誰に宛てるでもない手紙 (5月)

映画を観終わったところでなんだか眠れなくなってしまい、この手紙をコリコリと書いています。僕は、5月に入って毎日散歩をするようになりました。15分の時もあれば2時間歩く時もあります。なんで今まで散歩をしてこなかったんだろう?と思うほど病みつきになってしまっています。目的もなくただ歩くというのは一見無意味なように思えますが、いつもは素通りしていた景色に出会えたり、家までの近道や素敵な公園を見つけることができます。それだけではなく、ずっと悩んでいたものが歩いているうちにホロホロと解けていったり、ふとあの人に連絡してみようかなと思ったりもします。今や散歩は僕の生活の一部になっていて、とりあえず自粛期間が終わるまでは続けてみようかなと思っています。
 さて、それ以外に僕の生活には何の変化はありません。近況を報告しようと思えば前回の手紙と全く同じ内容を書くことになってしまいます。昼に目覚めて朝食兼昼食を食べて映画を観て散歩してたまに空を眺めて風呂に入って晩ご飯を食べてまたスヤスヤと眠るだけです。これの繰り返しです。本来、非日常であったものがだんだんと日常を浸食して、やがて逆転しているようにも思えます。もしかしたら君もそうかもしれないけれど、僕は意味もなくムシャクシャしたり気分が滅入ることがあります。そんなとき僕は、小学生の夏休みのある1日のことを思い出します。
 その日は朝から自由水泳があって、10時から小学校のプールへと向かいました。天気予報にあったように、20分ほど泳いだあたりで段々と雲行きが怪しくなってポツポツと雨が降り出しついには大きな雷が鳴り、係の人が「全員上がれー!」と叫び、その日の自由水泳はそれで中止になってしまいました。まぁ仕方ないかと思って着替えを済ませ、帰る用意をしたのだけれど傘を持っておらず、土砂降りの雨の中を走って帰ることになりました。その道中、知らない車が僕の方にグイーンと近づいてきて、なんだなんだと思っていると後ろの席の窓が開き、そこには当時好きだった女の子が乗っていました。女の子は優しく「乗ってきなよ」と言ってくれたのだけど、なんだか僕はもっとこの雨の中を走りたい気持ちになってしまい、女の子の誘いを断って土砂降りの雨の中、少しだけ遠回りをして走って帰りました。
 この頃、なんだかこのオチも何もないただの一日のことを思い出したりします。もしかしたらその日が僕にとっての"とっておき"の日常なのかもしれません。君にも"とっておき"の日常があればぜひ聞かせてください。こんな生活が続くけれど音楽を聞ける喜びであったり散歩に出かけて綺麗な花を見つけた幸せとか、そういう気持ちは忙しなく過ぎていく生活の中では気付けなかったことかもしれません。この時期が重要なんだ!勉強をしたり資格をとって毎日を充実させよう!なんて言う人もいるけど僕はそうは思いません。時間たっぷり使ってゴロゴロしています。ところで、君は元気ですか?元気だと嬉しいです。また手紙を書きます。さようなら。

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