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米国企業分析 / Seer Inc. (SEER) 記事無料

(2020/12/5時点で書いた記事)

 最近、わざわざ苦手領域のバイオ系に手を広げ、リテラシーを深めてるハムスターです。今日は昨日IPOしたSEERについて調べてみました。
主幹事はJPM、Morgan Stanley、BofA Securities、Cowenが名を連ねてます。期待値は高そうです。

 ざっとS-1流し読みして終わろうと思ったのですが、調べ始めるとかなり面白く、久しぶりにテンション上がったので気持ち冷めやらぬうちに記事にしてみましたw
 とはいえ、私はバイオ系に精通しない門外漢ですからねぇ。コア技術の部分に関してはお約束通り、バイオ教祖であるぴたごららさんの援護射撃を期待したいと思います。

S-1原文リンクはこちら↓

 ちなみに、今回は企業分析の鬼で知られるnekoさんのS-1の読み方参考にさせてもらいました。今まで上から読んで萎えてたのですが、nekoさん方式でかなりスピードアップです、Special thanks neko-san!!
S-1読む方はnekoさんの記事必読だと思います、効率あがりますよ。
 大体いつもはS-1の他に、決算のプレゼンやホムペから得られる情報についても記載するのですが、現段階で得られる情報がかなり薄いので今回はS-1を基本線にして少し特許の内容についても読み解いていくことにします。

 さて、SEERってどんな会社なの?というと、独自のナノ粒子(NP)技術を活用して、高精度でハイパースループットなプロテオーム解析(proteinとgenomeを組み合わせた造語)による統合ソリューションを提供する会社です。合成DNAでいう次世代シーケンシング(NGS)の合成たんぱく質版だと理解してます。一言でいうと、発想が天才過ぎて全てを理解するのは無理でした。先日調べてnoteにしたTWSTもまあまあ天才だったけど、SEERもそれに劣らず天才級。バイオ業界の人って頭良すぎて控えめに言って怖いよ 
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 じゃたんぱく質の解析ができると何が嬉しいの?ということに関して記事から抜粋します。要はたんぱく質の状態を分析することで未然に病を防ぐ、とかそういった用途が考えられるみたいです。人類の希望ですね。

タンパク質は生物の生命活動の中心的な役割を果たす上に、疾患があると発現するタンパク質がしばしば変化するため、プロテオミクスは、ある種の病気の存在を明らかにするなど生体指標の道具として使える場合がある。
タンパク質は、体という多数の細胞で構成されるシステムを分子レベルで駆動している「バイオナノマシン」であり、常に人の変化を司っていることから、それらタンパク質の状態を観ればそのときの人の変化が分かる。症例ごとにタンパク質の状態を表す画像を用意すれば、常に症状を診断できるという。今後は、感染症患者のタンパク質画像と自分のタンパク質画像を比較すれば、感染症の疑いを探ることが期待されている。

 さらに面白いのは、このたんぱく質というのは種類がとにかく多く、未知のたんぱく質が存在している可能性が高いということ。これまでの解析手法だと大量の解析/合成ができなかった。ここをブレイクスルーするのがSEERの技術、ということですね。
 そもそもたんぱく質って「青写真」である遺伝情報から生成されるものだけど、遺伝子数がたんぱく質数と比べてめちゃめちゃ少ないらしい。どうゆうドライブ力でたんぱく質が生成されてるのか気になるところ。これ夢があってめっちゃオモロイぞ!!好奇心が止まらん。でも調べ出すとキリがないのでこの辺で一先ずストップ。
たんぱく質解析に関してはWikiに情報があったので、以下ご参考まで。

ヒトゲノム計画で明らかとなった驚くべきことの一つは、タンパク質をコードしている遺伝子の数がヒトの持つタンパク質の数と較べて遥かに少ないことである。ヒトは、200万個もの未知のタンパク質を持つ可能性すらある。このようなタンパク質の多様性は、選択的スプライシングと翻訳後修飾がもたらしていると考えられている。この矛盾はタンパク質の多様性はゲノム解析だけでは分からず、プロテオーム解析が細胞や組織を理解する上で有効な手段となりうることを示唆している。

