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【究極の英語習得ノウハウ】国際カンファレンスに必要な英語力とは

世界情報社会サミットフォーラム

私は2020年に、世界最大級の国際ITカンファレンスである世界情報社会サミット(WSIS)のフォーラム開会式典セッションに、オンライン登壇しました。世界情報社会サミットは2003年に国連の主催で初開催された国際会議で、54か国の政府首脳、83人の情報通信大臣等、176か国、約2万人が参加しました。その後フォーラムが国際電気通信連合やUNESCO等の共催により開催されています。

過去、この開会式典セッションへは、日本からは2017年に総務省が登壇していました。私も総務省の地域力創造アドバイザーでもあるので親近感はわいたのですが、やはり日本のIT業界を代表してのスピーチは、とても大きなプレッシャーがありました。

ただ、もし『スピーチといっても英語原稿を読み上げただけでは?』と思われたとしたら、それは実態とはかけ離れています。どれだけの英語力が必要だったか、本稿にまとめてみましょう。

断片的な文章から要求事項を正確に読み取る読解力

日本で登壇する場合、登壇依頼書に始まり、会の目的、期待されるスピーチの内容、スケジュールや割り当て時間など、細かな説明文が共有されるのが普通です。

ところがWSISフォーラムでは、そのような丁寧な説明文はありませんでした。登壇が決まった後に受け取ったのは、これまで担当者間でやり取りされたメール履歴のみ。しかもその履歴には担当者間のディスカッションまで含まれていて、何が登壇の決定事項なのかを読み取るのも一苦労。十数人の担当者がccに含まれていて、分からないことを誰に聞けばいいのかすら読み取れないほどでした。

当然、担当者間のメールは省略の多いカジュアル英語。使われている単語も難解なものが多く、機械翻訳も役に立ちません。時間をかけて文脈から意味を類推する必要がありました。

このように海外とのやり取りでは、整理されていない情報から必要な項目を読みとらなければいけないことがよくあるので、高度な文章読解力が求められます。

世界基準の行動様式を把握するための文化理解

手間をかけて読み取ったメール履歴から、多くの疑問点が発生しましたが、それを確認できるのは本番前日のリハーサルのみ。そのビデオ会議で全て質問するシステムになっていました。日本のやり方しか知らなかったら、まず面食らってしまうでしょう。

しかも、そのリハーサルも一筋縄ではいきません。20名近く接続して、大雑把な全体の流れの解説は進行していくものの、話はあっちに逸れ、こっちに逸れ、とまぁ雑な進行。しかも、登壇者も担当者も大幅な遅刻は当たり前で、途中参加していきなり質問をしまくって進行を妨げる人も。

私は海外との業務経験によって、こういった混乱には慣れていたのですが、そういった世界の人々の大雑把な行動様式を知らなかったら、リハーサルで何が起こっているのか、何が議論されているのかすら理解することが難しかったでしょう。単なる語学力だけでなく、こういった文化理解もコミュニケーションには大切なのです。

世界各地の訛りのある英語話者との会話力

リハーサルには世界各地から参加されていたので、英語ネイティブではない方々の英語も飛び交っていました。特に、全体の司会進行をしていた方は、大変有能で気配りもできる方だったのですが、インド系の英語を話しており、強烈なインド訛りがありました。

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実は、母国語の違いによって英語の訛りにも特徴があります。代表的なところでは、中国語訛り、スペイン語訛り、フランス語訛りなど。私は世界中から移民が集まるカナダでの5年間の生活でそれらの区別がつくようになっていたのでコミュニケーションに問題がなかったのですが、こういった多国籍の人たちが集まる場で正確な会話を行うためには、綺麗なアメリカ英語を聞き取れるだけでは不十分なのです。

的確な質問力

事前に列挙していた疑問点は、リハーサルでの説明で解決したものもあれば、解決しなかったものもあります。解決しなかったものについては、質問が飛び交う中で自分の発言権を取り、全員にわかりやすい言葉で質問する必要があります。

実はこの質問力は、英語力の中でも非常に重要であり、かつ、高度なスキルが要求されます。まず通常のリスニング、スピーキングに加え、相手が理解してくれなかった時の言い換え力、相手の説明がわからなかった時の聞き返し力、さらに、なんとなくわかったけど本当に合っているかどうかの確認力などが必要になります。多少理解に齟齬があっても問題ない日常会話とは異なり、難度が大幅に上がるのです。

短い文章で情報を伝える文章構成能力

リハーサルで全ての疑問点を確認することができた後は、求められているスピーチ原稿を作ります。しかし、栄えある開会式典セッションには世界のIT業界の重鎮が8名も登壇するため、一人当たりの割り当て時間は長くありません。短い文章で、世界に向けてわかりやすく発信するための文章構成力が求められます。ここはリアルタイムのコミュニケーションではないものの、推敲には大きな工数がかかりました。

