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あの子には影がない


恋人と久しぶりに喧嘩になった。「別れたい」って初めて言った。
いなくなってしまったら、世界がどれほどくすんで見えるか分かっているはずなのに、全てが嫌になると関係をすぐ切ろうとするのは私のよくないところだ。恋人はたんたんと、別にこんなくだらない事で別れる必要はないと思う。と言っていた。そうだった、彼の、きちんと自分だけのスピードで生きているところを好きになった。感情や周りを見てアクセルを踏み込んだりしない。そういう好きなところに救われたこと、きちんと覚えておいたほうがいい。あんなに好きで手に入れたかった人をそんなふうに扱ったらいけないよ。

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いつまでも夢みたいな話ばかりをして生きていきたいけどそれは無理だね。って現実を酒の肴にして新宿で飲んだ。15時から集まって22時解散。帰りに「1杯だけおごらせてください!」って声かけてきた人が5lackに少し似ていたけど「もう終電なんで」って断ったら「どんな田舎に!」って言われたけど、本当にその“どんな田舎”に帰ってる途中。いつかの日曜日の話。

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37歳はキャリアというより人生の駒をどう進めていくかをものすごく悩む歳だなと思う。思い返せばそれは34歳も35歳もそうだったけど、結婚や仕事や家や欲しいもの、やりたいこと、しなきゃいけないこと、健康のこと、家族のこと。「笑い皺ならいいじゃん」と軽く扱われる目の横の溝や重力に逆らう様子のないおっぱい。肌の皺より深く悩みが濃くなっていく。解決などしないまま月曜日を迎えて、頭の隅に追いやった悩みとともに一週間を過ごしていく。3年経ったら40歳。きちんと生きているだろうか。もう「30代半ば」を意識して生きていくのに疲れたから、明日のネイルは秋を意識したシックな赤ネイルじゃなくてギャルみたいなネイルにしようと思う。好きに生きるってこんなに辛かったっけ?
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相手に気を許してないと自分からほとんど連絡をできない性分と、友人の”分別”がとてもシリアスということ。悩みの種になるなら何も言わずに離れることを選ぶような、とてもわかりやすく子供っぽいところがあるので、今までずっと友人でいてくれる人たちには感謝をしている。本当に。親友なんかはとくに、25の時地元に戻って私を正しい道に戻させてくれた人だから、喧嘩しても何があってもずっと尊敬しているというところに変わりはない。どんなに遠くに行っても、私の一喜一憂を心配してくれる人がいるということを忘れずに、また次に住む場所に思いを馳せるよ。私が大切な人にそうでありたいように。

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車を買った。シボレーのエルカミーノ。85年製のアメ車。同い年の36歳。
少し塗装がやれたピーナツバター色の車体と、ベンチシートに憧れ続けたコラムシフト。3人乗りの、カリフォルニアからきたばかりのかっこいい車。車の運転がこんなにいいものだなんて知らなかった。流れる景色をぼやっと見てずっと助手席に座っていたけど、自分の意志で大きな乗り物を動かす方がもっと楽しい。でも1つ気づいたことがあった。どこまでも行けるようになったら、どこまでもは行かないってこと。

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友人からとても嬉しい報告が届いた。彼女とはいろんな思い出があるから、また違う形で言葉で残そうと思う。ハッピーでいてほしい人がハッピーでいてくれるとこんなに気持ちって充実するんだ、と電話をしながら思った。その日、彼女が猫になる夢をみた。私は猫の頭を撫でながら泣いていた。どこか、東京のビルの屋上で。猫は私の手を頭で軽く避けてから軽やかに走ってどこかに跳んでいってしまった。どこへ行っても幸せでいてね、どんなふうに転んでも助けてくれる人が隣にいてね、またハッピーなことがあったら教えてね。そうやってずっと友達でいようね。

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寒くなってきた。寒いのは好きだけど苦手だ。友人がサーフボードを届けにきた。帰りに「あげる」ともらった巻きタバコを、コーヒーを飲みながら一段と寒いキッチンで吸った。天井の高い場所に取りつけてある換気扇はごうごうと言いながら勢いよく回って煙を吸い込んでいく。久しぶりに吸ったタバコはやっぱりまずい。かちゃかちゃと爪をたてながらリビングからファジーが私の足元にきた。「臭い?ごめんね」といって手に持ったタバコをそのまま消した。苦い味を消すために歯磨きをした。ふわふわの靴下を履いているのに、冷えた床のせいで足が寒い。眠るのに時間がかかりそうだな、と思う。リビングに戻ると、暖かい乾燥した空気に包まれる。ソファに座ると、ファジーも横にくっついて座る。トリミングしたばかりのふわふわの、さらさらの毛を撫でる。寒い日がいいなと思う時、音楽が全部クリアに聞こえるところ、空が高くて空気がすんでるところ、寂しくなったりしたら季節のせいにできるところ、美味しくてあたたかいご飯、ファジーと恋人の暖かさがよりわかるところ。

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寝ても寝ても眠い。知らないことは想像できない。たとえばワニの皮膚の硬さとか、たとえば宇宙が広がっていくそのスピードとか、一緒に住んでる犬が何考えてるかとか。それぐらいの人間ってこと。

集中して書くためのコーヒー代になって、ラブと共に私の体の一部になります。本当にありがとう。コメントをくれてもいいんだよ。