6.5話 追加エピソード

前回:『海亀が旅立つ港』

1話:『グッバイ・マイ・エンジェル』https://note.mu/key37me/n/n673956ed636a

作者からのお知らせ

 私が2週間に一度の水曜日に更新する理由は、別の予定と噛み合わせるためです。
ところがいつのまにやら、その予定との噛み合いがずれてしまいました。
戻そう戻そうとは思ったものの、時間の都合から1週間では失敗してしまい、
しかし3週間も待たせたいとは思わないのです。

 そこで今週は短めの追加エピソードをお送りします。
今回ばかりは単品での面白さが不足しているので、
本編と合わせて世界を広げる別視点のつもりで書きました。
よろしくね。

次回の更新は6月5日(水)です。

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「そろそろ着くか?」
「わからん」
「もう何日めだったか」
「班長のエチケット袋が五袋めだから、二十日くらいだな」

 植物性の空間でエルフたちが談笑していた。元より曲がった背中をますます曲げて、浅黒い皮膚は何日分もの悪臭を蓄えた。王の命を受けて植物性の巨人に意思を与え、名前も知らずにはるか遠くの地へと向かっている。五つの組に分かれて順に休憩しながら、文句を言おうにも帰り道が無いと嘆きながら、暴君に付き従っていた。

 蔦を揺らしてずらずらと入ってきた。交代の時間だ。一人ずつ降りて入ってくる反対側では、押し出されるように蔦を登っていった。昼寝から揺すり起こし、次に交代する班が出口の近くに移動した。

「もう交代か」
「兄貴は目を担当してたよな。そろそろ目的地が見えたか?」
「ああ、多分あの島だ。最終目的地かどうかは──」
「休憩だけでもいい! 早く着いてくれ」

「そんなに荒げて、よほど陸が恋しいか」
「当たり前だ! あいつが来たせいで──」
「まあ、そうだな。我らが王も思いつかなかっただろうな」

興奮する若手を静かになだめた。陸から離れると落ち着きをなくす体質はエルフ全体では珍しくはないが、こうして駆り出された中には数名しかいなかったので、どうにか統率を保っていられた。

「ところで兄貴、王が求めるものはわかったか?」
「そっちはまだ分からん。金の匂いがしないから、いつもの女だろうな」
「ああ、金ならいいのにな。俺たちにも少しは回ってくる」

 大輪の歩行城塞が海を行く。頭として咲かせた大輪の薔薇を水面から出し、比較的浅い海底に足をつけて歩いていった。まるで海原を流されゆく薔薇にも見えるその下では、二本の腕と四本の脚を持たせた植物の集合体が、近くの動物や岩肌に引っかかることもあった。他の種から見ると、とりわけ壁を超えた読者から見るとまごうことなき環境破壊であるが、この世界に住むエルフにはそんなことを気にする文化がなかった。

「うわ、なんか揺れたぞ」
「海流が強くなったりするのかもな」
「交代の時に安全運転をしろって言っておくさ」

 笑っていたところに続く衝撃でその呑気さはすぐに覆った。一方では立ち上がろうとする姿勢が崩され、また一方では器の水が波打ってこぼれた。ぐらりぐらりといくつかの衝撃を受け、しがみついた枝に亀裂が入った。もしも海上に放り出されたら、泳げないエルフ達に生きる道は無いだろう。とはいえそれは王にとっても同じなので、対処に全力ではあると信じていた。

「うお!? まずいことが起こってそうだ」
「この巨体に襲ってくるような何かが?」
「動物じゃあないだろうな。なんだ?」

 答えの出ないままで凌ぎ、やがて落ち着きが戻った頃に再び交代の知らせが届いた。島だと思っていた環礁に乗り込む。陸ではない事実に士気が下がるも、海よりは各実に楽なものだ。押し出されるように代わっていった。

 すぐに再びの衝撃が襲った。今度は軋む音からある程度の想像がついた。植物性の巨人が地を踏みしめて、上半身を、特に腕を大きく動かしている。


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