デート

大学の時、一度だけ女の子とデートをした。他の学部の女の子だったけれど、何度か同じ講義になってデートする約束をした。とてもスタイルがよく美人な女の子だった。彼女の周りにはいつも人が集まっていた。講義が終わると僕たちは大学から二駅離れた街でなんとなく降りて商店街をしばらく散歩して途中で小さな喫茶店に入った。彼女はクリームソーダを頼み、僕はアイス珈琲を頼んだ。「好きなタイプどんな人なの?」と彼女が聞いたので「わからない」と僕は答えた。隣の席では店の子供が宿題をやっていて、TVからは夕方のニュースが流れていた。「好きな人いないの?」と彼女が聞いたので僕は何も言わず首を振った。彼女は僕のアイス珈琲を一口飲んで「にがい!!」と言って笑った。外に出ると雨が降っていた。僕たちは誰かの家のガレージの隅で少し雨宿りをした。とても狭く肩が触れ合っていた。予報を見るとあと2時間は止まないので仕方なく映画館に入った。古い映画館だったので椅子がボロボロでお尻が痛くなった。映画が終わって明かりがつくと彼女は涙を流していた。僕はもちろん泣いていなかった。もう雨は止んでいたので、またしばらく散歩してからラーメン屋に行った。彼女が「ラーメン大好き!!」と言ったからだ。どこにでもあるようなラーメン屋に入って普通のラーメンを食べた。味は覚えていない。彼女は美味しい美味しいと言ってそれを食べた。また彼女は「恋人欲しくないの?」とか「芸能人は誰が好きなの?」とかそんな質問をして、また僕は「わからない」と答えた。店を出た後、駅まで歩き、彼女が僕に身を寄せて「まだ帰りたくないかも」と言った。

僕は何故かその時、無性に腹が立っていた。何が起因になったのかわからない。好きなタイプ、好きな芸能人、雨、映画、涙、ラーメン、「まだ帰りたくないかも」、セックスの匂い、その全てに腹立っていた。僕はそれを押し殺して「明日は一限だから今日はもう帰ろう」と言って彼女を見送ることもせずスタスタと帰ってしまった。電車に30分ほど乗ったところで   

僕はなんて冷たい人間なんだ、、、最低だ、、、  

と思った。でもそれを直接言ってしまったら本当になってしまうので何も言わなかった。それから連絡をとることもなく、デートすることもなかった。そのことを友達に話したら「もったいないなーやれたかもしれないのに」と言った。

高校の時にもこんなセリフ聞いたなと思い出した。高校の頃、まわりの人間がセックスをしているなんて思いもしなかった。本当に。キスくらいはするだろうと思っていたけれど、保健の教科書には『責任を持てるようになってから・・・』と書いていたので、僕はその記述通りに彼女に『責任を持てるようになってから・・・』と説明をしてそれを拒んでいたのだ。あとからそのことを友達に話すと「何言ってるんだ、みんなやりまくってたよ」と言った。僕は冷たすぎるし、よくわからないところで真面目すぎる。ともかく彼女はもっとまともな人間と付き合うべきだった。もっと背が高くて顔が良くて映画を見て一緒に涙を流せるようなそんな人と付き合うべきだと思った。(しばらくしてから彼女と大学の通りですれ違ったが、実際に背が高くて顔が良い男と笑いながら歩いていた。もちろん僕には見向きもしなかった。)


昨日の夜、眠れなくなって、なぜかそのデートことを思い出した。そして、今の僕がその当時に戻ったら彼女とどんなデートをするだろうかと考えた。彼女と付き合っていただろうか。でも僕はまた同じことをするかもしれない。まだ僕は散歩が好きだし、冷たすぎるし、よくわからないところで真面目なのだ。

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眠れない夜に

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