ヘイトと妄想

地下鉄でものすごいヘイトスピーカーに遭遇した。吊り革につかまって立ったちょうど背中合わせになった男が突然「中◯人、ぶち◯せ」と大声で喋り出した。罵詈雑言をあたりかまわず、しかも流暢に喋り続ける。駅でいうと7つくらいかな?20分以上延々と淀みなくヘイトをぶちまけ続けた。

スピーチの内容は、外国人や在日外国人へを口汚く罵る差別から始まって、日本の土地やマンションが買い叩かれてるから気をつけろ、水資源が危ない、といった、よくあるネット系の陰謀論に変化していった。欧米人のようにドンパチせずに静かに日本を乗っ取ろうとしているとかいった調子。

そしてやがては欧米系の有名秘密結社がバックにいるだの米国のエージェントが暗躍してるだの、安○晋◯は統一教会の協力者だの(これは事実でありますが)、ネット陰謀論の花盛りとなった時点で、ああこれは自民党系のヘイトじゃないな、と思えてきた。これはいわゆる妄想ですね。悪質なネトウヨ系差別発言というよりも、ネットで仕入れたありとあらゆる陰謀論を心から信じてしまっているひとなのだ。

ここでひとつ仮説をたてた。そのヘイトスピーチにこちらが反応して見せたら彼はどういう行動を取るだろうかという実験です。本物のヘイトスピーカーなら、「そうだそうだ」と賛同すれば喜ぶだろうし、「差別はやめろ」と怒鳴ればこちらに敵意を向けて攻撃してくるに違いない。あるいは体格の差にびびってシュンとして黙るかもしれない。

かたや、病的な妄想であれば、彼は自分の世界に閉じこもって心から湧いてくる内なる声と対話しているはずだから、こちらの反応に対しては無視して喋り続けるはずだろう。

ではあるが、電車の中でもあり他の乗客に迷惑はかけられないから、荒立てたことはしたくない。ではなにか良い方法を、と考えてひらめいた。彼がヘイトスピーチしている最中に、その眼球をじっとメンチつけてガン見すればいいんじゃないか。眼は口ほどにものをいうから、必ず何らかの反応があるに違いない。

というわけで、さっそく実践してみた。ちょうどよいことにこちらも彼も椅子に腰掛けてちょい斜めだけど対面状態をとっている。眼力を込めてギッと睨むこと数十秒、こちらをチラと見た。気がついたにちがいない。が、その瞬間彼は目をすっとそらしてしまった。あいかわらずスピーチは続けている。さらに睨むこと数十秒、もうすでに気がついているのはわかっているのだけど、彼は知らんふりを決め込み、こちらを向くときは目を閉じながら、ヘイトだけはやめない。スピーチの内容はとくに変化はみられず、従前通りすらすらと流暢にネット陰謀論を喋り続けていた。

もうわかった、この人はネトウヨヘイトスピーカーじゃない。むしろ気の毒なかただ。

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