見出し画像

いしるについて

今回は「こんか漬け」の味の源・決め手となる「いしる」についての話になります。

いしるとは

「いしる」は石川県(能登半島での生産量が多いです)で作られる魚醤のことです。魚介類に食塩を加えて漬けこみ、1年以上かけて発酵し熟成させた浸出液を言います。秋田県の「しょっつる」や香川県の「いかなご醤油」とともに、日本三大魚醤の一つとされています。

いしるの語源

「いしる」の語源は諸説ありますが、魚のことを古語(平安時代中期ごろ用いられた日本語)で「いお」または「い」といい、その魚の汁が転訛して「いおしる」、そこから「いしる」または「いしり」となったと言われています。

また別名で「よしる」や「よしり」と呼ばれることがありますが、これは魚の余った汁という意味で、さらには塩で漬けることから「塩しる」「塩しり」とも呼ばれることがあります。

画像2

「いしる」と「いしり」

「いしる」または「いしり」という呼称は主に原材料となる魚の違いであるという見方が有力です。「いしる」は能登半島の日本海側である外浦に面した地区に伝わり、輪島港(輪島市)や蛸島港(珠洲市)、富来福浦港(志賀町)で獲れるいわしやさばなどを主な原料とする魚醤、

一方「いしり」は能登半島の富山湾に面した内浦地区で作られ、小木港や宇出津港(いずれも能登町)で獲れるいかの内臓を使った魚醤です。

いしるの歴史

いつごろから製造されたかについては正確な資料がなく、はっきりしませんが、江戸中期以降の1700年代の後半には存在していたのでは言われています。海岸部の漁家が作った「いしる」や「こんかいわし(いわしのぬか漬け)」と米との物々交換が普段からよくあったそうです。

画像1

いしるの製造

「いしる」は、いわしなどを約20%の食塩を加えて桶に入れ、塩漬けされた魚より出た水分を1年間以上かけて熟成させ作ります。

うるめいわし

熟成期間中にその水分中にある魚からのたんぱく質の分解が進み、さらにその成分が分離して桶内にある液体の上層部には脂肪分や魚骨の残骸、老廃物や未分解物などが集まり、ドロドロの状態になります。これが蓋の役割を果たし、外部からの汚れの浸食(塵、埃などの侵入です)を防ぐとともに、更なるタンパク質の分解と酸素に触れない状態で発酵が進みます。また塩分が高いまま発酵が進むので、最近の繁殖を抑制し、腐敗を防いでいます。

いしるの旨味

「いしる」はとても旨味が強いと言われます。これは旨味の成分である総遊離アミノ酸を多量に且つ多種類含んでいるからです。総遊離アミノ酸の含有量は、穀物で作られる一般的なしょうゆと比べて倍近いという研究結果も出ています。またニョクマム(ベトナムの魚醤、小魚で作る、香りや風味が強め)、ナンプラー(タイの魚醤、小魚で作る、香りは軽めだが塩味は強め)などの海外の魚醤と比べても、総遊離アミノ酸の含有量が非常に多いことが専門機関の研究や調査から明らかになっています。

いしる

また、ペプチド…アミノ酸とたんぱく質の中間の性質を持つ低分子の成分(因みにアミノ酸はたんぱく質を構成する最小単位の物質)も多量他種含まれていますが、このペプチドは塩味緩和の効果もあるので、アミノ酸と組み合わせにより特有の微妙な旨味が形成されていると見られています。

ところでアミノ酸の話

ここでこれまでよく出てきたアミノ酸の話を。アミノ酸は大きく分けて2種類のものがあり、たんぱく質を構成する・作り出すものとそうでないものとに分類できます。

そのうち、たんぱく質を構成する・作り出すアミノ酸で体内で合成できないアミノ酸を必須アミノ酸、合成できるアミノ酸を非必須アミノ酸と言い、それらは計20種類あります。たんぱく質は人の体を作るので、これらのアミノ酸は人にとって必要なのですが必須アミノ酸の方は体内で合成できない(または合成速度が非常に遅い)ため、食事から摂取しなければなりません。

そしてたんぱく質を構成しない・作り出さないを遊離アミノ酸と言います。タウリンなんかが有名ですかね。

「いしる」にはタウリンを始め遊離アミノ酸の含有量が非常に多く、また必須アミノ酸では甘味系のリシンと苦味系のバリンが、非必須アミノ酸では旨味系のグルタミン酸と甘味系のアラニン・グリシン、そして酸味系のアスパラギン酸が多量に含まれています。

いしるの効用

遊離アミノ酸であるタウリンを多く含む「いしる」には数多くの効能があります。

①血圧上昇抑制効果…高血圧を抑えて血圧を安定化させる効果があると言われています。 また血圧を低下させることは、脳への血流量を増やす有益な方法であるとしています。脳疲労の原因の一つが血流量の減少であることから、タウリンは脳疲労回復に効果があると言えそうです。

②アルツハイマーの予防…脳疲労回復という点では即効性はないものの、 多くの実験によりタウリンの脳疲労・認知機能改善に関して、タウリンにはアルツハイマー病と関係するアセチルコリンの減少を防止する効果があるので、 アルツハイマーを予防します。

③精神疲労回復(ストレス解消・不安解消)…タウリンには興奮を抑制するグリシン受容体を活性化する働きがあり、不安を抑えるとともに不眠症の改善・睡眠の促進にも効果が見られます。また肝臓機能修復に効果があると言われ、身体疲労回復に大いに寄与します。

④抗酸化作用…人間の体は活性酸素により加齢とともに老化しますが、活性酸素の発生や酸化力を抑える働きがあります。

⑤コレステロール低減作用…血液中のコレステロールや中性脂肪を減らす働きがあります。

余談ですが

うちのお店、油与商店はこの「いしる」で某番組で取り上げられ、しかも出演しました。製造工程からうちの商品の「こんか漬け」、「いしる」を使った料理なんかも紹介されました。その時の写真がこちらになります。

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?