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季語研究 「芒」 -はらりとおもき-

★★★けろけろ道場 季語研究★★★
No.25【芒(すすき)】(三秋 / 植物)

● 概要
 芒はイネ科の多年草。秋に多数の枝を広げ、一五から四〇センチの黄褐色から紫褐色の花穂を出す。花穂が開くと白い獣の尾のような形となり、尾花と呼ばれる。芒の穂が一斉に風になびくさまは美しい。
 秋の七草のひとつ。
 月見のおそなえとしてもよく用いられる。

【傍題】 薄(すすき) 尾花 花芒 鬼芒 糸薄 十寸穂の芒(ますほのすすき) 真赭の芒(まそほのすすき) 縞芒 鷹の羽芒 芒野 芒原

 十寸穂の芒(ますほのすすき)は十寸(約三〇センチ)あるもの。
 真赭(まそほ)は穂が赤みを帯びて輝いているという意味。
 縞芒・鷹の羽芒は葉に白い模様がある。

● 季語分析と例句研究
 皆さん、お久しぶりです。けろけろ道場執筆者の成瀬源三です。今回は「芒」ということで、またまた難しい季語ですね。
 芒の使われ方を三つに分類したので、それぞれ例句を読んでいく形で季語分析をしたいと思います。

(1)地面に生えている芒の句
 たくさんの芒が風に一斉になびく光景が想起されます。平地一面の芒というよりは、山の斜面に生えている芒を小道から見ている図を想起するのですが、どうでしょうか。皆さんの意見も伺ってみたいところです。

眼の限り臥しゆく風の薄かな
-大魯-

風によって一面の芒が伏せる壮大な光景が目に浮かびます。

花薄風のもつれは風が解く
-福田蓼汀-

 やはり「芒」と「風」は切っても切れない関係のようで、「風」をより深く掘り下げた句は今回の俳句賞でも多数投句されることと思います。勿論「芒」に限らず「風」は俳句の重要ジャンルで、十七音でいかに「風」を描くかということは何千何万の挑戦がなされてきたところではあります。「今更私などが新しい表現など生み出せるはずがない」と思う前に、平凡でも自分なりの表現を試みることが大切なのではないでしょうか。

この道の富士になり行く芒かな
-河東碧梧桐-

道沿いに芒が長く続いているさまが目に浮かびます。

芒原鵺を見し子を魁に
-成瀬源三-

 芒に身を隠しながら、鵺を見る探検をする子供たちを描いた句です。上五「芒原」によって場面設定を説明して、中七下五でストーリーを描くという類型の句ですが、単なる場面設定にとどまらず季語としての味が生かされているかが評価のポイントになってくると考えられます。

(2)切り離された芒

をりとりてはらりとおもきすすきかな
-飯田蛇笏-

 近代俳句史上に輝く名句であり、私自身近代俳句の中で五指に入るほど好きな句です。
 一本の芒を折り取り持つという行為を描き、「はらり」という擬態語によりそれ以上でおそれ以下でもない芒の存在感がしっかりと伝わっています。折り取ったことでことで芒はやがて生命を失いますが、それもまた大いなる生命の連鎖の一つの場面であるように感じられます。
 流れるようなリズムの美しさ、小さな光景から無限の想像力を掻き立てる広がり。いつかこんな句が詠みたいと思わせる名句中の名句です。
 なお、『増殖する俳句歳時記』の清水哲男先生の評では、「あの茎はとても強くてしぶといです」、「学生時代にはじめて掲句に出会ったとき、私は蛇笏を人並外れた怪力の持ち主かと思いましたね」とあり、なるほど確かにそうかも知れないと笑ってしまいました。

羊群の最後はススキ持つ少年
-藤本敏史-

 こちらは人気番組「プレバト!!」より、夏井いつき先生がプレバト史上最高の句と言っても過言ではないと大絶賛した作品です。
 羊群という引きのカメラの映像の小道具として芒が使われていますが、全体の映像をしっかり描きながら、季語「芒」の持ち味を生かすことに成功しています。
 別のメイン句材があって「芒」を小道具として使うパターンは案外少なく、同種の句を詠むにあたって非常に参考になる句といえるのではないでしょうか。

(3)生け花
 「芒」を生け花として使った句も多くみられました。生け花をする人は多数派ではないので、現代俳句においてそれほど多く詠まれる分野ではないのかなという気はします。

野にありし全長を生け穂の芒
-鷹羽狩行-

薄活けて一と間に風の湧くごとし
-佐野美智-

◆ 主要参考文献
『合本 俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版)
ウェブサイト『増殖する俳句歳時記』

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