【エターナルアルカディア】20年を経て起こした、小さな、途方もない奇跡
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【エターナルアルカディア】20年を経て起こした、小さな、途方もない奇跡

本日、2021年10月5日は、ドリームキャスト版「エターナルアルカディア」が発売されて21周年の記念日です。

この日についに正式発表となりましたが、なんと、2022年に「エターナルアルカディア」のコミカライズ版が電子出版されます!!https://twitter.com/shonen_sirius/status/1445317330012028932?s=20

……えっ!? どういうこと!? そんなことあり得る!?

皆さんの、意表を突かれたお顔が目に浮かびます。無理もありません。私自身も、これを第三者として聞いたなら、ちょっとにわかには信じられないと思います。

ですがこれを実現したのは、何を隠そう、ファンの皆さんと私なのです! 実現させてしまったのです!!

これはですね、とんでもない、途方もない話なんですよ……。2020年1月から挑戦を始めて、実に1年9ヶ月もの時間がかかりました。その経緯をお伝えいたしましょう。ぜひとも最後までお読みください!!

エターナルアルカディアとは

Wikipedia エターナルアルカディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2

2000年10月5日にセガが発売した、空賊ヴァイスの冒険を描くRPGです。私はプログラマーとしてこのゲームの開発に参加して、空を作りました。

……と言っても、わかりにくいでしょうか。もう少し詳しく言うと、「空を飛んで世界中を冒険するRPGの、空移動パートの、空を全て」作りました。ゲームの重要な部分ということです。自分の船と島以外の、空に浮かぶありとあらゆるオブジェクトは私がコントロールしています。雲も、月も、他の船も、空を泳ぐ魚も。

こんなこともありましたね。
「エターナルアルカディア開発の危機」
https://note.com/khiruta/n/n4dec33b93cc6

全ての始まり

2019年の秋に、とある海外のエターナルアルカディアの大ファンの方から連絡がありました。なんでも、日本に来るから、エターナルアルカディアのリミテッドボックスにサインがほしい、と。発売から19年も経って、なおファンでいてくれていることに驚き、私のサインはリミテッドボックスの価値を下げてしまう……と恐縮したものの、せっかく遠くから来てくれるというので、サインすることを承諾しました。

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会って話してみると、彼はエターナルアルカディアのイラストレーターさんともお会いしたとのこと。エターナルアルカディアのイラストはとても素晴らしかったので、私もお会いしてみたかったのですが。このファンの方のおかげでイラストレーターさんのTwitterアカウントを発見することができました。

するとイラストレーターさんは、翌年1月に、セガファンが集まるイベントに参加されるとのこと。しかも、エターナルアルカディアの原画も展示してくださるとのことで、これは是非見に行こう、と決意したのでした。

イベント

イベント会場で無事にイラストレーターさんにお会いでき、エターナルアルカディアの原画も拝見することができました。ゲームで使われたイラストだけでなく、コミカライズ版の原画もお持ちになっていて、かなりの量がありました。その場ではとても読み切れなかったのが残念で。しかも、過去にコミックスにもなっていないとのこと。完結せずに連載が打ち切りになってしまったそうです。でも、素晴らしいクオリティの作品だったので、なんとか世に出せないものか……と、この時から考え始めました。『電子出版なら可能性はあるのではないか?』と。

会場に、エターナルアルカディアのファンの方が、出展されていたり何名も来場されていたりというのも大きかったですね。長く応援し続けてくださっていることへの感謝の気持ちが沸き上がり、何か自分ができることはないか、と突き動かされるような気持になりました。

コミカライズ版の状況

しかし実は、コミカライズ版が置かれた状況は絶望的なものでした。

・連載時から20年近くが経過
・当時連載されていた雑誌は休刊となり、編集部は解散
・当時の事情を知る担当者の所在は不明
・ゲーム権利元のセガと、雑誌連載されていた出版社の、双方の許可が必要

