【映画感想】 キングスマン:ファースト・エージェント 【ネタバレ含む】
●今回の映画「The King's Man」
「The King's Man」邦題が「キングスマン:ファースト・エージェント」(以下FAなど)なんだけど、だいぶ雰囲気が違くない?
とはいえ「Kingsman」と「King's Man」の違いを日本語で出せと言われても困るだろうけども。
偶然にも一作目の「Kingsman: The Secret Service」→「キングスマン」の時と逆パターンなのはちょっとおもしろいかもしれない。
○初代と比較しながら振り返る
さて、キングスマンFAの感想なのだが、
見終わってからしばらく、なんというか感想があまりしゃきっとしていなかった。何か物足りないのはキングスマン初代(以下初代、1など)が良すぎて後発が霞んで見えるパシフィック・リム現象みたいなものかな……とぼんやり思っていた。
しかし、冷静にFAの構成……というかむしろ初代の構成要素を改めて考えてみるとしっくりきた。
構成する味付けが違うのだ。
醤油ラーメン食べに行くかーと思ってたものの、店で出てきたのは醤油テイストのスープパスタだった。みたいな。
それならもっと早く気付けと言われりゃそりゃそうなんだけど、なんかこう……ところどころ合ってるというか、大筋では合ってる感じで、絶妙に気づきにくいというか、なまじ初代が良すぎたんかな……っていう前例が有るだけにそっちか……?という疑念から抜け出せてなかった。
改めてキングスマン1の要素を振り返ると、
舞台はおおよそ現代
不良少年だったエグジーの成長。
ガラハッドことハリーとの親子のような、時に厳しい信頼関係。
キングスマンの実行部隊と育成機関まで備えた『秘密組織』の雰囲気。
絶妙に近未来なハイテクスパイグッズ。
敵は怪しいフリーWiFiおじさんと両義足の女兵士で、個性がある。
英国紳士がスーツで暴れまくる。
英国紳士がスーツで暴れ回るキャッチーで痛快なアクションと、近未来スパイ感。
敵役も個性が強くて魅力的だと尚すばらしい。
そんな痛快さがある。
というか、主に波のスパイ映画の枠を飛び越えてヒットしたのは、痛快なハイテクガジェットアクションと魅力的なキャラクター達の活躍が大きいと個人的には分析している。
もちろん、リズミカルに頭を爆発させるようなブラックジョークのキマった演出もかかせない。
そして今回のファースト・エージェント
舞台は1900年前後
退役した金持ち兵士オーランドとその息子コンラッド。
暗躍する黒幕『羊飼い』とラスプーチン。
国家間の戦争に駆り出される若者(コンラッド)と、退役した父親世代の確執
政治家信用してても埒が明かないから超国家秘密組織作るか。
ざっと洗い出しても基本的な構成要素も異なる。
擬似的な親子であったハリーとエグジーの要素を、実の親子のオーランドとコンラッドで、初代の全世界規模のテロリストとの戦いを、FAは国家間戦争を英国に有利に誘導する為に暗躍。
ここらへんがギリギリ共通項としてかすってるような……そうでないような。
魅力的な敵役の存在というのはやはり大きい。
先述の通り、怪しいフリーWiFiおじさんことサミュエル…もといリッチモンドや、キングスマン ゴールデン・サークル(以下2など)でも一応顔役というか、敵サイドのアイコンになる女性がいた。
が、今回の黒幕「羊飼い」は最終盤まで正体を隠している。
その上、10名程度の部下も率いているが、フィーチャーされたのは「ラスプーチン」と「マタ」(マタ・ハリ)くらいである。
いや他のやつらも活躍してたやつはいたんだよ、数名。ただまあなんというか、正直誰でもいいというか、キャラ薄いというか……。
なんなら、その他枠全部まとめて一人の強めにキャラを立たせた男にして、そいつに集約させた方がよかったんじゃないかと思う。
『羊飼い』が頑なに顔を隠しているのはまあトリックというか、味方サイドだと思ってた誰かだよー、なんだけど、そこまでがっつり前に出てきたやつってわけでもないので、顔見せた瞬間「誰だ…?」、オーランドの回想で「あー君か」ってなるような。
