ケトルベルクリーン&スナッチ入門編
今回はスイングの次にぶつかる壁として登場してくる、クリーンとスナッチをご紹介していきます。
まずこの記事を読み進める前に!
大前提として、クリーンもスナッチも、スイングをやり込んでいないと安全な実施が難しいことが予測されるため、スイングに自身がない方はスイングを先ずはマスターしましょう。
スイングでお悩みがある方は、下の記事を参考にしてみてください。
また、スナッチでは頭上に重りを持ち上げることから、トルコ式ゲットアップを安全に行えることも重要な要素となります。
クリーンやスナッチを上手く実施できない、または難しいと感じる場合、上記2つの種目をマスター出来ていないことがほとんどです。
先ずは土台となる種目を固めてから、当記事を読み進めていただければ幸いです。
そもそもクリーンって?
基本的なケトルベル種目は大きく分けて、
・バリスティック種目
・グラインダー種目
の2つに大別できます。
バリスティック種目は、全身の瞬間的な緊張と弛緩を繰り返すような動きで、ケトルベルのバリスティック種目では股関節から生み出されるパワーを重点的に鍛えていけます。
これは、走る、投げる、跳ぶだけでなく、様々な動きに通じる要素となりますので、人間らしい動きを更に力強くすることが可能となります。
グラインダー種目では、弛緩のない持続的な緊張を用い、特に安定性に関わるような筋力を高めることが可能となります。
高い安定性は、より高いパワー発揮には不可欠ですから、バリスティック種目をより強くしてくれる可能性があると言えるでしょう。
クリーンもスナッチも、前者のバリスティック種目に分類され、ケトルベル種目として代表的なスイングと並び、股関節の伸展パワーを開発する素晴らしい種目です。
バーベルでもクリーンと呼ばれるパワー向上を目的とした種目があります。最初に競技として登場した際に、肩の上に載せるまではバーが体に触れてはならないというルールがあったようで、きれいな状態で挙げるという意味合いでクリーンの呼称がついたようです。
現代のウエイトリフティングで行われるようなクリーンでは、2ndプルと呼ばれるバーとカラダをコンタクトさせる瞬間がありますが、ケトルベルにはそのようなものがありません。そういった意味では、ケトルベルのクリーンは本来の意味のクリーンであると言えますね。
バーベルを用いたクリーンでは、鉛直(床に対して垂直)方向に挙上します。一方で、ケトルベルは鉛直方向に振り上げているようには見えないかもしれませんが、スイングの要領で水平方向(前方)に力を伝えたケトルベルを、上半身で鉛直方向に誘導していくことが重要になります。
動作をしっかりと理解せず、上半身で引き上げ過ぎたり、逆に上半身の力が使えていないとケトルベルで前腕を強打してしまいますし、ラックポジションでは肩に対して不自然な姿勢を取りやすく、最悪の場合は肩を脱臼します。
冒頭で元Strong First マスターインストラクターで Iron Tamerの愛称で知られる Dave Whitley 氏の言葉を拝借しております。
彼が言うように、あくまでもスイングの延長線上にクリーンは存在していますので、スイングができていない場合はクリーンにすすまない、クリーンがうまく行えない場合はスイングをやり込むといった対応をすることで、ほぼ全ての事故は未然に防げます。
ケトルベルクリーンは、プレスやスクワットなどの種目前に行う動作というイメージを持っている方が多いと思いますが、下半身で生み出した力を上半身でコントロールし、鉛直に引き上げる動作にはスイング以上に筋肉の緊張と脱力の要素が必要で、それだけでも反復してマスターする価値があります。
また、動作の中で筋肉の緊張を強調し力を発揮する局面と、筋肉を脱力させて素早い動きをする局面がある種目はなかなかありませんが、日常生活や競技動作では頻出する動きになります。
これが、動ける体(使える筋肉)作りにはケトルベルと言われる所以かもしれませんね。
ちなみに、ケトルベルをやれば、なにかの競技で動ける体が作れるということはありませんが、純粋な筋力やパワーの向上、筋肉の緊張と脱力のコントロール、単一の筋肉だけに頼らない体の使い方を覚えることで競技などに繋がる可能性はあります。単純に=で結び付けられることではないのでご注意を。
そもそもスナッチって?
ケトルベルスナッチは、ケトルベルリフティングで皇帝と呼ばれる種目であります。
見た目のインパクトや体感強度の高さから、頻繁に実施している、または実施したいと考えている方々が多い種目だと思います。
先程と同じようにDave Whitley氏は、スナッチは頭上で終わるスイング、つまり、スイングの延長線であるということを説明しており、スイングを先ずは習得する必要性を理解しておかなければなりません。
バーベルで行うスナッチも存在しますが、バーベルスナッチよりもケトルベルスナッチでは高回数を反復することに適しており、低負荷域でのパワー(スピード重視のパワー)を高めつつ、心肺機能や筋持久力の向上を目的として取り入れることができます。
クリーンでも同じことが言えますが、バーベルを用いた方法と比較して、スピード優位(負荷が小さい)、完全な鉛直方向の運動でない、肩や手首の負担が少ない、反復して動作をすることができるといったことが特徴的ですが、バーベルで行う2種目よりも技術的な要素が少なく取得が容易であり、手首や股関節の可動域が高くなくても実施可能なことも忘れてはなりません。
元RKCマスターインストラクターの Kenneth jay氏の著作「Viking Warrior Conditioning 」(1)には、ケトルベルスナッチを扱い、科学的に立証されたプログラムを紹介してくれています。
彼の著作では、ケトルベルスナッチは短い時間で高い仕事量をこなし、上半身が活動的に動作へ関与しているため、ケトルベルスイングよりも有酸素性運動能力を刺激すると説明しており、各レップで高い負荷に耐えるためにバルサルバ方と呼ばれる呼吸を行うことで、左心室の壁を肥厚させる(求心性肥大)刺激が引き起こされ、全身性の反復した運動は左心室の拡張(遠心性肥大)を刺激します。
ウエイトトレーニングのような無酸素性運動で起こる求心性肥大、ジョギングのような有酸素性運動で起こる遠心性肥大、この2つをまとめて刺激することができるってやらない理由がないですよね!
