見出し画像

村生ミオとは何者なのか その3

村生ミオの「サークルゲーム」の話をする前に、過渡期の、おそらくこれまで殆ど語られてこなかった作品について触れてみたい。

まず少年ビックコミックに連載され、短期で終了してしまった「神の子」。国民的スターだった元野球選手の子に生まれた主人公という設定、その主人公の父と親友の娘によるラブコメかと思いきや、野球に関して才能を受け継いでない苦しみやら、高校生男子なりの悩みなどを真正面から描いてたりして、明らかにこれまでの作風から脱却しようという意気込みが感じられる作品だった。モチーフは長嶋茂雄と一茂なのは一読すればわかるし、ヒロインに頼らずに描こうとするチャレンジングな姿勢が伝わる佳作である。もし、この作品がヒットし、長期連載になっていたら、その後の村生の漫画家人生は明らかに変わっていたことだろう。

「高原村へようこそ」は80年代後期に少年サンデーに連載された作品で同時期にあだち充は「ラフ」を連載、80年代初頭にラブコメブームを牽引した2代作家が同じ誌面で連載していた事実にいまさらながら驚愕。というのも、この時期になると、かつてラブコメを読んでいた読者層は大学生でリアル世界での恋愛に勤しんだり、社会人でバタバタと日常に忙殺されてたり。背伸びして読んでいた僕らの世代にしたって高校生である。マガジンで連載されていた「BOYS BE・・」のような例外はあるものの、ラブコメというジャンル自体、時代の主流ではなかったのだ、もはや。

例えば村生がヤングサンデーに連載していた「1分16秒08」に関していえば佳作「モノクロームレター」を当時の大学生のライフスタイルに合わせて換骨奪胎された作品だったと記憶する。いわゆるコメディとしての性描写が前面に押し出されることで、時代性を保っていた作品だった。だが、その路線は押し進めていけば後にマンガシーン全体が苦しむことになる「有害図書」問題にぶち当たる。実際、80年代中盤から後期にかけてラブコメブーム隆盛後にエロティックコメディとしてデビューした作家は多い。「Oh!透明人間」の中西やすひろ、「ハートキャッチいずみちゃん」の遠山光、「修羅の門」の川原正敏も、最初は「パラダイス学園」という、みやすのんき的エロティックコメディを月刊少年マガジンに連載していた時代である。

「神の子」は単行本3巻で終わり、「高原村にようこそ」も短期連載で終わってしまう。あだち充はこの時期「虹色とうがらし」なる息抜き的作品を経て、90年代に「H2」なるメガヒットを再び飛ばす。が、まだこの時期は名作「タッチ」のヒット余熱さめやらぬのタイミング。つまり80年代初頭のラブコメブームを牽引したふたりの作家はそれぞれがそれぞれの過渡期を過ごしていたとも言える。

そして村生はようやく今に至る、自身の作風を打ち出すことに成功する作品に出会う。「サークルゲーム」である。

この章、もう少し続きます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?