[EDITORS FILE] 光川貴浩/bank to LLC.(京都)
関西で活動する個々の編集者の考えやポートフォリオ、編集の価値観などを紹介する「関西編集保安協会 EDITORS FILE」。bank to LLC.所属の光川貴浩さんをご紹介します。
氏名:光川貴浩
所属:bank to LLC.
プロフィール・経歴
1985年、滋賀県生まれ。京都精華大学卒業後、ガイドブックの編集者に。2012年、bank to LLC.(合同会社バンクトゥ)設立。京都を拠点としたクリエイティブファームとして、観光・芸術文化・シティプロモーションの領域を中心に、都市におけるあらゆるコンテンツの発掘や発信を手がける。雑誌・書籍、Webサイト、SNSなど複数のメディアプラットフォームにおける情報発信の戦略構築・ディレクションなどを手がける。本業以外に、京都精華大学非常勤講師・京都芸術大学(旧・京都造形芸術⼤学)非常勤講師。京都のミニツアー「まいまい京都」では路地研究家としてツアーガイドを担当。2008年より京都の路地めぐりに目覚め、本人いわく「Googleストリートビューより詳しい」らしい。
合同会社バンクトゥ:https://bankto.co.jp/
光川貴浩さんへの一問一答
ー 編集に携わろうと思ったきっかけは?
高校生の頃、街中の階段や壁などでトリックするBMXというストリートスポーツにハマってました。田舎だったので一緒に乗る友人も少なく、一人で練習してると、テンションが上がらない……。けれど、地元の小さな本屋さんが、毎月、自分のために専門雑誌を取り寄せてくれ、その存在に支えられていました。メディアって面白いなあと思い、編集者という仕事に興味を持ちました。
その流れで、当時「編集」を教えていた京都精華大学に入学し、ふだん編集者として活躍されていた先生のもとで編集漬けの生活を送りました。この少し特殊な大学生活が、その後のキャリアの起点になったと思います。
ー これまで編集したものを教えてください
以下のような雑誌・書籍、Webサイト、SNS、ツアー、店舗などメディアを問わず、いろいろ頑張ってます!
ポmagazine(Webメディア)
Brutus No. 940(雑誌)
FOOD DESIGN フードデザイン 未来の食を探るデザインリサーチ(書籍)
まいまい京都 路地ツアー(街歩きコンテンツ)
SLOW OTSU & ぶれいく柳(シティプロモーション、店舗)
ー 編集者としての特徴や得意な領域は?
再発見と再構築。
すでにあるものに別の価値を見出したり、散らばってるものに文脈をつけたり、埋もれているものを発掘したりするのが得意だと思います。むしろ、そこにしか力を発揮できないタイプです。
新しいテクノロジーにも興味があるので、情報化のための技術を採用しながらコンテンツを載せる乗り物(メディア)を設計するのも得意だと思います。
ー 編集業務で重視していることは?
ひとつは、街医者的なスタイル。ニュース性の高い即時的に消費されるコンテンツではなく、堆積した情報を読み解くことで価値を生むことを重視したいと考えています。編集する対象に長く寄り添い、そばで診ながら、活動の文脈を理解することで気付くわずかな変化を汲み取りたいです。“いっちょ噛み”より、じっくり伴走派。瞬間風速的に結果を出すのではなく、地域や界隈の人に定着するような価値を残す仕事がしたいです。
もうひとつは、編集ではなく「編輯」的であること。僕らの仕事は文字通り原稿や素材を「集めて」「編む」ことが本分です。ただ、この編集という単語は、戦前まで「編輯」とも書かれていました。”輯”という字の構成要素は、人やモノを集めて運ぶ「車へん」に「口」と「耳」。情報を集めるという作業工程に、自らの口と耳で見聞し、対話する。そのためには「車へん」が示す通り、自分の足を動かして人と会うことが大切だと思っています。ここをおろそかにしない”編輯者"でありたいです。
ー 編集者として喜びを感じた瞬間は?
メディアでもコンテンツでも、まだ編集したことがない課題や対象の相談がきたとき。なので、僕らの過去実績にとらわれず、お仕事ください🙏
ー 思い入れ深い仕事は?
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世への単独インタビュー。
あるホテルの1室で、用心警護のSP10名ほどに囲まれながら、1時間ほど取材をしました。握手した時の手の分厚さと温かさ、潤んだチワワのような眼に、「これが宗教指導者のパワーか……」と。
思ってもみない人に会えるのが、この仕事の魅力だと思います。
ー あなたにとって編集とは?
未知をつくること=まだ世の人が知らないことに出会って伝えること。何かの焼き直しではない、新たな言葉や情報を発見し、世の中に対して問いや価値として投げかけること。
一方で、加速度的に増えるコンテンツ量に、自分たちの仕事に嫌気がさすときもあります。ただ、コンテンツをつくるのではなく、そのコンテンツをきっかけに、新たに人と人がつながったり、断絶していたもの同士が繋がったりすることに、編集の価値があるのではないかと考えています。
ー これから編集してみたいものは?
1.街の編集。
BMX少年のときも、路地歩きをはじめたときも、つねに都市や街への興味がありました。近代の都市計画とは対極にあるような街を舞台に、情報と体験を立体的に組み合わせて、街そのものを編集してみたいです。
2.京都の路地に関する本。
路地研究家として、京都の路地歩きをはじめて15年が経ちました。ガイドブックや街歩きアプリ、テレビ番組などでその魅力を届けてきたと思いますが、まだまだ出せていない情報が山ほどあります。都市における路地空間がもつ価値や可能性をきちんと編集して届けたいです。
3.編集の編集
編集者の仕事は、属人的だから面白いし、マニュアル化された仕事からは面白いコンテンツは生み出せないと思っています。その原則に立ちつつ、優秀な編集者の思考やスキルをフレームワーク化したい。関西編集保安協会の活動では、個人的にそこを活動のモチベーションにしています。興味のある方、一緒にやりましょう!
関西編集保安協会とは?
関西編集保安協会とは、関西という地域において、さまざまなメディア領域を横断し、編集業務に従事する団体や個人が交流・連帯することを目的にした運動体です。
メディアの産業構造が変化し、情報コミュニケーションにおけるデザインやテクノロジーの力が見直される一方で、その歯車となる編集については、その思考やノウハウを共有し、研鑽する場が少ないことを課題と感じています。
首都圏に集中するメディアの産業構造を疑い、関西というエリアにおいて編集人財の育成を図るとともに、編集業に従事する人・団体が安心して仕事ができるネットワークをつくることを目的としています。
関西編集保安協会Webサイト
https://khhk.info