Jay Park 〜歩くプラットフォーム〜
Jay Park(韓:박재범、日:パク・ジェボム)は、韓国系アメリカ人の歌手であり、韓国に拠点を置くAOMG(Above Ordinary Music Group)とH1GHR MUSIC RECORDSという二つのレーベルの代表でもあります。また、2017年にはJay-Z率いるRoc Nationに、アジア系アメリカ人のアーティストとして初めて契約をするなど、国内外ともに、アーティストそして経営者として精力的に活動を続けています。
Jay Parkほど国内外問わずインタビューに応じる韓国ヒップホップアーティストはいないのではないでしょうか。そう思わせるほど、既に多くのメディアが、彼の生い立ちやレーベル設立背景、また彼の音楽について片っ端から聞いています。したがって、今回はそのような既知の事実よりも、果たして「Jay Park」という存在は、国内・海外シーンにおいてどのような存在なのかという部分に主眼を置いて紹介しようと思います。
経歴・音楽
とはいえ、まずは簡単に経歴・音楽について説明しておこうと思います。
アメリカのシアトルで育ったJayは、高校生の頃ブレイクダンスにどっぷりハマっていたそうです。その中で、当時のダンス仲間たちとAOM(Art of Movement)というクルーを結成し、大会にも何度も出場していました。余談ですが、現在H1GHR MUSIC RECORDSに所属するCha Cha MaloneやPhe Redsは、元々このクルーのメンバーでした。その後、偶然受けたJYP Entertainmentのオーディションに合格し、2008年には2PMというアイドルグループのリーダーとしてデビューしますが、Jayが渡韓後間も無くしてMyspaceに投稿していた内容が大きな批難を呼び、結局デビュー1年ほどで同グループを卒業します。シアトルに戻ったJayは、B.o.Bの『Nothin' On You (feat. Bruno Mars)』のカバーがバズり、結局B.o.B本人とのコラボを果たすなどといったこともありましたが、同時期に、かつての友人であるCha Cha Maloneと音楽を作り始め、2010年から2012年にかけてほぼ二人三脚で音楽を作り続けました。その頃できた作品に、シングル『Speechless』や、ミニアルバム『Take a Deeper Look』、そして国内のみならず海外でも爆発的な人気を生んだJayの1stアルバム『New Breed』などが挙げられます。一度業界を追われた人が復帰することに対して周囲は必ずしもウェルカムではなく、Jayが2013年にSidus HQとの契約を解消した際にはDok2やthe Quiettが所属していたILLIONAIRE RECORDSへの加入を希望したそうですが、そのような背景もあってDok2としてはかなり悩んだそうです(結局拒否した)。でもそこで拒否されたからこそ、AOMGを設立するに至ったんですけどね。
AOMGから最初に曲をリリースしたのは、GRAYです。自身初となるEP『Call Me Gray』が大ヒットを喫すると、Jayの2ndアルバム『Evolution』とLocoのミニアルバム『LOCOMOTIVE』が立て続けにヒット。レーベルとしての立ち位置を確実にしていきました。その後、Jay単体でも「Show Me The Money 4」にプロデューサーとして参加したり、『All I Wanna Do (K) (Feat. Hoody & Loco)』や『Me Like Yuh』といったヒット曲を生み出したアルバム『EVERYTHING YOU WANTED』をリリース。そういった活動の中で、かつてJayに向けられた業界からの嫌悪感は徐々に薄れていったように思えます。
国内のアーティストだけでなく、海外、特に故郷のシアトルのヒップホップシーンも盛り上げたいと思っていたJayは、2017年にH1GHR MUSIC RECORDSを設立し、ついにグローバルに事業を展開し始めました。同年には、あのJay-Z率いるレーベルRoc Nationに加入したり、「Asia's Got Talent」のジャッジに就任したりと、Jay個人としての活動領域も本格的に海外へと広がっていきました。
このように国内外での精力的な音楽活動、特にH1GHR MUSIC RECORDSのコンピレーションアルバム『H1GHR: RED TAPE』『H1GHR: BLUE TAPE』のリリース、またその他多方面での国内シーンへの貢献度が評価され、2021年の「Korean Hiphop Awards 2021」では「Artist of The Year」に選出されました。優れた歌手、そして経営者である「Jay Park」という人間は、今ではアーティストに限らず多くの人の尊敬の対象となっています。
Jay Parkがシーンにもたらした「変化」
