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さよなら、村生ミオ

村生ミオ先生が亡くなった。

ボクが初めて読んだのは小学生のときで前にnoteで書いた通り。コロコロコミックに掲載されていた銭湯を舞台にしたギャグマンガだ。当時コロコロはジャンプ出身の漫画家を起用することが増えつつあった。「ロボッ太くん」のとりいかずよし、「おぼっちゃまくん」の小林よしのりなど。ただ村生の場合は初期コロコロに掲載されていたので、新人の描き手を探していた編集部のアンテナに引っかかったというのが正しいと思う。作風は「GO GO ピンクソックス」とかのギャグ時代むつ利之に近い印象だったことは覚えている。そして次に出会うのがヒットメイカーとなった村生の出世3部作(とボクが勝手に命名)である「ときめきのジン」(少年キング)、「胸騒ぎの放課後」(少年マガジン)、「結婚ゲーム」(少年ビッグコミック)だ。

「ときめき〜」は同誌休刊もあり早々に終わるが「胸騒ぎ〜」、「結婚〜」はロングランヒットとなり映画化、ドラマ化もされたので知ってるひとも多いだろう。そして雑誌「GORO」で同じく長期連載となった「微熱MY LOVE」。どの作品も文系マイルド・ヤンキーな匂いがほのかに漂う、あの時代(1980年代初頭)の東京をダイレクトに感じる傑作である。どの作品も東京人視点じゃないんですね。あくまでローカル出身者の目線で描かれたからこその東京。まだ東京幻想が色濃く残る時代だったからこそ、作中の高校生男女が私服で原宿や渋谷をデート、カフェ・バーにプール・バー、色とりどりのカクテル、ソフトドリンク。くわえタバコで彼女と待ち合わせする風景。どれも今の東京では見ることができない幻想の中の東京である。松田聖子や中森明菜(ポニーテイル)のようなフレア・スカートの女の子たち。

ちょうどボクが小学6年の頃だろうか。まだ買う勇気がないのでマガジンや少年ビッグを立ち読みしながら、村生作品で描かれる幻想の東京を舞台に描かれる恋模様をドキドキしながら毎回チェックした。ジャンプで車田正美作品の男気に触れながら、ボクは村生作品の少し大人びた雰囲気を(立ち読みしながら)ときめきを求めていたのかもしれない。実際単行本を買うのはずいぶんあとになってからだし、まんが(読み)道の入り口に立ったばかりのボクにとっては少し大人の世界を描く村生ミオの世界はまぶしかった。あだち充が描く「みゆき」や後にサンデーで連載が始まる「タッチ」も読んでいたけど、目線が違うんですよ。石井いさみの「750ライダー」でも描かれるいつもの喫茶店でなにすることなくダベる風景にも通じる、あだちワールドのキモは空気感であり、それゆえに時代を越えて読み継がれる耐久性がある。対する村生の作風はもっと刹那的。あの時代じゃないと伝わらないし、それは登場人物のファッションにも表れている。たとえば村生の作品では肩パット入りのスーツや三浦洋一風のリーゼントの男、少年隊の東山がいい男の代名詞になれば東山的面長な男が登場するし巨乳ブームになればヒロインはどんどんグラマラスな体型になっていく。あだち作品にバブル全盛期の肩パットスーツやボディコンは登場しないし浅倉南がそんな格好で登場したら「タッチ」はまったく別な作品になってしまっていただろう。まあ、あだち充の場合は石井いさみのアシスタントだったことも大きいとは思いますけどね。

そう。村生は柳沢きみおなんですよ。師匠がギャグからラブコメへ変貌/進化を遂げたように村生の作品も変わっていく。柳沢が青年誌へシフトしたのと呼応するように村生も移行、そして自身の作家人生の中でもエポックメイキングな「サークルゲーム」を発表。この「サークルゲーム」、韓流で映像化したら絶対ヒットすると思うんですけどね。物語の冒頭はいつもの村生流トレンディ・ラブコメが徐々に変わっていくサマがまず必読。エロスとサスペンス、バイオレンスの3つの要素が絡み合う大傑作になり、この作品があってこそ村生は2020年代まで第一線の漫画家として活躍し続けることができたとボクは思うのだ。読んだことがないひとは即読んだほうがいいし、村生といえば「胸騒ぎの放課後」で「結婚ゲーム」でショ?なつかしいなァとかさあ、、、ボクに言わせれば頼むヨ、ほんとって感じ。そりゃあ色々ありますよ。「ラブアタック5対1」とかさあ、「胸騒ぎ〜」直後にマガジンに連載していた「もしかしてKOIBITO」とか「あつあつポテト」(グルメ×ラブコメ)とか。「気ままにTryあんぐる」もありました。確かコレ、カメラマンものだったんですよね。ヤングサンデーで連載していた「1分16秒08」なんて今の時代絶対ムリなネタだよな、とか村生ミオはとにかく80年代多作だったんですよ。このへんは柳沢きみおの影響なのかはよくわからないけど、本人に聞いてみたかった。でも量産体制の中でしか見えないことってあるんでしょうね。そんな時期を経て、ラブコメブームも完全に消え去っても生き残っていける作風を構築できたんだと思います。