調べれば調べるほど、困難が増えていきます。これはさすがに……と二の足を踏むような状況でした。まして私はゲーム開発に関わっていたとはいえ、セガをとっくに退職していますし、コミカライズ版については全くの部外者ですから……。

長年応援してくださっている大勢のファンがいて、素晴らしい原稿が現存するというのに、リリースできない……。この苦しい現実に、煩悶する日々を送りました。

反響

とはいえファンのためにできる限りのことをしたいということで、イベントでイラストレーターさんにいただいたサインを、海外のファンへプレゼントすることにしました。送料などの経費は自腹です。すると、なんと1,000件以上の応募があり、ファンの皆さんの根強い応援の気持ちを感じました。

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また、私はエターナルアルカディアの続編はずっと作りたいと思っていたのですが、その気持ちを英語でツイートしたところ、115万インプレッションを超える反響となり。世界中で記事にもしていただきました。ここでも、ファンの方々の熱意を実感することができました。

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さらに、興味を持ってくれた欧州最大のゲームメディアが、私とエターナルアルカディアに関する記事を書いてくれました。大ボリュームに仕上げてくださって、世界中のあちこちで話題にしていただくことができました。

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覚悟

これほどの大反響をいただけたことは大きな驚きでした。多くのファンの方がずっと作品を好きでいてくださっているという事実に胸を打たれましたし、強く背中を押される思いでした。

本当に、コミカライズ版を電子出版で世に出すことは不可能なのだろうか。

もちろん、途方もない困難です。関係者を探し出し、状況を説明して説得し、セガや出版社の許可を取り、出版社内で予算を確保してプロジェクトを発足していただき、必要な契約をそれぞれ結んでもらって、現存する原画を電子出版できる形式に整え、マーケティング諸々の手はずを整えて、ようやくリリースできる訳です。

それを差し出がましくも、部外者の私が推進するとしたら、どれだけの手間と時間がかかるのでしょう。その作業は全て、無賃労働です。仮に実現できたとしても私には一円の報酬も入りません。

それでも、挑戦しよう、と覚悟を決めました。作品は製作者のものではなくて、ファンのものです。これまでのクリエイター人生でも、待ち望んでくださっているファンのために、私は自分のもてる全ての力を振り絞って、開発や事業を進めてきました。それは、これからも変わりません。

今一度、世界中のファンのために。この底知れぬほど困難な取り組みに、挑戦しようと心を決めたのです。

唯一の武器

私は部外者ですから、この取り組みに対する影響力は何も持っていないのですが。唯一の武器となるのは、ファンの方々の後押しです。この取り組み自体は公表できないものの、自腹対応したプレゼントキャンペーンや、ツイッターの反響、世界中で記事化された実績などを取りまとめました。

これらは全て手作業ですから、長い、長い時間がかかったのですが。ひとつひとつの反響はとてもありがたいもので、さらに力をいただけました。そして、その取りまとめた実績を武器に、ついにセガと出版社との交渉を始めたのです。

交渉の経過

セガは私の古巣ということもあり、比較的スムーズにライセンス担当者を紹介していただくことができ。多くのファンの声を伝えると共に、ライセンス交渉をしました。すると、通常のライセンス商品と同じ手続きで進められる、との回答をいただきました。まずは第一歩。

大変なのは出版社の方です。幸い、当時の担当者と連絡が取れたので、私の想いとファンの大きな後押しについて、長い長いメール文で伝えたところ、前向きにご検討いただけることになり。休刊となった編集部の受け皿となっていた別編集部に話を通していただき、新たな担当者も立てていただくことができました。そして、セガのライセンスチームともお繋ぎすることができました。

長い時間をかけ、何十通ものメールのやり取りを経て、ついにセガ、出版社の両社の合意が取れたのです!