「Show Me The Money(以下、SMTM)」シリーズを観ると明らかですが、韓国において、ヒップホップシーンとアイドルシーンとの間には大きな確執があります。BOBBYがSMTMシーズン3で優勝したり、ZICOがシーズン4にプロデューサーとして参加したりするなどしても、やはり「アイドルラッパー」に対する偏見は根強いと感じます。大衆のスポットライトの元で輝くアイドルが追求するかっこよさと、アンダーグラウンドで自らの力を誇示することで輝くラッパーたちが追求するかっこよさが上手く噛み合わないのは、構造としてしょうがないことなのかもしれません。ただそのせいで、本当に実力のあるアイドルラッパーたちがヒップホップシーンで輝けない、またアイドル業界が閉鎖的なために、そういったアイドルたちが音楽業界で自由なキャリアを選択できない、といった現状があるのもまた事実。そのような問題に一石を投じたのが、Jay Parkです。彼は、YG ENTERTAINMENTとの契約を終えようとしていたLee Hiや、JYP Entertainmentとの契約を終えたYUGYEOMをAOMGで受け入れ、またYUGYEOMと同じアイドルグループに所属していたJAY BをH1GHR MUSIC RECORDSで受け入れるなどして、これまでアイドル業界では大手と言われてきた事務所で行き場を失ったアーティストを積極的に自分のレーベルに引っ張ってきています(Lee Hi自身はアイドルではないが)。ここでJayが成し遂げた偉業といえば、アイドル事務所からヒップホップレーベルへのキャリアルートの例を作ったことでしょう。先ほど述べた通り、業界としてはほぼタブーとされてきた(と思われる)両者の融合をやってのけたというのは、ひとまず大きな成果といえるのではないでしょうか。ヒップホップシーンの人間からすれば「けしからん」ことかもしれませんが、アイドル達にとってキャリア形成の選択肢を増やしたこと、また両者の融合によって音楽的に新しいサウンドの可能性を生み出したことは、音楽シーン全体を見ると歴史的価値のあることのように思えます。
加えて、当たり前ですが、アジア系アメリカ人として初めてRoc Nationと契約したことは、間違いなくシーンに変化をもたらしました。韓国ヒップホップのプレゼンスを、ヒップホップの母国であるアメリカへと確実に押し上げたのですから。それまでBIGBANG、CL、PSYなどがアメリカで人気を博していたことは事実ですが、JayがRoc Nationと契約するまで、韓国のアーティストがアメリカ国内で、純粋に「ヒップホップ」という分野で評価されているとは言えませんでした。しかしながら、ラジオ「Sway in the Morning」で3分間程のフリースタイルをかましたり(過去にはA$AP Rocky、Young Thug、Childish Gambinoなど多くの大物アーティストが出演している)、New YorkのSOB'sで行われたライブで6ix9ineとコラボし場を沸かせるなど、「アジア人」という一種のハンデを背負いながらもその実力の高さを見せつけたことで、韓国のヒップホップが、アメリカにおいて一定の評価を獲得するに至る契機となりました。
「歩くプラットフォーム」
Jay Parkは、常に「誰と何をどうしたいか」を明確に定めて、それに忠実に生きているように思えます。アーティストとしては、例えばマレーシアのJoe Flizzow、シンガポールのShiGGa Shay、また日本ではMIYACHIとのコラボ曲を制作していることから、意図的にアジアのヒップホップシーン発展のために活動していますし、経営者としては、前述の通りJayの地元シアトルのラッパーを支援するため新たにレーベルまで作っていますよね。自分がどれだけ稼げるか、有名になりたいかというのは二の次で、シーンや周囲の人に対してどれだけ良い影響を与えられるかに重きを置いて活動をしていると語るJayの言葉から、その背景がうかがえます。
これまでの経歴から分かる通り、Jayは、偏見や暗黙の了解のような理不尽な固定観念に囚われず、そこに自分の居場所がなければ作り、かっこいいと思った者はかっこいい、正しいと思ったものは正しいと信じ、それを大衆が理解していなければ実力で理解させ、可能性のある芽を見つければリスクを顧みず支援するなど、常に新たな「場」を作ってきました。彼は、SMTM9の決勝曲、lIlBOIの『ON AIR (Feat. Loco, Jay Park & GRAY)』で、
と言っていますが、Jayを中心に育まれる新たな流れや、その貢献を基盤に変化し発展していく韓国の音楽シーンを見ていると、もはや彼は「アントレプレナー(起業家)」を超えて「プラットフォーム」になりつつあるのではないか、と思ってしまいます。
最後に -筆者の戯言-
今回記事を書くにあたり、Jay Parkのインタビュー動画やドキュメンタリーなどを幾つか観ましたが、彼のステージでのパフォーマンスだけでなく、話し方の態度、そして物事に対する考え方を知っていくうちに、思わず「かっけえ...」と声が漏れるほど感銘を受けました。ブレない芯、高い行動力、勇気、ハッスル精神、冷静に取捨選択する力、これら全てにおいて学ぶところが多く、僕の人生におけるロールモデル間違いなしです。筆者の主観が散りばめられた記事になってしまったかも知れませんが、楽しく読んでいただけていたら嬉しいです。
Love, Skaai
2021.06.01
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