長期連載となった「SとM」、ビジネスジャンプで連載されていた「男の時間」や「官能小説家」と集英社、秋田書店、日本文芸社に双葉社と舞台の幅を広げながら描き続けた漫画家、村生ミオ。ラブコメ時代の作品を懐かしく読みふけるのも悪くないけど、この機会に後期村生ミオの作風を確立した名作「サークルゲーム」をできるだけ多くのひとに読んで欲しい。いっそ秋田書店も新装版で再リリースして欲しいですね、ちゃんと解説付きで。デヴィッド・フィンチャーやマーティン・マクドナーの映画にも通じるダーク・サスペンス+エロス。数年前観たエドガー・ライト監督の「ベイビー・ドライバー」って映画、ボクの中では完全に村生ミオですね。あのポップでヴァイオレントなノリで韓流製作陣で「サークルゲーム」を製作したら世界的にヒットすると思うんですけど、おそらくボクだけかなァ、そんな妄想抱いてるのは。ポップさと凶暴性。一見相反する要素ですが、それを成し遂げたのが村生ミオの「サークルゲーム」なんですね。とはいえ電子書籍では読めるものの、読み放題になっている作品でもないので気軽に読める状況ではありませんが。ピッコマとかで1日1話で悠長に読むべき作品じゃないですから。一気にジェット・コースターなノリで一晩で完走して欲しいんですよ。ああ、やっぱ必要だよ、新装完全版。コンビニ廉価版じゃダメだ。装丁、経年劣化したとき読む気失せちゃうからさ。秋田書店さま、今すぐ企画したほうがいいです。今風の装丁で。シティ・ポップ感覚(→©まつもと泉)でよろしくちゃんです。よろしくちゃん、てまるでハロルド作石みたいだな。

実際、村生ミオは映画好きだったと思います。記憶がおぼろげで申し訳ないですが「マドンナは眠らない」か別の短編集で自身の好きな映画について語ってるページがあったのを覚えてます。あと音楽か。おそらくボクが大滝詠一なる単語を初めて認知したのは村生ミオの「結婚ゲーム」なんですよ。しかもその曲名、のちのち調べたらいわゆる「ロンバケ」収録の曲じゃないんです。厳密に言えば「Velvet Motel」なんですけどね。SONG BOOKにインスト曲「SUMMER BREEZE」として収録されたやつ。たしか「結婚ゲーム」の3、4巻あたりかと記憶しているが。。収録されてる何話か目の最終ページ最後のコマのモノローグ。「大滝詠一の「SUMMER BREEZE」が流れていた」って書かれてた。おそらくほぼ知られてない、村生ミオとシティ・ミュージックの邂逅。たしかによくレコ屋行くんだよ、80年代初頭の村生作品の登場人物は。「悪りぃ。オレ、そこでレコード見てるわ」ってセリフでね。デート・シーンで女の子が服を見始めると大抵そんな展開に。これも実に80年代ライクな話だよなァ。だいたい80〜82年頃までかな、、あ、もちろんWAVEとかTOWER RECORDじゃないですよ。登場人物たちが行ってたのは下手すりゃ新星堂とか山野楽器だったかもしれない。街の名もなきローカルな店だったかもですが、それゆえに背伸びせずに多くの高校生や大学生(おそらくこちらは「微熱MY LOVE」)は気軽に読むことが出来たんだと思うんです。KOIBITOはいないし彼女を作る自信もない、まさに村生作品における「1分16秒08」の登場人物たちのようなボンクラ学生たちにとって、村生作品は必要だったんですよ。そして彼らがやがて社会に出て大人になり、ストレスを抱え生きていく中での「はけぐち」として、師匠の柳沢きみお同様多くの作品を描き続けた村生ミオの功績はもっと語られていくべきだと思うんですよね。それは国友やすゆきも同様なんですが。

柳沢きみお、国友やすゆき、村生ミオ。この3人に共通するのは多作ぶりとエロスとサスペンスを融合させることで、独自の作風を築き上げ長く描き続けたところだ(注/柳沢は健在)。この3人についてボクはいつか一冊の本にまとめあげてみたいとは考えているが、今んところオファーは一切ない笑。みんな、そんなにマンガが嫌いか?と思うぐらいないので今後も上記3名については定期的に書いていきたいと思います。


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