なんならこの映画、敵サイドで一番キャラ立ってたのラスプーチンだしな……。
ここで盛大にネタバレするんだけど。PVで主役ヴィランみたいな扱いされてるけどあいつ中盤で死ぬんだ。一番キャラ立ってたのに……。
けどPVとしてラスプーチンとのブリティッシュ皮肉シーンをチョイスするのは大正解で、一番『キングスマン』味したのはラスプーチン戦前後と言っていい。
引き際も正直ちょっとあっさりした描き方だったので、帰路を追っかけてくるなり、再び立ちふさがるなりするのかと思ったけど、どっちもしなかったのはびっくりしたな……。
キングスマン味の8割くらいあいつが締めてたのに…(残りの2割くらいはオーランドがスーツで暴れる要素)
初代でいうガゼル的なキャッチーな悪役バトルキャラ枠がラスプーチンで、リッチモンドポジションの羊飼いにももうちょっとキャッチーさというか、キャラクターとしての個性があってしかるべきなのだがそっちが薄い。
というか、ヴィランサイドのキャラクター集合場面でもラスプーチン一人だけ浮いてるんだよな。
超ライトなコスプレハロウィンに一人だけガチガチの特殊メイクしてるような浮き方なんだけど、むしろガチガチ枠で固めた方が是だろ、って感じの会合なので、ラスプーチンが逆浮きしてる状況はそもそもダメじゃない……?
超国家ネットワークを敷くくだりはまあ……あんま描かれるわけでもないし別にいいとして、時代設定が1900年前後とはいえ、もう少しハイテクのかけらでもいいから見たかったとこあるよなぁ。
メガネモニターとか、疑似透過ディスプレイ防弾傘とか、そういう近未来スパイガジェットは厳しいにしても、1900年当時的近未来ガジェット程度は見せてほしかったところはある。
過去視点での近未来描写は現代人にはインパクトが薄くなりがち(例えば携帯電話は当時からすれば十分未来的だが、現代人は慣れきっているような)で塩梅が難しいのはわかるが、そこはケレン味を効かせるというか、なにかしら欲しかったわけよ。
Q.キングスマン特有の軽快痛快大暴れシーンはあったのかい!?
A.あったよ!! ラスプーチン戦!!
……やっぱりラスプーチンか。
戦闘シーンも一番ケレン味が効いてたのはラスプーチン戦でしたね。
「バレエダンサーか?」って煽られてたけど、そのラスプーチンのバレエの回転みたいな剣技めちゃくちゃケレン味効いてて最高だったもんな。
他のシーンは近未来ガジェットが出るでもない、なんか科学的なチートってわけでもない。
なんというか、凡庸なスパイ映画なんだよな…。あんま近未来ガジェット出ない感じのミッション・インポッシブルとか007とか、そういう感じ。
その二作は特殊ガジェット出ないなら出ないで別の魅力があろうもんなんだけど、本作に至ってはキングスマン味はラスプーチンがほとんど持っていって、あとが凡庸というか、取り立てて突出してるわけではないというか……。
そして本作のもう一つの構成要素にしてキングスマン味がほぼしないパートだが、戦争に駆り出される若者、というか愛国心の為に散っていく若者世代の話。
――を世代を代表して主人公の息子コンラッドが背負ったパート。
言い方が悪いが凡庸な戦争映画のそれから対して変わらんのよな…。
無駄に丁寧に幼少期から描写が有り、青年期に軍に志願するも父に反対され、父とともにラスプーチンを妥当し、正式に軍属し、悲劇に遭う。
なんていうか……。うーん。
まあもう一回盛大なネタバレとしてコンラッドも死ぬんだよね。
ラスプーチン→コンラッド入軍→前線にて死す
うーーーん。こんだけ色々やって、父親と執事(ショーラ)と共にラスプーチンと死闘を繰り広げて、戦場で泥臭く死ぬ。
キングスマンの味じゃないんだよな。戦争映画味。
せめて悲惨に生き残ってコンラッドがそこを糧として超国家機関キングスマンの設立に関わるとか、過激派変革派に鞍替えするでもいいけど、『息子が悲しく死んじゃった。政治家に任せてたらこのまま息子みたいなのが死にゆく世界やから超国家機関作るで!』に持っていくにはコンラッドの話しすぎなんだよな。