 事業的にはヒトたんぱく質にフォーカスしてるけども、潜在需要としては医療だけでなく農業、食品、環境といった分野への応用も期待できそうですね。

企業概要

 Seer Biosciences Inc.として知られているらしく、2018年7月に社名をSeer Inc.に変更してますね。2017年に設立され、カリフォルニア州レッドウッドシティーを拠点としています。できたてホヤホヤの会社です。
こんなできたてでIPOできるってことは相当な期待が寄せられてるということではなかろうか。2020年9月30日現在、従業員数は米国に拠点を置く60人。その多くは博士号を取得しているとのこと。Drの集団ですわ。このうち46名が研究職に従事し、14名が販売、その他活動に従事。

 会長はOmid Farokhzadって人です。この人かなりのやり手。1969年生まれのイラン系アメリカ人のお医者さんです。ハーバード大学医学部の麻酔学教授をやられておるとのこと。2016年にエリス島名誉勲章を受賞、2018年に米国発明家アカデミーに選出されてます。彼は医療用途向けに無数のナノテクノロジーを開発し、160以上の論文と、200以上特許出してるそうな。それら開発された技術をベースに、以下3つの会社の立ち上げのトリガーになってるみたいです。

- BIND Therapeutics(後にファイザーに買収)
- Selecta Biosciences
- Tarveda Therapeutics 

下のリンクはOmid Farokhzad氏の紹介ページです

 正直言って天才やん。特許のロイヤリティでバリバリ儲かるやつ!

 それから現社長のOmead Ostadanって人はIllumina出身の人ですね。Illuminaは合成DNAの次世代シーケンサー(ハード)を開発してたりするので、その辺の技術もSEERの製品に応用or 流用されてる可能性は高そうです。
いずれにしても、経営層は業界に精通したプロフェッショナル達なので、技術面に関してはそれなりに信頼できそうなメンツなのかなと思いました。

ビジネスモデル

S-1に記載のビジネス内容を流用

研究者が深く公平な生物学的情報を解き放つよう、変革的な製品を製品化することで、卓越した科学的成果を実現することを目指しています。当社の初期製品であるプロテオグラフ製品(Proteograph)は、独自のエンジニアリングされたナノ粒子(NP)技術を活用して、プロテオーム全体で公平で深く、迅速かつ大規模なアクセスを提供します。当社のプロテオグラフ製品は、消耗品、オートメーション機器、ソフトウェアで構成される統合ソリューションです。当社のプロテオグラフは、次世代シーケンシング(NGS)技術がゲノミクスを変革した方法と同様に、研究者がプロテオミクス研究を大規模に行うことを可能にする可能性を秘めていると考えています。

 以降技術的な内容に触れていこうと思います。目論見書の内容抜粋し、掻い摘んで記載します。

プロテオミクスの重要性
プロテオミクスは、タンパク質レベルにおける生物学を理解するため重要な焦点となっています。生物の中で事実上すべての機能は、タンパク質またはタンパク質のグループが互いに相互作用し、協調して働くことの作用によって起こる。例えば、酵素は化学的および生化学的反応を触媒し、ホルモンは細胞プロセスを調節し、受容体はシグナル検出を促進し、抗体は免疫を提供し、タンパク質はまた、細胞および細胞下構造、貯蔵、運動性、および輸送プロセスにおいて機能する。タンパク質は、状態の動的指標であり、人の健康、疾患の進行および治療を追跡するために使用することができる。対照的に、DNAは事実上、人の生理学が何であるかの青写真であり、現在の生理学的状態の指標ではない。
タンパク質が生物学や生理学に与える影響にもかかわらず、ヒトプロテオームはヒトゲノムに比べて未踏領域です。この10年間、大規模なデータ収集技術を通じて生物学や疾患のメカニズムの理解は大きく進んできましたが、これらの進歩は主にゲノミクスにあると考えています。NGSを含む分子プロファイリング技術の普及により、配列決定されたすべてのゲノムで約6億9,500万個の遺伝的変異が同定されました。この情報は生物学の理解を著しく改善しましたが、タンパク質レベルの機能の大部分について確立されていません。言い換えれば、研究者は、適切な遺伝子情報とタンパク質の情報を結び付けることができなかったのです。

 下の図はゲノム/たんぱく質解析におけるaccessibilityとutilityの関係図です。このトレードオフをブレイクスルーすることがSEERの狙いになります。

