龍の存在を信じた体験
ゴォー‼︎
もの凄い地響きのような音と共にわたしの背後から突風がやって来た。
わたしはその突風に背中を押されて、一瞬にして目の前の細い上り坂を駆け登っていた。
目的地は箱根九頭龍神社本宮と白龍神社。
雲の中にいるような深い霧の中、薄暗く周囲には人の姿は見えず、どこまで行っても森の一本道。
さっきから何十分歩いてるんだろう。
疲れたし心細いしで半泣き状態だった。
「もうやだ歩けない!助けてよー!」
心の中で叫んでいた。
そして次の瞬間、冒頭のような出来事が起こって
あっさりと上り坂を駆け登ってしまったのだ。
きつねにつままれたような出来事で呆然とするわたし。
ひぇ〜風に助けられた…。
事の初めは看護師の仕事をやめようかなと思っていた夏真っ盛りの頃。
普段は初詣に行くくらいで、あまり神社には行ったことがないわたし。
でも、そんなわたしでもたまに何度も同じ神社の名前を耳にしたり画像を偶然見たりということが起こる。
いわゆるツウな人が言うところの『呼ばれる』という現象なのかなと。
今回もそうだった。
何度となく九頭龍神社という名前が入ってきて、さすがにこれは行ってみようかという気分になった。
もしかしたら看護師を辞めるきっかけになるのかなという思いもあった。
九頭龍神社は今回で2回目。
最初のときはなぜか夫を連れて行った。
夫はわたし以上に神社に行くような人ではないが、道中楽しく日帰り旅行気分で行ってきた。
後々考えると、このときは夫を九頭龍神社の隣の箱根神社に連れて行くことが大事だったとわかったが、それはまたの機会に。
よし行こう!
今回はひとりで、念願の九頭龍神社本宮と白龍神社に行こう。
朝から快晴で日傘を持ち、ルンルン気分で家を出た。このときは日傘が雨傘になるとは思いもしなかったが…。
電車の乗り継ぎもスムーズで
「わぁ、わたしホントに呼ばれてるわ〜」
と、ワクワクが止まらなかった。
箱根の山を登るまでは…。
箱根湯本駅前からバスに乗り山道を登って行った。バスの振動が心地よく、うつらうつらし始めて、目を開けた瞬間。
「ここどこ⁉︎」
窓の外は道沿いの木も見えないほどの霧の中だった。霧というか雲のよう。
5分くらいしか眠ってないのに。
驚いてしまった。
その後山の上の天気はずっと濃霧と霧雨だったが、美味しい天丼を食べ、気を取り直して神社に向かった。
まず箱根神社、九頭龍神社新宮に参拝。
さぁ念願の九頭龍神社本宮と白龍神社に向かおう!
しかしすぐに気分は消沈した。
目的地まで行く方法が無いのだ…。
濃霧のため芦ノ湖の遊覧船は出ず。
バスも無い。
歩きなんてとんでもないと蕎麦屋のおかみさんに言われ、蕎麦屋の裏にあるレンタサイクルは訳がわからず使えない。
やっとのことでタクシーを見つけて乗り込んだ。
運転手さん曰く
「本宮まで行く方法があまりなくなっちゃったんですよね。車が通れるギリギリの所まで行くから、そこからは歩きで行ってください。いいですか、焦らず楽しい気持ちで真っ直ぐ進んでくださいね。いってらっしゃい」
「え、ここをずっと行くんですか…」
木が繁った薄暗い道を見て、少し尻込みしてしまった。
でも念願の場所にたどり着けるんだと思い、運転手さんにお礼を言って意を決して歩き始めた。
初めのうちはうれしい気分が勝っていた。
でもどれだけ歩いても誰ともすれ違わないし、早足で歩いているから段々と足首が疲れてきた。
「この道でいいんだよね」
しまいには不安になってきた。
すると先の方から年配のご夫婦が歩いてきたので胸を撫で下ろす。
そしてまたひとりひたすら歩く。
何十分歩いてるんだろう…。
薄暗い木のトンネルをひたすら歩く。
まるで修行のようだ。
周りの音も聞こえない。
わたしはこんなところで何をしているんだろう。
心身共に疲れがピークに達し、目の前の上り坂を見てもう歩けないと心が砕けはじめた。
呼ばれたと思ったからここまで来たのに、気のせいだったのかなぁ。
こんな思いまでして、信じてバカみたいだな。
悲しくなって、腹立たしくて、どうしようもなくて心の中でわたしは文句を言った。
「もうやだ歩けない!助けてよー!」
呼ぶくらいなら助けてくれ。
神様がいるならちゃんと導いてくれ。
わたしは怒っていた。
その瞬間。
ゴォー‼︎
もの凄い地響きのような音と共にわたしの背後から突風がやって来た。
わたしはその突風に背中を押されて、一瞬にして目の前の細い上り坂を駆け登っていた。
「え、なに?」
疲れて登れないと思っていた坂をあっという間に登っていたわたし。
訳もわからないまま、でも気を取り直しゴールを目指した。
そしてやっと念願の本宮にたどり着くと、今まで誰もいなかったのに数人の人たちが参拝していた。
「あ、あそこだ。よかった」
そばまで行くと「どうぞ」と先にいた人たちが場所を譲ってくれて、ゆっくり参拝することができた。
そして戻り際、最後の目的地の白龍神社に立ち寄りご挨拶and先ほど悪態をついたことをお詫びした。
「さっきはごめんなさい。そして坂道押してくれてありがとうございます。そしてそしていつもありがとうございます」
ほっとした気分で白龍神社の脇の小道を通り、芝の広場に出たとき、また
ゴォー‼︎
先ほどの地響きのような低い音が曇り空から聴こえたと同時に周りの木々が突風でうねり始めた。
「あ、挨拶してくれてる」
わたしやっぱり来てよかったんだ。
よくがんばったねと言われたようで嬉しかった。
その後は、バスは通っていないと言われていたのに偶然にも(世の中偶然は無いが)港までバスに乗ることができた。
その後のバスの乗り継ぎもスムーズで、無事に箱根湯本まで戻って来れた。
しかし驚いたことに、山の上はあんなに霧雨が降っていたのに下山したらカンカン照りだったこと。
なんだか長い長い出来事のようで、というか夢の中の出来事のようで不思議な気分だった。
ゴォーという鳴き声を聴き、そして背中を押してもらえて、わたしは今まで半信半疑だった龍の存在を信じてしまった。
そして『看護師を辞める』という希望はこの日を境に『予定』に変わり、スルスルと話が進んだ。
今わたしは看護師を辞めることができ、長年働き詰めだった人生のあとのご褒美の時期に入ったところだ。
自由を満喫して、自分最優先に暮らすことができている。
あの日は人生折り返し地点だった。
わたし龍に会えたんだな。
龍に会えてよかったな。
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