでしょうが、シリアの負けん気が1-1のスコア以上に出ており勝機はシリアのほうが多かったのでは? と思える内容でした。詳しく掘り下げていきます。

 今回のイラン代表の欠点を挙げるとすれば、前回のアジアカップの時とレギュラーがあまり変わっていないことがあります。絶対的エースのアズムンはともかく、うろ覚えの私でも「あ、こいつ前回も戦ったな」と言える懐かしい面子で占められているのが今回のイラン代表です。
 そんなイラン代表はシリアに対して猛攻を仕掛けていたものの、後半に9番が相手ペナルティエリア内でシミュレーションによるイエローを出されると、後半終了間際にシリアの突破を止めたプロフェッショナルファールにより二枚目のイエローを提示されました。
 ことが終わった直後、9番は絶望を感じていたのでしょう。ファールを受けた側のほうが圧倒的に物理上は痛いはずなのに、ファールを与えたほうはピッチに顔をうずめてしばらくの間動こうとしませんでした。無論、イラン代表は10人での戦いを強いられることとなります。

 ただし、この場面においてイランにとっての幸運は三つあったように思います。ひとつ目はエースのアズムンが不調だったため途中で下げており、これに勝てれば次の守備陣が不安定な日本を相手に体力を温存した状態でエースが戦えること。ふたつ目はそのアズムンが覚醒して日本に勝てればベスト4では最強メンバーが再び揃う、しかも9番はフレッシュな状態というおまけがついているということ。三つ目は相手がシリアということでした。

 最初のふたつはまだ納得として、最後のシリアが相手とは何ぞ? と思われるかもしれません。それについて話していこうと思います。
 シリアはご存じの通り、先日のW杯アジア二次予選で中東のホーム寄りな環境において日本に大敗を喫した決して強くはないチームです。それは戦争の影響が尾を引いており、日本を応援したくなる一方で彼らには同情の余地があるものでした。

 イラン戦でのシリア代表もその影響はあったのかもしれません。彼らは圧倒的強者のイランに対しメンタル面で常に優位に立っていましたし、一瞬の隙を突いた突破から相手GKのファールを誘ったPKを見事に決めて希望を繋いだシーンはイランサポーター以外の世界中のサッカーファンを興奮させたもののように思えます。圧倒的弱者のシリアは気持ちで負けないことで日本との再戦に臨もうとしました。

 ところが数的でも優位に立ったシリア代表はなにをやったかというと、中盤底のボールホルダーが数歩分のドリブルで前進したかと思うと真横にパスを出し、それを延々と繰り返しながら陣地を進んでいくという非常な遅攻を仕掛けました。これは相手が数的不利で自陣を固めてからのカウンターが勝ち筋になったことでできるゲームプランです。
 それに魔法がかかっていれば追加点をもぎ取ることは十分に可能だったろうと思います。シリアのFWはエリア内でのシュートを義務付けられているかのようにボックス内で動こうとせず、周りも縦でなく横パスが前提なものですから相手を惑わす複雑な動きはできないことを意味します。
 イランとしてもそういう動きがないため、自陣を固めていればカウンターのチャンスがいつ訪れてもおかしくない状態でした。結果的に言えばイランのFW陣は疲弊していたのもあってカウンターはあまり脅威にならなかったのですが、私が夜中に叫んだ言葉をそのまま使えばシリアは『まるでラグビーをするかのよう』な地味と形容されても致し方のない攻撃を延々と続けていました。

