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読書感想文『僕僕先生 薄妃の恋』を読んで

※ネタバレあり

 前回感想文を書いた『僕僕先生』の続巻です。『僕僕先生』が面白かったのですぐに次巻にも手を出しました。やっぱり格調高くもリズムのいい文章と、魅力的なキャラクターに引き込まれました。

 さてまず目次を見ると
・王弁、料理勝負に出る
・雷の子、友を得る
・王弁、熱愛現場を目撃する
・王弁、女神の厠で妙薬を探す
・僕僕、異界の剣を仇討ちに貸し出す
・僕僕、歌姫にはまる

もう面白い。恋愛あり、バトルありでワクワクします。

 さっそく読み始めると、いきなり出てきたのが「珠鼈(しゅべつ)」という大きな鯰の妖怪。しかもおネエ口調。また癖の強いキャラが出てきました。冒頭からがっちり心をつかんできます。

・王弁、料理勝負に出る
 料理人の師弟がいいキャラでしたね。王弁たちとは違い、師匠は跳ね返りの弟子に手を焼きながらもその技量を認めており、弟子は師匠の技に惚れ込みそれを盗もうと必死です。料理一筋の師弟は正面からぶつかり合うこともしばしばですが、二人協力して厨房に立ちます。この二人は州一番の料理人を決める大会に出場するのですが、ど素人の王弁も僕僕の気まぐれでこの大会に出場するはめになります。僕僕が食材として持ち込んだデカいチョウザメの扱いにあたふたする王弁と、技巧の限りを尽くす職人師弟の熱意が物語の見所です。

・王弁、熱愛現場を目撃する
 こちらはタイトルどおりとあるカップルの悲しい恋愛模様を描く、ちょっとセクシーな内容の章でした。僕僕と王弁は街の居酒屋で見るからに仲睦まじいカップルを見つけますが、先生は二人の間に人ならざる気配を見て取り、その行方を追うことになります。しかし色事に慣れていない王弁は一章通しておたおたしてるかよからぬ妄想をしてばかり。この情けなさが王弁だよなぁ。でも女性を前にして上手く立ち回れない格好の悪さ、同じ男としてはちょっと共感します。

 最後はカップルの片方が妖怪であることが判明し、王弁たちは二人の間を引き裂かねばならなくなります。そして決して結実しない異なる種族同士の恋という問題に自らの状況を重ね合わせ、先生との間柄を真剣に考えることにもなるのです。

 そこに僕僕からの最後の台詞。王弁にもし自分の正体が醜いものであってもそれを見たいかと問うと、王弁は答えることができません。そこで僕僕は言います。「ボクはね、もしボクに正体というものがあって、それがキミに吐き気を催させるようなものであったとしても、キミにはありのままのボクを見てもらいたいとおもっているよ」

・・・キュンキュンですわ。

 王弁にはありのままの自分を見て、受け止めてほしい。やっぱり先生も王弁のことを強く想っているのですね。先生はいつもは王弁を叱りつけてばかりなのに、たまにこういう甘い面を見せるから油断できない。

 しかし僕僕自身も自分の正体が分からないのですね。これからそれが判明していくのでしょうか。

・僕僕、歌姫にはまる
 酒と食べ物以外に頓着がなさそうな僕僕が、歌姫にはまる?そんなことがあるでしょうか?と思いましたが、今までも嫦娥の踊りを堪能したり、綺麗な風景を前に詩的な台詞を言ったりしていましたし、やはりどこか風流人なんでしょう。街に素晴らしい歌声を持つ歌姫が現れ、僕僕のみならず街の人全員がすっかり魅了されてしまいます。しかしある日からぱったり歌姫は姿を見せなくなり、彼女にすっかりはまりこんだ僕僕は珍しく苛立ちを見せます。先生、たまにこういう人間的な顔を見せますよね。どんな事件や面倒事に巻き込まれても、自分にできることさえ済ませてしまえば「あとは本人たちの考えることだ」とすっぱりと割りる僕僕。それが特定の人間に強いこだわりを示し、さらにイライラした姿を覗かせるという意外な一面に私は一層惹き付けられました。僕僕はエピソードごとに違った面を見せてくれるので何ともミステリアスな魅力が尽きません。

 今巻では体がペラペラの美女「薄妃」が仲間に加わりました。時に折り畳んで懐にしまわれたり、ヘソから気を入れて膨らまされたりとその生態が面白くて、僕僕たちの旅の良い道連れになりそうです。やはりそれぞれのキャラクターの魅力に満ちあふれている作品ですね。

 さて次巻『胡蝶の失くしもの』ではまた新たな仲間が加わるようです。次は僕僕はどんな表情を見せてくれるのか、王弁はどのように成長していくのか、ますます目が離せません。

仁木英之『僕僕先生 薄妃の恋』新潮社  2008

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