お菓子ばばあ

25歳になって実家を出るまで、家族と団地で暮らしていた
小学校は団地の中心にあって、友達はみんな同じ団地に住んでいる人間だった
小学校低学年の頃「家を訪ねればタダでお菓子を貰える」という通称【お菓子ばばあ】がいた
それは自分が暮らしている棟から少しだけ離れた別の棟に住んでいるお婆さんで、たしか204号室とかだったと思う
なんでも、お婆さんが1人で暮らしていて、小学生が訪ねてくるとポテトチップスやら飴やらのお菓子を振る舞ってくれるらしい
私はそのお婆さんを訪ねたことはないが、何人もの友人がそのお婆さんから貰ったお菓子を嬉しそうに持ってくるのを見たことがある

当時まだ子供であった私は知らなかったが、私が暮らしていた団地は県営でかなり家賃が安かった
言い換えれば「所得が少ない人のための団地」であった
今思い出してみれば、明らかに貧しい友人もいたし、いつのまにか引越してしまう友人もいた
そんな場所だからいわゆる浮浪者のような人、挙動不審な人を見かける機会も多々あった
そんな中育ってきたのでなにも疑問に思わなかったが「お菓子をくれる見知らぬ大人」の元へ子供だけで行くというのはかなり危険なことだったのではないだろうか
しかも、子供ながらに「知らない人からお菓子を貰う」という行為があまり良くないことであることはわかっていたので、当然親にそのような人がいることなど言っていなかった
もし、あのお婆さんが悪い人間であったなら、お菓子になにかを入れることなど簡単にできるし、小学生の子供を家に引き摺り込むことなどもできただろう
今となっては考えられない…というよりも今はもうそのようなことをしている人がいないことを祈るしかないが、同じようなことはわりと他の場所でも起こっているのではないだろうかと思う
私が知っているお菓子お婆さんは偶然(おそらく)良い人であったと思うが、このように「子供しか知らない世界」の中にふと現れる盲点はきっとたくさんあるのだろう

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