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水島野球マンガが足りない!〜2021年夏の情景。


日々を過ごしていて、もろもろしんどいなァと思うときがある。ツキ。そう、ツキが足りねえ的なやつ。ちなみに猿岩石のセカンドシングルは「ツキ」。オリコン最高4位だったな、とかそういうことじゃない。

たとえばコンビニで買い物して「こちらクジ引いてください」となり、微妙に缶チューハイ(しかも好みじゃない銘柄)引換券あたったりするとブルーになる。どうせえちゅうねん。

ただでさえ暑いじゃないですか。それだけでブルー。
灼熱のTOKYOを歩く。汗だくになって、ブルー。だりーなァとか思ってブルー。
いわゆるピチカートファイヴ/オリジナルラヴでいうところの「夜をぶっとばせ」主義。
わけもなくひどくブルー(ちょっとだけ語尾フェイク気味に発音よろしく)。

そんなときボクは「ドカベン」と「大甲子園」を読む。ひたすら読む。もうええっちゅうぐらい読む。
常勝明訓が弁慶高校に初めて敗北した山田太郎、里中智、岩鬼正美、殿馬一人、高2の夏。土井垣監督は日ハムへ。土井垣(あえて「どえがき」と岩鬼風に読んでほしい)、明訓負けたらプロ入り宣言しちゃってんだもんな。そして最後の監督、大平さんへと交代、一気に本編ラストまでドライブする物語は最後の最後で唐突な里中野球部引退ということでこの高校野球マンガ巨編は一旦幕を閉じる。あれは驚いたなァ。

まあとにかく「わけもなくブルー」な場合、ボクらは「ドカベン」を爆読し不屈の明訓魂をむさぼるように浴びまくるってのが正しい。おそらくこの夏もっとも正しいスタイル。

その前の春の選抜編での土佐丸との決勝戦もいい。小さな巨人と呼ばれた名投手、里中がガラスの巨人となり肘の故障に苦しみながらも勝利を掴むエピソードと岩鬼家のピンチ、ピアニストへの道、野球への情熱に悩む殿馬とか最高。そして続編「大甲子園」。どうして決勝戦が球道くん率いる青田高とではなかったのか。当時それはずーっと疑問だったけど。

プロ野球編はいつかくるんじゃないかとは思っていたけど単行本は買ったなあ。里中と山田の妹サチ子のラブロマンス、夏子さん(バツイチ)への一途な思いをかなえた男・岩鬼のストイックな姿勢は評価したいけど山田の保母さんってのはどうなのか。意外性欲しかったよね。だけど山田祖父、孫がプロ入りしてもしばらく長屋暮らしをやめなかったのはアリ。

雲竜、不知火、土門ら神奈川県勢ライバルたちも忘れちゃいけない。他県ならば余裕で楽勝甲子園代表だろうに。特に悲劇の天才投手、不知火は「大甲子園」、つまり山田世代最後の夏の甲子園予選決勝。「負ける気がしない」と豪語、実際山田をほぼ完璧におさえこむもギリギリのところでやっぱり負けちゃう切なさよ。「高校野球に悔いあり。山田、プロで会おう」ってセリフは男の意地を感じさせるじゃないですか。俺も言いたいよね。敗者の美学。そう、水島新司の野球マンガは敗者が美しいのだ。

雲竜は高校編にて大幅減量し山田との対決に挑むも敗れ、相撲取りの世界へ。通天閣打法の坂田、両手投げのわび助、ブルートレイン学園、持病に苦しむ中二美夫投手(江川学院)、柔道編からのライバル賀間剛介に同じく柔道編から続くライバルには影丸隼人なんてのもいたっけ。所属がクリーンハイスクールで背負い投げ投法ね。いかつい外人選手のハリー・フォアマンは同じ高校。けっこう好きだったのが「大甲子園」での千葉県決勝で戦うのがこの高校と球道くん率いる青田高。ちなみに影丸、球道くんに敗れたあと即野球引退。なぜか剣道を始める切り替えのよさを発揮している。美しいじゃないですか。ああ青春。ブンの青シュン!はみやたけし。思えばブンの青シュン!も終わりが唐突だったなァ。


里中といえばさとるボール。石ノ森章太郎の怪作野球マンガ「レッドビッキーズ」Season2で登場するエース、ミルク(牛乳屋の息子だから)のキメ球、ミルクボールと並ぶネーミングのわかりやすさ。ボク、実はレッドビッキーズも長年研究対象としているんですけど寿司屋の息子でけん玉が特技だからトロケン、キレキャラの激情型のショートを守るのはイチャモン、理論先行で技術が追いつかないセカンドを守るのはセオリー、占い好きのセンター担当はエキシャ、キャッチャーは落語が好きだという理由でラクゴ(もちろん体型はドカベン)、、とここまでレッドビッキーズのメンバーの名前をすらすら書ける自分もどうかしてるよな。すぐに怒るからイチャモンって。ちなみにレッドビッキーズ、ちょうど93年から94年頃、京都で再放送されてたんだよ。しかも早朝。ボクはそれを観るためだけに早起きしてた。それはブルーハーツ結成直後、「ばってんロボ丸」見たさにマーシーとのバンドミティーングを上の空だったヒロトのごとく、ボクは毎朝レッドビッキーズを観ていた。なんならオンエア始まるまで徹夜状態で起きて終了と同時に就寝みたいなスタイル。なんであんなに夢中だったんだろうか。面白いんだけどね、ビッキーズ。DVD発売になったとき買ったもんなあ。ああゆう泥臭い少年少女向け30分ドラマって今はもうないのはどうしてなんだろ。いや、ニーズがないのはわかりますけどね。

