[EDITORS FILE] トミモトリエ/株式会社人間(大阪)
関西で活動する個々の編集者の考えやポートフォリオ、編集の価値観などを紹介する「関西編集保安協会 EDITORS FILE」。株式会社人間所属、相談できるデストロイヤー/人間編集部 編集長のトミモトリエさんをご紹介します。
氏名:トミモトリエ
所属:株式会社人間 相談できるデストロイヤー/人間編集部 編集長
プロフィール・経歴
1976年東京都生まれ、大阪府在住。女子美術短期大学中退。ファッションデザイナーからIT業界に転身し、自分を生中継し続けるブログや、時間を切り売りする「人間レンタルサービス」を立ち上げ、"ダダ漏れ女子"として話題になる。2014年大阪へ活動の拠点を移し、株式会社人間に入社。2018年2月「人間編集部」立ち上げ。2022年12月に自社メディアとして『ヘンとネン』を創刊。年間400食カレーを食べるスパイス狂。
トミモトリエさんへの一問一答
ー 編集に携わろうと思ったきっかけは?
デザインの仕事をしていると思ったら、いつの間にか編集に携わっていました。
大学で学んだのは、生活デザイン分野のアパレル・テキスタイルデザイン。紡織・染色・シルクスクリーンプリントなど、糸を編んで布を作り、型を作って一着の服に仕上げるまでの工程です。そのまま、ファッションデザイナーになりました。
いろいろあってIT企業に転職するのですが、広報業務の一貫としてはじめた個人ブログで、毎日自分の顔を生中継していたことが話題となり、"ダダ漏れ女子"と呼ばれ業界で認知されるように……。その後、「人間レンタルサービス」や「ごはんをおごるメディア」など、立ち上げるプロジェクトがことごとくバズる……という無双時代があり、企画屋として活動しているうちに、複数のメディアの「編集長」という立場になっていました。
肩書きはプランナー、デザイナー、ライター、クリエイティブディレクターでしたが、後から考えると、アパレル業界にいたころから、全ての業務に「編集」がくっついていた気がします。
ー これまで編集したものを教えてください
自社メディアの『ヘンとネン』をはじめ、近畿大学のニュースサイト『Kindai Picks』や、mineoのコミュニティサイト『マイネ王』、大阪ステーションシティのメディア『do-ya?』など、Webの記事を中心に、企業の採用メッセージ、広告、イベント、動画、漫画、SNSの投稿など分野は多岐に渡ります。
ー 編集者としての特徴や得意な領域は?
編集長でありクリエイティブディレクターとして、プロジェクト全体を指揮して判断する役割を担っています。そして、もう一つの肩書きは「相談できるデストロイヤー」。新しいコンテンツを作る上で必要な「壊す」という工程を担っています。
思考上の解体作業は編集者にとって必要不可欠だと思いますが、限界を突破したり、心の扉を壊す意味でも、創造と破壊は表裏一体にあるものだと思っています。
得意な領域は、一見理解不能な、蛇行した人生を歩んでいる「超生命体」を紐解くこと。変人やマニア、そして社長のインタビューも得意です。
また、テレビの情報番組などで、大阪の面白さを熱弁する東京人として(主に大阪スパイスカレーマニアとして)なぜか重宝されています。熱弁できるものが多いです。
ー 編集業務で重視していることは?
「雑談」です。なるべく無駄な話をするようにしています。相談できる酒場として「人間酒場」というイベントを続けているのも、雑談をするため。悩みを聞くことも重要ですが、面白い企画はどうでもいい雑談から生まれることが多いのです。
東京にいた頃はインターネットの交流が中心になっていましたが、大阪に移住してからは、街で知らない人との交流が爆増しました。酒場で隣になったおっちゃんや、喫茶店のママと何時間も話し込むことがあり、それがコンテンツ制作のヒントになっています。
判断する時に心がけているのは、主観だけでなく、内観と客観で見ること。自分の共感や同感だけで判断しないよう、前提を疑い、無意識のうちに作っている規定や思考の偏りを見つける必要があります。意図的に意地悪な批判的思考も取り入れながら、第三者の目線に切り替える。良いと思う部分は、思いっきり主観でアホみたいなテンションで褒めます。
ー 編集者として喜びを感じた瞬間は?
限界を突破した時。
予想の斜め上を行く原稿が上がってきたり、ライターが個性を発揮できたり、スランプを脱却したり、新しい手法や新境地を開拓できたり、何かしら突破できた時に喜びを感じます。
時には予期せぬトラブルが起きたり、前提が大きく覆る変更が発生したりもしますが、それを突破できた時も同じく喜びを感じます。
ー 思い入れ深い仕事は?
突破したという意味で思い出すのは、『どっこいしょニッポン』に掲載された「アルプスの少女ハイジのチーズパンを完璧なシチュエーションで再現した」という記事。ふざけた企画をアニメの版元に通すところから、山小屋を探したり、おじいさん役の衣装は再現度を高めるために薄緑色に染色までして……それだけでも大変だったんですが、実は記事に掲載されていないところでも果てしない苦労がありました。「難産だったからこそ愛おしい」という気持ちです。読者からの「ここまで再現されたら笑う」というコメントに救われました。
また、ルクア大阪のトキメキ事業部とヘブンジャパンのコラボイベント『ダイジョウ文庫』は自分自身の限界を突破した企画です。「あなたの表紙を90分で作ります!」というコンセプトで、30分のヒアリングで参加者の生き様を表す「本のタイトル」と「キャッチコピー」を考え、10分で撮影、その後帯の推薦文を書いたりデザインや印刷を行い90分で帯付きの本の表紙を作るというタイムアタック企画。3日間で私が担当したのは20人。フルマラソンを全力疾走したかのような達成感がありました。
ー あなたにとって編集とは?
踊り躍ること。全力でノること。
身体能力で編集している感覚があります。
ー これから編集してみたいものは?
個性を引き出し整理する人間の編集。
記憶の在り方の編集。
関西編集保安協会とは?
関西編集保安協会とは、関西という地域において、さまざまなメディア領域を横断し、編集業務に従事する団体や個人が交流・連帯することを目的にした運動体です。
メディアの産業構造が変化し、情報コミュニケーションにおけるデザインやテクノロジーの力が見直される一方で、その歯車となる編集については、その思考やノウハウを共有し、研鑽する場が少ないことを課題と感じています。
首都圏に集中するメディアの産業構造を疑い、関西というエリアにおいて編集人財の育成を図るとともに、編集業に従事する人・団体が安心して仕事ができるネットワークをつくることを目的としています。
関西編集保安協会Webサイト
https://khhk.info