暗転

ところが、話はそう上手くは進みませんでした。というのも、コミカライズ版の権利者は、セガと出版社だけではなく、もう一名別の関係者がおり(A氏とします)。そのA氏の許諾をいただかなければ出版できないのですが、20年近い年月が経過したせいで、連絡が取れない状態になっていたのです。

なんとここで、交渉だけではなく人探しが必要となってしまいました……。

しかも、この人探しは、とんでもなく困難だったのです。なんと、A氏はこのお仕事限定のペンネームを使っていたため、ネットでも全く情報が出てこず、誰に聞いてもわからない状態となってしまっていたのです。

それでも一縷の望みをかけて、何カ月もの間ネットの情報を調べ、かつ、当時の関係者への聞き込みを続けました。しかし、ほんの僅かな同名の別人の情報が得られただけで、ご本人の情報は一切得ることができませんでした。

手がかり?

諦めきれない私は、人脈も総動員するために、Facebookにも事情を載せ、情報を集めていました。私は幸い1,700名以上の業界関係者を中心としたつながりがあり、誰か知っている人がいるのではないか、と考えたからです。

そうしていたら、なんと、A氏の転職先と思しき情報が寄せられたのです。うろ覚えで、断片的な情報でしたが、こんなにありがたいことはありません。なんとか足跡をたどろうと、候補と考えられる会社を列挙し、片っ端から所属メンバーの情報を調べ始めました。調べるべき範囲は膨大に膨れ上がりましたが、どこかでA氏の情報にたどり着けるのではないか。失いかけた希望がつながったことで、がぜんやる気になったのを覚えています。

しかし、猛烈な勢いで調査を進めているさなか、別の方からの指摘で、その情報は誤りであったことがわかります。天国から地獄とはこのこと。リサーチ対象の情報は0に戻り、突如としてたどるべき糸は、完全に途切れてしまいました……。

公開捜査?

打つ手がなくなった私は、最後の手段に出ます。情報を公開した上で、Twitterなどで大々的に人探しをするという手法です。実際、Twitterで尋ね人に行き当たる奇跡も起きているわけですから、賭けてみたかった。もちろんリスクを伴いますが、どうにも諦めきれなかったのです。

しかし、関係者に相談したところ、やはりNG。A氏にご迷惑がかかる可能性を否定できません。私自身もその可能性は認識していたため、関係者がノーという判断をする以上、それを尊重するほかありませんでした……。

思い浮かべるのは、ヴァイスのこと

何十通ものメールやメッセンジャーのやり取りを重ね、数百のウェブサイトを調べ、何ヶ月も無賃労働を続けたものの、ついに、一歩も前に進むことができなくなってしまいました。

セガと出版社の合意は取り付けた、それだけでも途方もないことです。全力を尽くした、それは間違いのないことです。

でも、悔しい。応援してくださるファンの皆さんの、喜ぶ顔が見たかった。ここまで、大変な困難を乗り越えて頑張ってきたのに……。

正直、自分のキャリアにも大きな影響が出るほどの時間を費やしてしまいました。潮時だったのはよくわかっています。執着しすぎという自覚もありました。

でも、それでもどうしても諦められなかったのです。というのも、エターナルアルカディアの主人公であるヴァイスは、困難を前にして諦めたでしょうか? いえ、彼は決して諦めなかった。そういう勇気に満ちた物語だったからこそ、いまだに多くのファンの心に残っているのです。

これは本当に、不可能なのか? 私はここで諦めるべきなのか?

