見出し画像

陰謀論こえて空想のフラットアース・地球平面説 ~この世界の外側に何があるか?~

いつの頃からだったか忘れてしまったけれど、いつのまにかTwitter上ではしばしばこんなフラットアース論を見るようになった。「この地球は平面であるが、しかしその平らな大地は、巨大な氷の球体の表面の窪みのようなところにあって、しかもその窪みは他にもたくさんあり、それぞれに大地や海がある」というものだ。そのイメージ画像は以下である。

この"説"とイメージ画像は、今では結構有名になっていて、これを発信する論者のツイートにはわりと多くの支持を示す反応がある。これを笑い飛ばすことは誰にとっても簡単である。笑い飛ばせばよい。ある論者はこの論の根拠として、地球外生命体からの情報があり、イメージ画像はその情報を元に作られたということだそうだ。これがジョークでなくてシリアスならば、もう笑い飛ばすしかない。

しかしこの"巨大球体フラットアース説"とでも呼べるような論または案にはおそらく元ネタというかインスパイア元があって、それは2020年から存在していた「南極の壁には切れ目があって、その先にはまだ海が続き、陸地がある」という説と、「氷の平面にいくつもの窪みがあって、それぞれに大地や海があり、我々のこの世界はそのうちのひとつだ」という説だ。以下がそのそれぞれの代表的なイメージ画像である。

これらが最初に挙げた"巨大球体フラットアース説"のインスパイア元ではないかと見れる理由は、現在知られている世界の"外側"にもまだ同じような陸地と海で出来た世界がある、という点にある。そしてこの「まだ他にも知られていない場所がある」というコンセプトは、どうも多くの人のハートにヒットするらしい。だが厳密に言って、僕はこれを否定することはできまい。

この世界の外側に何があるか?
これを知ることはおそらく出来ない。僕にも出来ないし、誰にとっても出来ないはずだ。南極の壁に切れ目を発見したという話も、またその証拠も僕は今のところ知らないし、あるいは南極の氷の大地をうんと南進して向こう側にあるまた別の世界の海を見つけた、という話も証拠も僕は今のところ知らない。つまりおそらく(というか確実に)誰も確かめていないのだ。確かめていないのに「こうだ」と言っているのだ。それはとても変なことである。

フラットアースで最も強烈なことは何か。それは、かつて自分は、あなたは、ここが丸い地球で宇宙空間に浮かんでいると思っていたことだ。自分で確かめてみるまで、それが嘘だとわからなかったことだ。自分は呑気でお人好しのめちゃくちゃなバカだと知ったことだ。そうではないか?そうではないのか?だったら自分で確かめられないことは「わからない」と保留するんだ。あるいはこの社会が嘘まみれで自分を含む一般市民は現代的に洗練されただけの奴隷であると知ったことか?それが強烈だったか?ならばなおさら、その発信者や、僕や、君のような奴隷階級の人間に、"正しい""情報"が回ってくることなどあり得なかろう(奴隷の分際で何様かね)。しかし僕は先に挙げた3つのフラットアース論の中身そのものを否定まではしない。だが支持もしない。まあそうなのかもしれないねとクールに呟くだけである。とはいえ「地球外生命体からの情報」というのはいくらなんでも可笑しいね。ここはホットに笑い飛ばそう。

結局のところ自然科学あるいは自然哲学としてのフラットアースは、実地に観察ができるところまでが限界なのである。しかし陰謀論または陰謀論的なる説としてのフラットアースは、これはもう理論上どこまでも内容を延伸させてゆくことができる。ある論が多くの人のハートにヒットすればメジャー化して生き残り、そうでなければ陰謀論界の深海の海底で静かに自然分解を待つことになるだけだ。だがこの世界の外側に、ここではないどこかに他にもまだ世界があるという思想または"世界観"は、科学の言うところの宇宙空間が表現するそれと似ていることに気づく。そして宇宙が好きな人は世に意外と多い。つまり何故か人は、あなたは、僕は、ここではない隔絶したどこかに別の世界があるイメージを愛着し希求するということなのかもしれないし、あるいはフラットアース論で脳内の宇宙空間を失ったところを別の似たような何かで埋めたくなるという無意識の欲望がむずむずと蠢いてくる、ということなのかもしれない。わからない。フラットアースは意外にもこういう側面でも難しい、ということなのかもしれない。このあたりの具合は僕の頭蓋骨の外側にあるので、まったくわからない。

ともあれ、誰も、ましてや論者でさえ、確認したり観察ができないようなフラットアース論は少なくとも自然科学(または自然哲学)では無い。空想だ。陰謀論こえて空想である。だがフラットアース論がその過程において空想を含んではならないということもなかろう。ある人は空想の羽を天まで伸ばし、僕は観察に粘着するというだけである。僕はベトベトとそこに粘着している。それを怠ったからこそ、ずっと長いあいだ、丸い地球がくるくる回転しながら宇宙空間に浮かんでいたのだ。僕の頭蓋骨の内側で。何年も何十年もずっと。バカみたいに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?