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『地下の国のアリス』のタルト裁判

『地下の国のアリス』のタルト裁判について述べます。

グリフォンに連れられてアリスが法廷に行くと、マザーグースの文言に基づいてジャックの裁判が行われています。

The Queen of Hearts
She made some tarts,
All on a summer's day;
The Knave of Hearts
He stole the tarts,
And took them clean away.

これによると、ハートの女王が作ったタルトをハートのジャックが盗んだことになっていますが、『地下』の物語では違うようです。

まず、法廷内の描写がthe King and Queen of Heartsとthe Knaveというところから。
『不思議』も含めて、翻訳では言葉を補って「ハートのジャック」と訳されることが多い部分ですが、本来は単なる「ジャック」。

カードの行進の場面では、まずthe Knave of Heartsが、続いてTHE KING AND QUEEN OF HEARTSが登場します。
従って、ここにいるのはハートのジャックで問題ないのですが、法廷の場面では最初から最後までthe Knaveだけ。不自然ですよね。

ここで『地下』の作者直筆の挿絵を見ると、2つの場面のジャックの容姿が異なることに気付きます。

法廷の場面のジャックは、巻き毛が2段で顔が右向き。
カードの行進の場面のジャックは、巻き毛が1段で顔が左向き。捧げ持っている王冠は、ハート型のようにも見えます。

トランプの絵札で、♤Jと♡Jは顔が横向きのため目が1つに見えるデザインで、one eyed jack(片目のジャック)と呼ばれます。
いわばトランプの世界の「そっくりさん」というわけですが、見分け方はあります。
♤Jは顔が右向きで巻き毛が2段。
♡Jは顔が左向きで巻き毛が1段。

ということは、行進の場面にいたのは♡J、法廷の場面にいたのは♤Jだったのです。

サブタイトルWho stole the tarts?にもあるようにマザーグースが示していた容疑者は♡Jだったはずなのに、法廷にいたのは♤J。

「誤認逮捕」というやつですね。

『地下の国』の尻尾型の詩では、犬と猫がラット狩りをしていて無関係なマウスたちがプチッと潰されてしまう話です。
これはハートの王と女王がハートのジャックを裁くはずだったのに、よく似たスペードのジャックを誤認逮捕したというタルト裁判の暗示になっていたのですね。

ちなみに、『不思議の国』のテニエルの挿絵では法廷のジャックは「顔は右向き、巻き毛は1段」になっているのですが、なぜ「1段」にしてしまったのかは不明です。
もしかすると、「右向き、左向き」も構図上人物の立ち位置に合わせたというだけの理由で、テニエル自身は♡Jを描いていたということかもしれません。

もう1つ、『不思議の国』第11章には左向きの帽子屋と右向きの帽子屋の2枚の挿絵が入っています。
よく似た構図なのに何故?と思っていましたが、もしかすると遠回しのヒントだったかもしれません。(分かりにくい・・・)

比較的分かりやすいヒントとしては「髪」や「片目」に関係する表現があちこちに出てきます。『不思議の国』にも『鏡の国』にも。
長くなりそうなので、やるなら別の機会に。

このタルト裁判、『不思議の国』ではさらにおかしなことになります。詳細はそちらで。

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