ラスプーチン戦前から入軍に志願したかったけど、断られてて、父と共闘してラスプーチン倒しました。までやったなら、「実戦はこんなにも悲惨で辛いんや」とか「命のやり取りを軽く見てたよ……」とか、一旦冷静に考える→次のアクション→軍ではできない僕らにできることを…みたいに、いくらでもキャラを立てて話を回す手はあるんだけど、「断る理由だった年齢はクリアしたから入軍するね!→死」はあまりにも料理が下手。というか、無情というか……。
映画序盤から出てきた子供が大きくなって、父親と共にラスプーチンというヴィランまで倒しておいて、そこまで愛着持たせたキャラなんだぜ…。いやまあ巧妙なトリックの為に死なせる展開はあるかもしれないけど、そこまで唸らせる程素敵な展開ではなかったんだわ。
仮に「反対押し切って戦争いきました!」 まで通したとて、いくらでもその後の料理のしようはあるんですよね。それこそ、片手なり片足なり落として義手義足になりながら帰ってきて「こんな悲しい戦争は起こしちゃいけない…」って目覚めるとか、
生き残ってたラスプーチンなり、羊飼い一派なりの企みを知って、上層部に報告してもダメで、父のとこに駆け込むとか、それこそ派手に人質にされてもいいし、いくらでももっと上手い活かし方はあったんだよな。
死に方も……まあ地味でなぁ……。
コンラッドは描かれ方として「浅慮」って属性が先行して書かれているのかもしれない。
前線から帰還させようとする父のはからいを蹴った。その為に仕込んだ件のせいで死因に至っているが、こんなしょーもない殺し方するには、長い話で愛着を湧かせすぎている。
ややジャンルは異なるが、鉄血のオルフェンズのオルガ・イツカの死を彷彿とさせるものがある。鉄華団の行く末を先に示しておけば、散りゆく者たちの話、として評価され、鉄血のオルフェンズという作品そのものがこんなにガタガタ言われることはなかったのではないか、という評があるが、今回のコンラッドの件も似たようなモヤり方をしている。
オルガでいえば48話積み重ねてきた愛着が大した深みのない場面で摘み取られる。コンラッドも映画の中盤のイベントを乗り越えた後(50話換算すると35話前後程度?)、大した深みのない死に方をしている。
もっと派手な死なら納得したのか?と問われると微妙だが、少なくとも今よりはましなのでは?というあたりがよく似ている。
なんというか、長い間かけて培ってきた愛着を持ったキャラクターが、雑に死んだ(理由付けはあるにしても雑に見える死に方をした)というのが共通して引っかかるというか、消化不良感というか、スッキリさせないところがある。
ついでのように更に比較すると、オルガの死は三日月ら鉄華団を奮起させた。コンラッドの死はオーランドを奮起させた。
鉄華団は後に壊滅していて、オーランドは今回の件を片付けてキングスマンを結成するに至ったのでその後こそ異なるが、結論として「別の人物の奮起の為の死が雑」という言葉で纏められると思う。
思えばコレが一番引っかかってる要素かもしれんな……?
一度おさらいしてみよう。
ヴィランサイドがラスプーチン以外薄い。
本作のキングスマン味の8割を占めるラスプーチンは中盤退場
近未来ガジェットの類はほぼ無い。
コンラッドの死の扱いが下手
ブリティッシュ皮肉はラスプーチン戦が全盛期
スーツで暴れる男は見れるっちゃあ見れるが、あんまりスーツ印象はない。
スーツの印象ないの!?
ないね……。
スーツ買うシーンはある。
ラスプーチン戦はコンラッドはスーツだけど、オーランドは下脱いでるし執事はバトラー装束。
戦争編のコンラッドは基本軍服。
前線だとキルトっていうスカートみたいな伝統衣装を身にまとってるぞ。諜報員戦のオーランドはスーツ。
終盤のオーランド、上からフライト装備とかジャケット類来てるからその下がわからん。
スーツかもしれないけど前日のチェックみたいなとこだとラフな格好してたし、スーツじゃないかもしれない。
服飾の印象としてはラスプーチンの黒尽くめ神父服と、イングランドの伝統衣装のキルトで前線に立つコンラッドがツートップですね。
……スーツは……?