また、ケトルベルスイングやスナッチでは、エキセントリック局面で(広背筋などを用いて)オーバースピードを意識出来れば、SSC(ストレッチショートニングサイクル)の効果により高いパワー発揮が可能となり、結果的に高いカロリー消費に繫がります。
この2つの局面での極限に高めた加速こそが全ての効果を発揮させ、この2つを達成できなければ、これらの利点はどれも存在しないとKenneth氏は説明しています。
彼は、ケトルベルスナッチでサイのように強く、競走馬のように持久性の高い弾力ある鋼の心臓を手にすることが出来ると断言しています。
まずは片手スイング
クリーンとスナッチは片手で1つのケトルベルを扱う必要があるため、両手スイングしか行ったことがない方は片手で行うスイングを習得する必要があります。
片手スイングだけでも素晴らしい種目ではありますが、クリーンとスナッチを行うには最低限の動きができれば問題ありませんので、ここでは最低限の流れを掴み取ってもらえる方法をご紹介し、片手スイングの考察はまた次の記事に委ねたいと思います。
ハンドルに反対の手を添えた方法
スイングでは、両手、片手問わず同じ体の動きをすることが求められます。
よくある誤りとしては、片手で行うと大きく体を捻ってしまうことが挙げられますので、段階を踏んで片手スイングの感覚を養っていくと良いでしょう。
まずは、両手スイングと同じフォームで行う感覚を感じ取るために、反対の手はハンドルに触れたまま行ってみましょう。
H2H(Hand to Hand)スイング
片手で振る感覚が養えたら、次は交互にケトルベルを持ち変える方法を試してみましょう。
この種目は、ヒップヒンジのタイミングがズレている方やハンドルを握り過ぎてしまう方への修正としても役立ちます。
また、スナッチやクリーンを行っている際に、床に置かずに左右の手を入れ替える方法としてもH2Hスイングは頻繁に行われます。
片手スイング
H2Hスイングが問題なくできたら、片手で連続のスイングを行ってみましょう。
大きく体が捻れたり、ケトルベルの後方移動が上手くできない場合は、重さを軽くして練習してみましょう。
特に問題なく出来れば、クリーンとスナッチを行う準備が出来たと言えるでしょう。
動作解説(クリーン)
まずは開始準備です。
ケトルベルと足が三角形を描くように準備してください。
ケトルベルはつま先から、大体一足分(2~30センチ)離れた位置に置くと良いでしょう。
✔足とケトルベルは三角形を描く
次にヒップヒンジを行います。
ヒップヒンジを行わずにハンドルを握りに行く人が非常に多いです。トレーニングで大切なのは準備です。
必ずヒップヒンジを先に行ってください。
ヒップヒンジを実施視する前に、息を吐き、肋骨を引き下げた状態が作れると一層良いです。
✔握る前に、先ずはヒップヒンジ
ハンドルを握ります。
握る位置はどこでも問題ありませんが、クリーンに慣れていない場合は、小指側に詰めて握ると手を差し込む際に遊びが作れるので行い易くなると思います。
✔握り方も工夫する
この姿勢も抜けがちな部分です。
軽くケトルベルを引き寄せながら底面を浮かせ、耳から肩を引き離すようにして肩周りを安定させた姿勢を作ってください。
この動作は体幹の安定性にも関わりますので、安定した動作を行うためにも必ず実施してください。正面や横から見た際に、両肩が同じ高さにしましょう。
何度でもいいますが、大切なのは準備です。
✔肩は耳から引き離す
✔開始前の準備が大切
次にハイクパス(後方へ引く)に移ります。
親指でお尻を指差す形で肩を捻って(内旋)行うことで、肩の外旋筋群を伸張させることで筋緊張を引き出し、肩の安定性が高めることが期待できます。難しい場合は、まっすぐ行っても構いませんが、親指が地面を指差す(肘のシワが正面)方法は、競技スタイルでは一般的ですが、肘が過伸展してしまうのでここでは避けてください。クリーンに移る際も、上腕二頭筋を過剰に使ってしまうフォームになりがちです。
このときに、両足の真ん中ではなく、ケトルベルを持っている側に引く(持っている側の内腿に前腕が触れる)ことで、体が捻れてしまうことを最小限に行うことができます。
✔肩は内回しに動く
✔前腕は内ももに当たる
✔カラダは捻らない
ここから次の動作まで、スイングと同じ動きになりますが、クリーンではラックポジションまでの移動距離が少ないため、股関節伸展を全力で行うことは少ないです。
多くの初心者は下半身の出力が低すぎる場合が多いですが、高すぎてうまく行かない場合もあることを覚えておきましょう。
ここで1つだけ意識したい点は、ハイクパスの姿勢では肋骨に上腕が接している状態でしたが、ここでも意識的に上腕を体に引き寄せて同じ状態を作っておきます。
✔肋骨と腕は密着し続ける
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