おっぱいなんて見たくないこの愛のゆくえも
※こちらの小説は以前書いたものですが、歌舞伎町文学賞のサイト上で読めなくなったためこちらに残しておきます。
冷蔵庫の中には牛乳と異臭を放つ消費期限切れの¨におわなっとう¨。他に食うべきものがなく買いに行くのも面倒なので恐る恐る口に入れた。が直ぐに吐いた。夏の夕暮れ、自転車を漕いでいると口に入ってくる大量の小さい虫の味を思い出した。今日で地球は滅亡する。詳しくは良く分からないが今日の0時、太陽が爆発し地球も蒸発して消えてしまうらしい。無意識に目をつぶってしまう。クソ。こんな人生なんてクソだ。お前に何がわかるんだよクソが。ちょうど滅亡してくれてよかった。ただ1度でいいから女とヤりたかったな…あーー……あ、そうだ…誰でもいいから犯そう…よし決めた。別にもう刑務所に入れられないし。殺されてもどうせみんな滅亡してみんな忘れるんだ…最後にヤリたい事やってから死ねばいいや。そう思うとテンションが上がっった。「ヴェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」と叫びながらカレンダーの今日の日付に「ヤる」と書いて、とりあえず外に出た。タンスの奥から引っ張り出してきた1番まともな服は何故か酸っぱい匂いを放っていたがそれを含めても1番まともだった。まず「女 やる方法」 で検索すると( 女性が少し弱っているような時に、抱きしめて慰めてあげ優しいキスでムードを作ってみてください )と書いてあった。成程。絶好のチャンス。知り合いには何人か女がいた。が全員ブスだったから嫌だった。どうせなら可愛い女がいい。探そう。外は雲1つのない紛れもない晴れ。小学生の頃、運動会の初めの挨拶で「雲1つのない…」と話す校長の真後ろに大きな雲が鎮座しておりムカついて朝礼台まで駆け寄り、ぶん殴ってしまったことがある。そんな事を思い出しながら青い空を見てると自分の考えが馬鹿らしく笑えてきた。こんな事で考え直してはいけないと思い地面を舐めた。コンクリートは塩っぽく勿論不味かったが少なくともさっきの¨におわなっとう¨よりは美味しかった。今、目指すべき場所は海しか無いなと思った。電車は全線休止していたし歩いて行ける所で綺麗な女がいそうな場所は海だ。「It’s romantic…」 海までは12キロ程あったが待っている女の事を思えば疲れを感じなかった。海に着いた頃には夕方だった。予想に反し海には誰も居なかった。とりあえず浜辺に座り夕日を眺める事にした。驚くほどに赤く膨張した太陽は全てのもの、感情、を溶かしてしまいそうで本当に滅亡するんだ…と思った。その時、「何してるの?」といきなり女が話しかけてきた。女の顔は赤く照らされよく見えなかった。が他には誰も居ないしコイツにしようと思った。「お、お前、お前とヤリたい」と言った。女は不思議そうな顔でこちらを見つめている。どうしていいのか分からなくなって女の左耳を出来るだけ奥歯で噛んだ。「痛っ…」と言うのを聞いてから抱きしめて優しくキスをした。( 女性が少し弱っているような時に、抱きしめて慰めてあげ優しいキスでムードを作ってみてください )「いきなりなに?どうしたの?」と女は驚いた声で言った。「お前とヤりたい。何もしない。お前とヤリたいだけ…。地球が滅亡するまでに1度ヤリたい。だから海に来た」「何言ってんのか分かんないしなんで耳噛まれたのか分かんないけど、そんなにヤリたいならやらせてあげてもいいよ、でも条件がある」「だまれ、条件ってなんだ?だまれ」「話し相手になってよ。一人でいると寂しくなっちゃって。私も話し相手探しに海に来たの。そしたらあなたが太陽を見ていてその横顔が素敵で、それで話しかけようと思ったの」「だまれ。いつやるんだ?だまれ」「あと5時間30分話し相手になってくれたら最後の30分好きなようにやらしてあげる。そのほうがロマンティックでしょ?」たしかにそれも悪くないと思った。「It’s romantic…」と言うと女も「It’s romantic」と言った。 「だまれ」それから5時間くらいずっと話をした。あまり内容は覚えていないけど多分好きな食べ物とか映画とかそんな他愛もない話だった。5時間半を過ぎた辺りから女が突然泣き始めた。初めはしくしくと泣いていたが少しずつ体が揺さぶられて身体の全ての細胞がボロボロと壊れていく様だった。今まで見た事のない泣き方だった。話しかけても目は虚ろで何を見ているのか何を考えているのか分からない。知りたいと思った。知りたいと思う気持ちが何故か悲しくて怖くて涙が溢れ出て止まらなかった。二人とも鼻水や涙やよく分からない液体でぐしょぐしょに濡れてしまった。無意識に目をつぶってしまう。クソ。地球が鼓動する音が聞こえる。波が打ち寄せる音が聞こえる。地割れ。何処からか叫び声が聞こえる。女が服を脱ぎブラジャーを外す音が聞こえる。もうおっぱいなんて見たくない。女を強く抱きしめた。抱きしめても震えは止まらなかった。辺りは全てが赤く照らされ。熱く。太陽が唸りを上げながら膨張していく。この美しい景色はあと数分で消えてしまう。もう少しこの女を抱きしめていたい。一緒にいて欲しいと思った。女の名前さえ聞いていなかった。でもいい。これでいいんだ。どうせ全部消えてしまう。何もかも。この愛のゆくえも
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?