何度も自問を繰り返しましたが、どうしても、どうしても諦められなかったのです。

ひとつの「いいね」

私は、すぐに結果につながらなくても、この取り組みをライフワークにしようと決意しました。そして、既に調べた情報を、さらに洗いなおすことにしました。

そんな作業を日々の業務の合間に続けているうちに、以前調べたときには見落としていた、たったひとつの些細な事実に気づきました。それは、20数年前、A氏をプロジェクトに引き入れたB氏という方がいるのですが、そのB氏が関係したことがあったらしきC社のFacebookページに、いいねをしている知人D氏がいたことです。1,700名以上いるFacebookの繋がりの中の、たった1人、たった1つのいいねに、新たに気づいたのです。

繋がった糸

早速D氏に事情を説明してみたところ、以前、D氏の上長だったE氏がC社を創業していたとのことで、何年も連絡はとっていなかったものの、E氏に問い合わせてくれることになりました。そうしたら、確かにC社はかつてB氏と関係があったそうで、B氏に連絡を取ってくれることになりました。そして、そのB氏が、A氏との仲介人のF氏の連絡先を教えてくださったのです!(関係者多すぎ……)

こうして、私はF氏と連絡を取ることができたのですが。A氏は近年お仕事を減らされていた上に、社会情勢的に一層接触を減らしていたそうで、そういう点でも連絡が取りにくくなっていたそうです。事情を伺ってみると、もはや、たどり着けたことが奇跡のようでした。

そして、ついに、A氏からコミカライズ版リリースのご許可をいただくことができたのです!!

オンラインミーティング

全ての課題をクリアすることができ、リリースに向けて進められるようになったということで、改めて出版社の担当者とオンラインミーティングを持ち、作業の細部を確認しました。実は、長らくやり取りはしていたものの、お互いに顔を見るのはこの時が初めて。なんだか不思議な気持ちになりました。

その際に、担当者から尋ねられました。本当に不思議そうに、「失礼ながら、蛭田さんは一円にもならないのに、どうしてこれほどまで頑張られたのですか?」と。

私からは、「発売から20年も経ってなお、応援してくださる多くのファンの皆さんのために頑張りました」とお答えしました。ただ、その一念でした。

ミッション・コンプリート!!

こうして、私の途方もない挑戦は完遂することができました。これまでのやり取りや作業を振り返ってみましたが、メールは86通、メッセンジャーのやり取りは、実に161通もありました!

ここには書ききれないほどの出来事もありましたし、お力添えいただいた方々も数えきれないほどです。関係者の皆さまに、厚く、厚く御礼申し上げます。

そして何より、私をこれほどまでに困難な挑戦に駆り立て、支え続けてくださった世界中のファンの皆さんに、改めて御礼をお伝えしたいです。エターナルアルカディアを好きでいてくださって、本当にありがとうございます!

よかったら、この無謀な挑戦の顛末を、できる限り多くの人に広めていただきたいと思います。エターナルアルカディアを昔遊んでいた、好きだった人にも届くように。

そしてもし、1年9ヶ月に及ぶ私の苦闘をねぎらいたいと思ってくださる方がいらっしゃいましたら。大変厚かましいながらも、よかったらコーヒーを一杯、ご馳走してくださいませ。このページ下部の「気に入ったらサポート」から寄付していただけます。

これは小さな一歩かもしれませんが、それでもエターナルアルカディアの世界を変えることができた、途方もない奇跡です。ファンの力は偉大です。多くの方が望んでくだされば、さらに大きな変化を起こせるかもしれません。私自身も、エターナルアルカディアの未来を楽しみにしています。

そして、困難に挑むすべての方へ。残念ながら、諦めなければ必ず成果がでる訳ではありません。私も、人脈や運にも大きく助けられました。それでも、私はこれからも、諦めずに困難に立ち向かっていくつもりです。そして、どれだけ馬鹿げた挑戦であっても、無謀な苦闘であっても、勇気をもって困難に立ち向かう人を応援し続けます。一緒に、大空の果てを切り拓いていきましょう。

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サクラ大戦や無双シリーズを作ったゲームクリエイターで、総務省アドバイザー、大学准教授。元ヤフーグループ企業の人材開発室長。ゲーム業界のキャリアサポートに注力中。著書「ゲームクリエイターの仕事」他。国際カンファレンス英語登壇など講演実績多数。英語習得ノウハウも公開中。