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プロテオームへのアクセスの課題
ヒトプロテオームは、ゲノムやトランスクリプトーム(特定の状況下において細胞中に存在する全てのmRNA(ないしは 一次転写産物 の総体を指す呼称)よりも、構造、組成、変異体の数が動的で、はるかに複雑で多様です。ゲノムから始めて、プロテオームに到達するために起こる複数の生物学的ステップがあり、各ステップが複雑さと多様性を高めています。さらに、これらの形態の多様性は、健康と病気の状態によって異なる可能性があります。既存のプロテオミクス法の根本的な課題は、プロテオームの複雑さの広さと深さを迅速かつ大規模に測定できないことであると考えています。

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プロテオミクスに対するアプローチの限界
血漿中のタンパク質の濃度は、アルブミンである最も豊富なタンパク質からサイトカインなどの最も豊富なタンパク質の一部まで、10桁の大きさに及ぶ可能性があります。最も豊富なタンパク質の上位22個は、血漿中のタンパク質量全体の約99%を占めていますが、質量によってタンパク質全体の他の1%に相当する、何千もの少数なタンパク質が大きな影響を与えます。

 たんぱく質の組成、変異が動的に変化する際に、質量中のたった1%のたんぱく質が重要機能を有していることから、そこにフォーカスして解析する必要があるということでしょうね。

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独自のエンジニアリングナノ粒子技術当社独自の設計されたNP技術は、既存の方法の限界を克服し、迅速かつスケーラブルなプロテオミクス分析を可能する。

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 ナノ粒子技術について、公開特許を読み理解することができました。どうやら、このナノ粒子は触媒作用を持つ化合物から生成することができて、その触媒作用を利用し選択的に特定たんぱく質を吸着/生成に寄与する代物ものみたいです。触媒って化学工場とか自動車の排ガスを浄化する機能に使ってたり結構一般的に普及した技術ですね。
実際、patentにはナノ粒子はPt(プラチナ)等の金属化合物を利用することもできる、と記載がありました。
 さらに、特筆すべきは、機械学習を使用して、ナノ粒子を設計、合成できる点だと思います。ナノ技術に関する特許が30件以上出願されているらしいので、patent調べると機械学習に該当するpatentがありました。
まあ普通に考えてこんなことITの力を駆使しないと到底出来っこない芸当に思えますよね。

 昨年の2019年10月31日にUSで公開になってます。驚くべきはその請求項の数ですね、96個あります。これガチホンの特許です。ざっとみたところ、全て理解はできてませんが、たんぱく質種をスコアデータセットという形でコード定義することで定量化し、たんぱく質種を自動同定できるようにしてるっぽいように見えますね。たんぱく質の定量同定については、S-1および特許の内容から読み取ると、質量分析がベースになっているように見えます。

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 ところで、最終的に得られるたんぱく質を検出する際に、ナノ粒子って外乱因子にならないのか?と思いましたが、たぶん実際の運用上は問題ないように設計してるんだと思います。

 理由について私見を述べると、たんぱく質を検出をする際に、機械学習を用いて質量分析法を応用した定量同定で判別するものと考えられますが、化合物からなるナノ粒子の組成は予めわかっているハズなので、検出する際にナノ粒子の化合物質量を差分して相殺すれば良いだけいけそうですね。
その処理を装置にプログラム化させてあげれば、合成/組成された純粋なたんぱく質の質量が検出できるんじゃないかあ、と推定しました。
不要になったナノ粒子の行方は不明ですが、、、ww 

 加えて、S-1に記載があったのは、精密測定装置はハミルトン社に依存しているという点ですね。記載はなかったですが、その他にも恐らく、機械学習に使う大規模解析のハードは、Illuminaの使ってるんじゃないかなあと推定してます。

 ちなみに、特許の探し方は先日ぺねろぺ隊長から教えてもらったGoogle patentで調べました。他にもいっぱい引っかかりますのでご興味があれば。

 またコア技術を理解する上で、従来のたんぱく質解析方法に対する理解を深めたいということであれば以下リンクが参考になると思います。


 SEERのソリューションは上記のようなたんぱく質解析のハイパースループットを売りにしていることです。機械学習によるたんぱく質の自動同定技術と近年マシンパワー向上による大規模解析が可能な環境が整備されてきたことによって実現できるんだと思います。どうやら、24時間で48サンプルを処理できるらしい。従来方法だと数日から数週間かかる可能性があるとのことなので、リードタイムでいけばかなり短縮されてます。またこの解析装置は第三者のプロバイダに委託することができ、研究者がデータを解釈し、洞察を得るのに役立つデータ分析ソフトウェアの提供も含まれるとのこと。