 私は当初、『シリアはイランのカウンターが怖いから終了間際に点を取って締めるゲームプランなのだろう』と思っていました。延長後半になってもシリアはラグビーを続けました。
 私は悟りました。『シリアはカウンターしかできないチームなのだ』と。結局退屈な戦況は一切変わることなく1-1のまま試合はPK戦に。私はこの時点で次の日本の相手が誰かを悟りました。
 PK戦はイランのキッカーが完璧に沈め、イランのGKが仕事をしたことでイランの勝利となりました。当たり前の結果です。何故ならば準備をしていたイランに対してシリアの提示できたカードはあまりに弱すぎるもの。
 先のカタールW杯日本vsクロアチア戦のPK戦もそうですが、こういう時は準備があったもののほうがメンタル面で優位に立てるのでいい結果を収められることが多いのです。
 今回のシリアにとってのその原因は何だったか。これは憶測でしかありませんが、やはり戦争というものが大きなウェイトを占めており、それが悪い形でも出てしまったのが今回のシリアだったような気がします。数的同等の試合途中に一部選手が足をつったり選手が攻撃面での工夫を知らない、悪く言えば井の中の蛙だったのは豊かな選手強化が難しい現在の彼らを映しているようでなりませんでした。

 それは遠い海を越えた私たちにも当てはまるのではないでしょうか。あまり政治のことは語りたくはありませんが、やはり戦争が起きてしまうと豊かな生活からは離れてしまうのです。今以上の豊かさや現在の幸福の継続を願うのなら、対価以上の努力を続けたうえで非常時にも備えること。
 この世の自然状態を『万人の万人に対する闘争』と評したのは、かの有名なトマス・ホッブズです。それが当てはまっているかどうかは別のところで議論するとして、そのような言葉がある程度重みのある社会では闘争に向けての備えを怠らないことが幸せへの布石なのではないでしょうか。

 それは自分は背が高いCBだからボールを跳ね返せさえすればいいと思って足元を疎かにしていた昭和の選手が、令和の現代において通用しなくなっているのに似ています。
 話は変わって私の好きなARIAという作品には偉大な仕事をしている女性が、出世した親友に対しての自分の不足を嘆き、幸せを求めに四つ葉のクローバーを探す若き日の物語があります。そこで彼女は自分よりも歳の若い少女に未だに四つ葉を見つけられていないことと自身が足りていないことを突き付けられ絶望します。

 それを即座に救ったのは先ほど絶望を突き付けた少女でした。『足りなければ足せばいいんだよ』。少女は三つ葉のクローバーに他のちぎったクローバーの葉を合わせて四つ葉を作ってみせました。女性は悟ります。『自分は親友と比べて才能がないかもしれない。だけど足りなければ足せばいいんだ』。彼女は足す努力を積み重ねた結果、親友に肩を並べる存在となりました。多くのARIAファンの心を掴み、シリーズ化された映画版で最も評価が高いと言われるエピソードに絡んでくるかの有名な『四つ葉のクローバーのお話』です。私はここにおいてこの話を引用させていただきます。

 過去に起こったことは変えられないですし、未来はどんな形であれどうあがいてもやってきます。『今』という瞬間を足りないものを足す努力をしていれば過去はその意義ある時間で占められ良きものへと変わっていきますし、もしかすると幸せの四つ葉のクローバーを掴んだ未来がやってくるかもしれません。
 先ほどのARIAの話でファンに最も人気のあるエピソードを紹介すれば、四つ葉を掴んだ女性たちは懐かしんで後輩たちに楽しかった昔の話をするものがあります。その中で後輩の最年少の少女は『今』という楽しい瞬間が崩れ去り、楽しい時間が無くなってしまうかもしれないことに怯えます。
 先輩たちは言いました。『あの時”も”楽しかったね』と。仕事で忙しくてなかなか親友たちとの時間を取れない彼女たちの青春は終わらないのです。それは『今』という瞬間にすべてを注いでいる彼女たちに自然と送られたプレゼントなのかもしれません。

 私自身が今に対してすべてを注げていないので耳が痛くはあります。ただしダメダメな自分が居たりたとえそれが戦争の真っ只中であったとしても、最善を尽くす意義は変わらないのではないでしょうか。
 日の丸を背負った青い戦士たちは、アジア最強候補と呼ばれる立場になっても足りないものを足そうと明日もベストを尽くしてくれるはずです。同じ国旗の下に生きる我々もそんな彼らに続きましょう。みんなにとっての最高のアジアカップが楽しい今という瞬間を繋ぎ、幸せな人生のパスポートを掴む未来への分岐点であることを祈っています。

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