「巨人の星」って完全に虚構じゃないですか。頑張ってもなれそうもない主人公だし、そもそも魔球投げすぎで利き腕壊したくないし。「キャプテン」の谷口タカオも努力努力のがんばらなくちゃ主義。だけどあれだけ頑張っちゃうと僕らの世代、おそらく誰の心にも巣喰う野比のび太が悪質なスマイルで「いいじゃん。今日は寝ちゃえよ」と耳元で囁き始める。その点「ドカベン」は読者に優しい。ほんとにありそうでない具合を絶妙に描写する。岩鬼の悪球打ち。里中のアンダースロー、殿馬の秘打、、現実にはないんだけど、妙なリアリティと荒唐無稽さがちょうどいいんだな。変化球投げすぎで肘を痛めがちな里中、とかリアルだったもん。「ドカベン」本編最後で高校中退したつもりの里中、実は休部扱いで母親手術成功ってことで野球部復帰もブランクあるからフォームが戻らないってのもよかった。

「ドカベン」プロ野球編になると岩鬼を始め、金を稼げるようになったせいか私服ファッションがストリート化。それでも山田一家は長屋暮らしを止めないのがよかった。プロ入り→契約金→即マンションお引越しとかしちゃったら見損なってたな。つまりプロ野球編は当時の読者のためのファンタジーなんですよ。山田世代の名選手たちが実際プロ入りして実在の選手と戦うファミスタ的発想であり、1年タームで繰り広げられるペナントレースを「ドカベン」「大甲子園」のようなドラマに仕立て上げるのはそうとう至難の技だったはずだ。結局プロ野球編を経てスーパースターズ編、ドリームトーナメント編と「大甲子園」的水島野球マンガの集大成的なものへと流れていったわけで。ちなみに地味な作品で大金持ちの坊ちゃんでトリッキーなピッチャーを主人公にした「ストッパー」。「野球狂の詩」とリンクしたこの作品、もうちょい脚光浴びてもいいと思うんですけどね。主人公の三原心平、いいキャラなんですよ。「大甲子園」における犬飼三兄弟の末っ子、知三郎を彷彿とさせるすっとぼけた感じと頭脳的投球スタイル。とりあえず「野球狂の詩」マニアは必読。ネット古本屋で全巻一気買いはマストですよ。ちなみにこの三原心平、「ドカベン」ドリームトーナメント編にも登場してます。

思えば「ドカベン」シリーズが完結し、昭和から続く大河野球マンガは絶滅してしまった。電子書籍で開放されていない膨大な数の水島野球マンガ。「ドカベン」シリーズ、「野球狂の詩」、「球道くん」に「一球さん」。地味なところで「光の小次郎」(主人公がドラフト拒否から物語が始まる)、「虹を呼ぶ男」(ヤクルトスワローズを舞台にしたプロ野球マンガ。長嶋一茂が出てくる)、阪神の江夏に憧れる野球少年を主人公にした「野球大将ゲンちゃん」など挙げだしたらキリがない。野球ものではないけど(原作花登筺)転落ノワールもの「銭っ子」は無視できない作品なんですよね(小学生の頃立ち読みして主人公とシンクロしそうになって怖くなった経験あり)。ちなみに「あぶさん」の面白さがわかったのはずいぶんあとですね。大学生の頃だな。「独身アパートどくだみ荘」と「あぶさん」と「人間交差点」を同時に読みながら世捨て人みたいな生活してたな。いや、金がなくて住んでるボロアパートの部屋でだらだら無為に過ごしてただけなんですけどね。まさにリアルどくだみ荘。そういや「どくだみ荘」って映像化されてたんだっけ。主演はサード長嶋。水島新司の息子、新太郎と「おぼっちゃま」なるユニットを組んでたサード長嶋である。当時レンタルして観た記憶あるけど内容ほぼ覚えてない。主題歌が三好鉄生。それだけはなぜか刷り込まれている。

いろいろあるんだろうけど水島新司の野球マンガは電子書籍化されていない。いつかは開放されるんだろうが世の中からなくなるってのはやめて欲しいなァ。ちば先生みたいに日々是日常な日記マンガ描いてくれないかなァ。とりあえず世の中もろもろブルーになりがちな現代社会ですけど水島新司の野球マンガ読んだらいいと思う。岩鬼の悪球打ちのシーンとか読んでるとスカッと胸のつっかえがとれますよ。

水島野球マンガが自由かつ気軽に読める時代が早く訪れますように。でないとボクの「わけもなくひどくブルー」は延々続く気がする笑(しつこい)。

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