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 さらにさらに、測定の正確さも優秀さを主張しています。精度とは、測定されたタンパク質の存在量がサンプル中の真の存在量にどれだけ近いかを指しす、と定義されてます。下の図をみると確かに従来方法よりもバラツキのバンドが狭くなっており、幾分良さそうです。

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 測定の正確さはどこから来るか、というと、前述で述べてきたナノ粒子技術であるとか、機械学習からくるものと思われます。抽出できるたんぱく質の濃さが別次元に見えます。

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 最終的な商業販売に至っては、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院とライセンス契約してるみたいです。

2017年12月、当社はBWHと独占的な特許ライセンス契約を締結し、ナノ粒子およびバイオセンサー組成物やその他のナノ粒子組成物を使用して生物学的状態を特定する方法に関連する1つの特許ファミリーで、特定の米国および外国特許および特許出願に対して、独占的なロイヤリティを持つサブライセンスを取得しました。
契約に基づいて付与されたライセンスを考慮して、契約期間中にライセンス製品の最初の商業販売を開始する前に、BWH年間ライセンス料を支払う必要があります。

 共同成果ってことなんでしょうね。商業販売するとどれくらいの割合かわからないけども、ロイヤリティを支払う必要があるとのこと。

 注意が必要なのは、SEERの製品は実はまだ事業は開始してなく、製品の評価/検証段階にあるようです。以下の3段階の計画経て販売をするとのこと。本格的に売上計上されるのは2022年以降になりそうです。つまり当面は売上ありません。それまでは株価は上下しそうですし、計画がうまく進まないと叩き売られるリスクはありそうです。

STEP1: 主要オピニオンリーダーと協力(2020年末まで)
STEP2: 研究機関へのプロテオグラフを販売(2021年)
STEP3:商業化(2022年初頭)

 これらステップの協力者、提供者については記載されてなかったので不明。まあでも普通に考えたら大体こうゆうのって業界のリーダーや大手とやるのが定石でしょうね。

 またこのデバイスはFDAの承認対象となるようです。クラスがⅠ~Ⅲまであって、区分の定義は何で、どこに該当するのか調べてないのでよくわかりませんが、暴騰/暴落トリガーの1つとしてFDA承認 or Notはあり得そう。

市場環境

 320億ドルのプロテオミクス市場のうち、250億ドルは試薬に、50億ドルは機器に、20億ドルはサービスに費やされると推定されています。アライド・マーケット・リサーチの推計によると、世界のプロテオミクス市場は2019年に320億ドルで、2024年には640億ドルに成長し、年間成長率は15%に達する見込みらしい。市場環境は明るいと言えます。

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競合

目論見書によるとかなりの競合が挙げられてました。

Agilent Technologies
Bio-Rad Laboratories
Danaher
Luminex
Merck
Thermo Fisher Scientific
Nautilus Biotechnology
Olink Proteomics
Quanterix
SomaLogic

 差別化する手段として知的財産が挙げられています。既に先行して出願してる有効patentが、ナノ粒子技術に関しては2026年、バイオ流体中のバイオマーカーの同定方法については2037年に特許が切れる見込みとのこと。さらにバイオマーカーの同定技術に関しては、第3者による欧州特許出願も認識しているとのことです。そうゆう意味ではしばらく競争優位性はあるかもしれませんが、今後さらに革新的な技術を競合が開発してくるリスクは常にあると思います。

業績

売上ないので見る意味ないと思ってますが、ガンガン投資してますね。

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今回IPOするのは、デュアルクラスストックの内のクラスAになるみたいです。

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ファウンドはいくつかありますが、ソフトバンクも購入するらしい。さすがの目利w

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株価
IPOの公募価格は$19で、昨日$48でスタートし$56.46で引けてます。
バリュエーションとか現時点でわかりませんw
しばらくの間は夢を買うようなもんでしょうね。

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雑感

個人的にはどこかで買いたい。とはいえ、本格的に売り上げ乗ってくるのが2022年だとすると、株価は乱高下する展開もあり得るんじゃないかなあ。恐らく、検証ステージが上がるたびに公募増資とかもあり得そう、と勝手に予想してるので、その辺りで株価下落したタイミングかつ、FDAの承認前のどこかでINしたいと思ってる。
これってTWSTとSEER合併したら効果絶大?


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