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冷めても美味しいコーヒー考

鉄は熱いうちに打ちたい派です

「熱しやすく冷めやすいって感じですね」
履歴書を、こう評されたことがある。着物が好きなのも、すぐ飽きちゃうんじゃないですか、と。そのときは特に反論する気も起こらず、はぁ、とか、ですかねぇ、だとか、生ぬるい笑みを浮かべて答えておいた。

確かに私の履歴書の職歴欄は、「弊社ひと筋40年」というような、定年まで一社で勤め上げるのを良しとする時代の方々が目にしたら、即シュレッダー行きだろう。「ローリングストーン」を苔むさなくていいね!(←親指を立てつつ)と解したかの如き転職歴。もちろん、転職に至った理由は一々ある。吉祥寺の印刷会社から編集プロダクションを経て出版社……と進みたい道を歩いていっただけで3社になってしまった(そして、更にそこに辿り着くまでの紆余曲折もある)わけだが、大体の面接官は一々、理由を尋ねたりしない。
眉をひそめる人たちの心情も察するし、こちらとしても万人に理解されたいなんて思ってない。そして、この「理解されなくてもいい」は虚勢を張っているわけでもない。と思う、多分。

先日、radikoでj-waveの『GOOD NEIGHBORS』という番組を聴いていた。インタビューのコーナーで耳に飛び込んできたのが、このような仕事についてのご意見だ。
「準備が整うのを待ってからではなく、熱があるうちに取り組むべきだと思った。熱が冷めたら、結果的に違うものができてしまう気がした」
(記憶を辿って書いているので、ニュアンスが違っていたらごめんなさい)
お話ししていたのは、品川区中延にタコス屋「みよし屋」をオープンされたという阿部太一さん。大御所出版社・マガジンハウスに所属されていた編集者さんである。

※note内にインタビュー記事を見つけたのでリンクを貼らせていただきます。記事を配信されたのは生活実験型集合住宅「THE CAMPUS FLATS TOGOSHI」さんです。

あの頃の「プロトタイプする暮らし」#2  タコス屋「みよし屋」&編集者・阿部太一さん

上記リンクからインタビューを読めばわかるはずだが、阿部さんはきちんと人生設計を立てたうえで飲食店を開かれたご様子。そんな地に足のついた方が「私と一緒!」だなんて、おこがましいことは断じて思っていない。
ただ先述の「熱が冷めたら、違ってしまう」という言葉に、一方的に共感を覚えた。

そう、私は、熱を追い求めて生きてきたのだ。


沖縄移住から、2カ月半

七月が始まった。夏生まれのせいか、毎年この時期になると妙に焦ってしまう。特に今週は、沖縄に移住してからの2カ月半を振り返ることが多く、進展のなさにちょっぴり途方に暮れてしまった。

ざわつく心を落ち着かせるべく、先日、ご近所のキザハ・コーヒーさんで購入した大宜味村産コーヒーを淹れることにした。貧乏性も手伝って、特別な日に飲もうと取っておいたものだ。この、やるせないしょんぼり具合は開封のタイミングにふさわしい。

熱々のコーヒーを、お気に入りの岩崎龍二さんのマグカップから啜りながら考える。コーヒーだって、淹れた直後に飲まないと酸化してしまう。冷めたら、味が変わってしまうのだ。もちろん、時間が経っても美味しいコーヒーは存在する。けれど、その美味しさは淹れたて直後とは趣が異なってしまう。

やっぱり熱いうちに、やりたいことはやりたいな。
冷めてから違う美味しさに気づけたならば、それはそれで素敵だけれど。
いつまでも熱量が変わらないなんて、高を括って向き合っちゃいけない。他人にはもちろんのこと、自分に対しても。

大宜味村産コーヒーはサッパリとした、やさしい味わい。癖がなくて、すいすい飲める。そのくせ、後味に意外と華があり、少し冷めても美味しく感じた。

いのちを燃やしながらじゃないと生きられない性質ではあるけれど
冷めても美味しいコーヒーには憧れる。


〈KIZAHA COFFEE/キザハ・コーヒー〉information

*文中で触れた大宜味村産コーヒーは限定販売のため、現在は取り扱っていないかと思われます。お店の営業時間等はInstagramでご覧ください
Instagram  @kizaha_coffee_kijyoka_okinawa


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