『大筋はあってた気がする』とか上の方に書いていたが、そんなにあっても無いな……?
いや、なんかぼけーーっとしてると大筋は合ってる気がするくらい「ラスプーチン戦あたり」がそれっぽかったんだって…!
○総評
総評すると、
スパイ物っぽく始まり、キングスマンらしい戦いがあり、
凡庸な戦争映画を経て、凡庸なミッション・インポッシブルで終わった。
※ミッション・インポッシブルを悪く言っているわけではないく、本記事で使いまくっているいわゆる『ミッション・インポッシブル味』的な話。
多分見終わった時感想の方向性が判然としなかったのは、ラスプーチン戦のあたりで『そこそこにキングスマン味があった』って印象持っちゃうせいな気がする。
いや、むしろラスプーチン戦でちゃんとそれっぽい味付けできていたからこそ、他のシーンのキングスマン味のなさが逆に浮き彫りになるというか、他のシーンはどうしたの?ってなっちゃう。
あと最終盤で「マナー・メイクス・マン」のワードが出てくる。
けどまあなんかアレだな…。って感じ。
求めてた味は一部入ってたんだよ。
冒頭のラーメンの例えを再び用いるなら、多分チャーシューとメンマはめっちゃ馴染みのある味だったんだと思う。
そんな感じ。
劇場で見ようっていうなら別に止めはしないけど、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」をまだ見てないなら今すぐそっちを見て欲しい。
ファンの見たかったものを百点満点どころか、オーバーキルなくらいに求めてた物を出してくれるし、思いがけないファンサービスがめちゃくちゃ多い今世紀最高傑作では!?!?!?ってなるくらいのスーパー最高映画だから。
予習はスパイダーマンについてうっすら知ってるなら最悪無くてもいい。
初代3作、アメイジング2作みて、MCUスパイダーマンもまあ最悪二作で行ける。
ノーウェイホーム唯一の欠点がMCUの既存作品なぞるのがめちゃくちゃ大変って一点に尽きる。
……おっとキングスマンの話だった。
ノーウェイホームの話はまたの機会にしよう。
あまりにボロカスに言ってしまったけど、1900年前後の英国紳士っぽい雰囲気をしっかり作ってはいるので、ほんとキングスマン味じゃないだけで見応えはあったよ。
オーランドのレイフ・ファインズは、コリン・ファースを思い出す英国人らしい雰囲気を醸し出してたし、青年になって以降のコンラッドを演じるハリス・ディキンソンも、絶妙にあどけなさを残した面立ちが役にとてもあってたし、前線ではハリスのスカート姿(正確にはイングランドの伝統衣装キルトだが、まあ広義にはスカートよ)が見れる。
○どうでもいいけどコレ伏線だったのか
序盤の飛行機で屋敷に帰ってくるシーンの後、コンラッドがショーラをフライトに誘ったが断っているシーンがある。
ディテールは曖昧だが、
ショーラ「人間は空を飛ぶように神は作ってない」
コンラッド「君は自動車は運転するだろ。」
コンラッド「人間にタイヤはついてないぞ」
的な軽い会話でそのシーン自体は終わったんだが、終盤で出てくる「ショーラが高所恐怖症」って旨の伏線というか、事前に提示された情報ではあったんだなって。
正直軽口程度にしか見てなかった。
あと一言二言、例えば
「……怖いのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
みたいな風に盛っておけば「この執事(ショーラ)は高所恐怖症(もしくは飛行機が苦手)なんだな」程度の印象を付与できた気がするが、現状の上記の会話だけだと、単に執事の業務に差し障るだとか、今からはちょっと……みたいな程度の印象しかなかったので、もうちょっとわかりやすくしても良かったんじゃないか?と思う。
○おまけ:海外の評価
ちなみにロッテントマト評だと トマト42%:観客80%
軽くしかみていないが、向こうでも007のパロにしても微妙、王国主義のジェームズ・ボンド、愛国戦争映画とメロドラマの中途半端パックだとか散々な言われようだった。評価点高いほうだとファインズとかラスプーチンに対する評価が多い印象。
観客スコア80でてるのは個人的にちょっと意外だった。
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