ユーモアのセンス

さあ、準備万端整って、本番です。さすがに本番は緊張感が違います。登壇者も時間通りに全員が揃って、開会式典セッションの開始を待っていました。ただ一人を除いて

その一人とは、まさにこのカンファレンスの総責任者であり、国際電気通信連合のトップである、事務局長のHoulin Zhao氏。

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なんと、こともあろうにこの方、集合時間に大遅刻して開始時間の遅延を引き起こします。国際電気通信連合の事務方は大騒ぎで状況の確認に奔走した訳ですが。

ようやく現れたHoulin Zhao氏は、慌てる様子どころか、むしろおどけた調子で機械トラブルを主張します。呆れる事務方。きっといつものことなのでしょう(笑)

さらにHoulin Zhao氏のワンマンステージは続きます。世界各地のIT業界の重鎮や観客を待たせたままで、散々軽口を叩きながら、開始を促す事務方に向かって言い放ちます。

「スピーチ原稿がどこかにいっちゃった」

いやもう、この胆力。全員が苦笑いですよ。さすがに事務方も「始めてください!」と詰め寄ったのですが、「1分! 1分待ってくれ!」と。そんな台詞を聞いたところで、誰一人、1分でなんとかなるとは思わなかったのですが(苦笑)。この時は見事に1分で会を開始することができました。

しかも、いざ始まってみたら、それはもう見事なスピーチで。会の意義を滔々と語り、参加者のモチベーションを一気に高めます。遅刻の雰囲気を吹き飛ばすような、堂々たる開幕となりました。

この大騒ぎの様子も、普通に英語を勉強していただけではとても把握することができません。早口でまくし立てる事務方に、中国語訛りで軽口を叩く事務局長。高い英語力に加えてユーモアのセンスがあればこそ、何が起きていたのか把握でき、皆と一緒に大笑いしたり苦笑いしたりできるのです。

英語でのスピーチや、海外とのビジネスでは、特にこのユーモアのセンスは必要になります。相手がおどけたのをポカーンと観ていては失礼ですし、こちらもクスッと笑えるような話ができて初めて打ち解けることができるのですから。

フォーマル、カジュアルな英語を使いこなす能力

山あり谷ありでしたが、無事に開幕を迎え。後は自分の番にスピーチするだけ…と思ったのですが。他の人のスピーチを聞いて、私は致命的な失敗をしていたことに気づいたのです。

雑なリハーサルに遅刻の多発、軽口、統率のとれていない烏合の衆…。こんな雰囲気の中ですから、私はとてもカジュアルな英語でスピーチをまとめていました。特に近年、ビジネスの場でも英語はとてもカジュアルになっており。初めてやり取りする担当者から、いきなり「Hey,」からスタートするメールを受け取ることすらある程なのです。

ところが、さすが各国を代表する重鎮たち。本番のスピーチは、これ以上ないほど最上級のフォーマルな英語でした。吹き出す冷汗。迫るスピーチ順。何食わぬ顔でビデオに映りながら、私はかつてないスピードで自分のスピーチ内容をフォーマル寄りに修正したのでした…。

そして、なんとか修正を間に合わせたのですが、いざ私の順番になってみると、司会から、用意していない別のトピックスについて話を振られてしまい。スピーチをしながら、どこに話を混ぜ込むべきかと頭をフル回転させる始末。結果的にはなんとかこなせたものの、これほど嫌な汗をかいたことはありませんでした。

日本語に、尊敬語や丁寧語、謙譲語などがあって、場面に応じて使い分ける必要があるように、英語にもフォーマルな英語やカジュアルな英語があり、言い回しは全く異なります。意味が通じればよい日常会話とは異なり、国際カンファレンスのようなフォーマルな場で適切な言葉遣いをするためには、非常に高いレベルの英語総合力が必要となるのです。

「英語でスピーチ」の英語力とは

英語力を伸ばす上で、皆さんそれぞれの目標があると思います。世界中に友達を作りたい、英語でビジネスできるようになりたい、海外で暮らせるようになりたい、などなど。そういった目標として、英語でスピーチできるようになりたい、というのもよく伺うのですが。一番難度の高いスピーチでは、上記のような大変幅広いスキルが要求されます。これに比べたら、英語での契約交渉などはラクなものです。

英語力上達の最終目標に「国際カンファレンスでの英語登壇」はいかがでしょうか。きっと一生の思い出になることでしょう。本稿、そして本連載が、誰かの晴れ舞台のお役に立ちますように、願っています。


※この連載はどこかのタイミングで電子書籍化して非公開にするかもしれませんので、ご興味がおありの方はフォローして無料で読めるうちに読んでいただければ。

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