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1992年の裕木奈江(最強伝説③)番外編〜小林信彦に出くわした日。


NetFlixで「悪霊狩猟団カウンターズ」を完走し、ロスになっている。

同じく「日本統一」なるVシネ魂全開の作品をAmazonプライムで観てハマってしまう。シリーズ38以降が有料なんだよなー。続きが気になるよなあ。

完走したり見放題待ちの状況の中、あなたへのオススメで出てくるいくつかの作品をチョイスし、ぼやーっと観てみたが、ハマれない。うーん・・なんか集中できない。冒頭だけチェックしてはヤメるの繰り返し。

そう思いながら先日日本映画専門チャンネルで一挙放映されていた「ウーマンドリーム」(裕木奈江主演)をあらためて見始めたら止まらなくなる。

原作は「極東セレナーデ」(小林信彦著)。
初めて読んだのはドラマがオンエアされる直前、というか92年の夏のこと。「イエスタディワンスモア」、「ミート・ザ・ビートルズ」はタイムスリップ物という体裁をとりつつも失われてしまった東京という街への郷愁のほろ苦さが実に素晴らしいのだが、もともと読み始めたきっかけはロッキンオンだった。

ロッキンオンでの松村雄策と小林信彦による「ビートルズ論争」。これが小林信彦を知るきっかけだった。

当時、ボクは松村雄策信者。自伝的小説「苺畑の午前五時」は松本隆の「微熱少年」と並んで10代だったボクの感性のすべてを支配した。なんで俺は60年代に10代を過ごせなかったんだと悔やんだ。あまりに熱狂過ぎて、高校時代洋楽に関しては60年代もの、もしくはビートルズ関連なら大目に見るというマイルールをたてた。
おかげで大学入学までの89年まではきれいさっぱり最新の洋楽は抜け落ち、松村雄策がビートルズの弟バンド、バッドフィンガーを絶賛すれば中古レコードを探すべくロッキンオン巻末の中古レコ屋の広告をチェックした。
(当時住んでた福島県郡山には中古レコ屋は一軒もなかった)

ロッキンオンを教えてくれたのは同じクラスの斎藤君だ。高2のクラス替えで一緒になり、「ビートルズが好きなんだ」と言うと松村雄策の単行本を貸してくれた。そしてロッキンオンを知った。

松村雄策に狂い過ぎて、ミュージシャン時代のレコードも買った。

♫ 俺はプライベイト・アイ このままいくさ

歌い出しがこんな感じだった。ちょっと若き日の岡村靖幸みたいな風貌のジャケット(衣装は全然違いますよ)。「プライベイト・アイ」か、、、と思った。
いわゆる和製ロックだなと思った。一瞬世良公則を想像した。

中古で3000円だったが迷わず買いましたよね。
でも大学4年のときに後輩のギター(グレコのレスポールスペシャル)と交換した。なので今は持ってない。

松村雄策の文章はとにかくわかりやすく、そして言葉にちゃんと熱が宿っていた。暑苦しくなく、読んでて気持ちがいい文章。ボクのように熱意の空回りがない、リズムも含めてちょうどいい。だから確実に気持ちは伝わった。

こういう文章が書きたいなと思っていた。そしてボクはいまだに書けない。もはや熱意の空回りも芸のうちなのかもな、とも最近は思っている。

そんなボクが、いつのまにかボクは小林信彦に夢中になってしまった。

小林信彦でいちばん読み返したのは「夢の砦」と「極東セレナーデ」、「虚栄の市」、「悪魔の下回り」、「ミート・ザ・ビートルズ」に「僕たちが好きな戦争」、「怪物が目覚める夜」、「テレビの黄金時代」だ。90年代の東京三部作最終となる「結婚恐怖」も嫌いじゃない。芸人をテーマにした「天才伝説 横山やすし」、「おかしな男 渥美清」も忘れちゃいけない。「喜劇人に花束を」で植木等と藤山寛美を取り上げるセンス。そう、この本がボクの卒論「渡辺プロダクションとその時代」につながるんだっけ。そう考えると影響を受けた、なんて安っぽい表現を軽々しくできないぐらいだ。「夢の砦」で描かれる失われた東京の風景、黎明期のマスコミ、何者でもない自分が何者かになれるのかの自己葛藤。コンプレックス、女性不信、などなど。夏目漱石や永井荷風、谷崎潤一郎への憧れがにじみでる文章。生まれも育ちも生粋の東京人だからこその照れも羨ましかった。

「虚栄の市」は手に入れるのに何年かかっただろう。東京に住み始め、毎週古本屋をまわっていたが神田の古本屋で2万円だったのを「高すぎて買えねえなあ」と店内に飾られているのをずーっと眺めていた。最終的に角川文庫版を2000円で手に入れたのは2007年ぐらいか。中野ブロードウェイの古本屋で偶然見つけたとき、迷わず購入した。

週刊文春を買い始めたきっかけは近田春夫の「考えるヒット」と小林信彦のエッセイ連載目当てだった。90年代半ばだから20年以上になるのかあ。

中原弓彦名義の頃のコラムをずいぶんあとになって読んだりして、やっぱり10年生まれるのが早かったらなあ、と悔やんだ。だけどマジでそうだったとしてポップカルチャー好きとして生きていけたのかは疑問ではある。

10年早く生まれたとして、ビートルズ解散時に10歳。うーん、、、江口寿史さんの漫画を「すすめ!パイレーツ」しか読んでない可能性もある。フリッパーズギターがデビューしたとき29歳か、、、気がつかずスルーしてた気もする。土田世紀の「俺節」も「編集王」も知らないまま、つまらない大人になってたかも。裕木奈江最強伝説とか書かないで大場久美子最強伝説とか書いてたかもなあ。なんか違うな。

で、当時オンエアされていた頃から実に20数年ぶり?いや、もはや30年近くぶりに観たのだが、実によくできたドラマだった。原作の「極東セレナーデ」がソフィスケイデッドなギョーカイ小説にあえて挑む的な小林信彦のスタンスが面白いのだが、ドラマはもっと朝倉利奈、劇中では裕木奈江という芸名になるんだけれどそこからの揺れが最高すぎる。

アイドルである裕木奈江と朝倉利奈とのギャップに揺れる、揺れる、ひたすら揺れる。氷川さん(マネ)に反抗する、ぷいっと姿をくらます、などなど。おう、ここまで描いちゃう?的なシーンも今ならニヤリとさせてくれるが、これ92年だよね?立派なアイドル・ドキュメンタリードラマな視点じゃないですか。AKBより20年早いよ!

もちろん生き別れた母と子、というわかりやすくも泥臭いテーマもはらんだ作品なのだが、そのアナクロな設定もまたいい味を出している。原作「極東セレナーデ」にはいないキャラ、国民的歌手、若月しおん(実母)がまた娘が揺れると自分も揺れる。リハをすっぽかして飲酒運転で事故、入院みたいな。心配する朝倉利奈は仕事中も現場を抜け出し、入院先に容態確認の電話を何度も繰り返し、また氷川に怒られる。そう、電話といえばまだテレフォンカードが主流だったんだ、この時代は。緑の公衆電話にテレフォンカード。懐かしい光景。

ちなみに「ウーマンドリーム」の最初の回のあたりのオープニング映像。記者会見の風景で小林信彦がちらりと出演している。

小林信彦とは5〜6年前か。いや、もっと前かもだが渋谷の東急フードショウのある地下通路で出くわしたことがある。重度の信者なのですぐにわかった。
もちろん迷わず声をかけた。

「小林さんですよね?」

そのひとはイヤイヤと手振りでボクの言葉を否定し、そそくさと駅の改札へつながる階段方向へ歩いていった。

だけど絶対間違いなかった。あれは小林信彦本人だったと今でも確信してるよ。


ちなみにこの裕木奈江最強伝説ってタイトル、「ウーマンドリーム」劇中で登場する本人の自伝連載のタイトルへのオマージュだってことを念のために書いておきます。

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